中元すず香は1000年に一度の歌姫か①(第7回)
BABYMETALの魅力の多くの部分を占めるのが、VocalであるSU-METALこと中元すず香の圧倒的な歌唱力にある、といって異論を挟む人は少ないだろう。
彼女の声はとにかく圧倒的だ。
何がどう圧倒的なのか。
個人的な印象だが、つらつらと感じることを述べていきたい。
そもそも歌がうまい、とはどういうことなのか?
まず、音程がしっかりしている。音を外さない。
これは歌い手として大前提だが、SU-METALの音程の安定度は、抜群だ。...
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BABYMETALの魅力の多くの部分を占めるのが、VocalであるSU-METALこと中元すず香の圧倒的な歌唱力にある、といって異論を挟む人は少ないだろう。
彼女の声はとにかく圧倒的だ。
何がどう圧倒的なのか。
個人的な印象だが、つらつらと感じることを述べていきたい。
そもそも歌がうまい、とはどういうことなのか?
まず、音程がしっかりしている。音を外さない。
これは歌い手として大前提だが、SU-METALの音程の安定度は、抜群だ。だから激しいメタル曲でも、美しいバラートでも安心して聴くことができる。これは生来の音感や耳の良さ、そしてASHやさくら学院でのトレーニングの賜物だろう。
そして音域。
そのハイトーンは驚異的だ。天空を貫くような、人の魂を刺し貫くような高音域の素晴らしさは他の追随を許さない。このハイトーンボイスにメロメロになる者は数知れない。
それに案外見逃されがちなのが、中低音域の抜群の安定性だ。
とくに若い女性は、きれいな高音を出せる人はたまにいるが、中低音域をここまで安定して出せる人は実はとても少ない。
しかも音域は4オクターブから5オクターブはある。これなら、どのような曲も楽々と歌い上げることができるだろう。
さらに、声質。
どこまでも透明感にあふれる、濁りのないまっすぐな声。過去のビデオなど見ていると、生まれながらに身に付けていた声質という印象を強く受ける。これはもう天賦の才としかいようがない。とくにこの澄み切った声質で歌い上げる高音はたまらない。
発声法
高・中・低の音を豊かに響かすためには、ある程度訓練が必要だ。そのためには胸やお腹、喉の使い方がそれぞれ異なる。それもこれもほぼ訓練の賜物なのだが、ASH時代の中元すず香の発声を聴くと、ちゃんとボイストレーニングを受けたのであろうことが想像できる。誰もが学生時代、音楽の先生によくいわれたであろう「もっとお腹から声を出して」というあれだ。
しかしそのままだと合唱団のような歌い方になってしまうので、楽曲のジャンルによって歌唱法に変化をつけていく。彼女は幼少期からその成長の過程でさまざまなジャンルの曲を歌いこなせるようになっている。その進化の様子も驚異的だ。
加えて彼女はさくら学院時代に、アイドル的な歌唱法を身につけたのだろう。
アイドル声というのは、喉を細めて音を出し、その音を鼻から出す発声法。声量は出ないが、可愛い声が出る。アイドルと呼ばれている女の子たちの発声はほぼすべてこれ。だから可愛いかもしれないが、迫力はない。
ちなみにこのアイドル声にもかかわらず強い音圧を出すことのできたアイドルが、松田聖子。やはり彼女はバケモノだった。
中元すず香も、さくら学院時代はこのアイドル的な歌い方をしている曲がいくつかある。しかしSU-METALとなった現在では、曲やフレーズによって、正統派の発声からロック調、アイドル声まで、必要に応じて使い分けている。この幅広さには驚くほかない。
そして倍音。
SU-METALの声には、倍音成分がたっぷりと含まれている。倍音とは、ある音を出した時、その高さ以外の音がひそかに鳴る現象のこと。この倍音成分が多く含まれると、人はその音をより心地良い、快適と感じる。
豊かな倍音を出すためには、胸、喉、鼻腔などを使い分けるのだが、それにはある程度の訓練が必要だ。とくに高域の倍音を綺麗に出すためには、鼻腔がカギを握るといわれている。これを鼻腔共鳴というそうだ。
山口百恵や宇多田ヒカルの声にも、実はこの倍音声分が多く含まれていた。
そしてSU-METALの鼻腔共鳴は、全音域にわたってその効果が100%発揮されている。これはとても珍しい。
鼻腔共鳴は、文字通り鼻腔の構造により左右される。つまりSU-METALは、美しい倍音を出すための鼻腔構造を、生まれながらに持っていたことになる。まさに解剖学的にみても、彼女は天賦の才に恵まれているのだ。
こうしてSU-METALの豊かな倍音成分をたっぷりと含んだ声は、人々の耳に、魂に、心地よく滲み入っていく。
(今回のテーマ、語り尽くせなかったので次回に続く)
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「なんじゃこれゃ」の向こう側(第6回)
多くの人が、BABYMETALの楽曲を聴いてまず最初に抱く印象は、おおむね「なんじゃこりゃ?!」である。
ど重量のヘビーメタルサウンドに乗って、かわいい女の子が歌って踊っている。こんなの見たことも聴いたこともない。METALにしては可愛すぎるし、そもそもMETALにダンスなんて、ありえない。というのかおおかたの正しい反応である。
以上は主に見た目の印象だが、曲を聴いてみると、これももうありえないことだらけ。...
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多くの人が、BABYMETALの楽曲を聴いてまず最初に抱く印象は、おおむね「なんじゃこりゃ?!」である。
ど重量のヘビーメタルサウンドに乗って、かわいい女の子が歌って踊っている。こんなの見たことも聴いたこともない。METALにしては可愛すぎるし、そもそもMETALにダンスなんて、ありえない。というのかおおかたの正しい反応である。
以上は主に見た目の印象だが、曲を聴いてみると、これももうありえないことだらけ。
とくにインパクトが強かったのが、世界的にBABYMETALが注目を集めるきっかけとなった「ギミチョコ」だ。
「あたたたた、わたたたた」なんて入りは、メタルはおろか、J-popでも前代未聞。
目が点、口ポカーン、その開いた口がふさがらない。
あまりの衝撃(笑撃?)ぶりに消化不良を起こし、YouTubeをそっとと閉じた人も多いらしい。
この違和感は何なのか?
BABYMETALは「メタルとアイドルの融合」という触れ込みだが、実は楽曲的にはメタルとかわいい系のJ-popの組み合わせだけではない。
よくよく聴いてみると、ROCKやMETALはもとより、レゲエやパンクなど、さまざまな音楽ジャンルが、時にはむき出しに時には隠し味のように散りばめられているのを発見することができる。
つまりBABYMETALの楽曲の最大の特徴は「ミクスチャにもほどがる」ということなのだ。
たとえば「メギツネ」。
どの楽曲をきっかけにBABYMETALに嵌ったかは人それぞれだが、個人的にもBABYMETALに思い切りツボだったのもこの「メギツネ」だった。
「メギツネ」はまず琴の音(琴!)から始まり、大轟音のリズムでぶち上げ、和古謡のメロディ(サクラサクラ!)が奏でられ、すぐさまEDM(Electronic Dance Music)に移行する。しかもダンスはなんとヨサコイ。「それっ それっ」という威勢のいい掛け声に合わせて切々と歌い上げるVocalがかぶり、しかも歌い方まるで演歌(実際、レコーディングの前に『石川さゆりのように歌ってみて』という指示があったらしい)。そしてトドメが「鬼龍院花子」の名台詞、「なめたらいかんぜよ!」。
ミクスチャ、ここに極まれり。
これほどまでにいろいろな要素を詰め込めば、普通なら破綻を起こす。しかし、BABYMETALの楽曲は、いずれもなぜか上手くいっている。上手くいくはずのないものが上手くいっている。複雑なミクスチャが新たな化学反応を巻き起こし、どこにもない魅力的な楽曲に仕上がっている。不思議といえば不思議だが、それだけ作曲、編曲に意を尽くし、何度も練りなおしを重ねた結果なのだろう。
さすがにデビュー当初は、いろいろなジャンルをただぶつ切りにしてつなぎ合わせたような曲が多かった印象だが(それはそれで聴き慣れてくるとハマる)、この「メギツネ」や、その前の「IDZ」などは、ミクスチャの度合いがより洗練度を増している。
かわいくてすごい。かわいくてかっこいい。こんなジャンルはこれまでなかった。海外ではkawaiiMETALと呼ばれているそうだし、あえて命名するとしたらロリポップメタル?
さてさて、BABYMETALの次の新曲は、どんな新しいジャンルを取り入れて、どんな新しい化学反応を巻き起こしてくれるのか。それもまた、BABYMETALの楽しみ方のひとつだ。ただ、なかなか新曲が出ないのが玉にキズ、ではあるのだが。
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ローカル番組が世界に伝播する(第5回)
初の国内ツアーを大盛り上がりのうちに終え、いまBABYMETALのメンバーは一休み中なのだろうか?
今年、全国ネットでは早朝深夜の情報番組などでたまに紹介される程度で、歌番組への登場はゼロ。露出の少なさでも異彩を放っているBABYMETALだが、今回の国内ツアーでは、各地のローカル番組に登場し、インタビューに答えていた。
ローカル番組なので、観ることのできるのはそれぞれの地方の人だけ。...
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初の国内ツアーを大盛り上がりのうちに終え、いまBABYMETALのメンバーは一休み中なのだろうか?
今年、全国ネットでは早朝深夜の情報番組などでたまに紹介される程度で、歌番組への登場はゼロ。露出の少なさでも異彩を放っているBABYMETALだが、今回の国内ツアーでは、各地のローカル番組に登場し、インタビューに答えていた。
ローカル番組なので、観ることのできるのはそれぞれの地方の人だけ。ではあるのだが、このネット時代、そんなことではおさまらない。
地方限定の番組でも、現在ではファンの手で紹介部分だけが切りだされて動画サイトにアップされ、日本全国ばかりでなく全世界が視聴可能。実際、世界各国のさまざまな言語でのコメントが花盛りだ。実に効率的なプロモーションである。インタビューに答えるだけなので、時間も予算もかからない。仮にこれを宣伝費として換算すれば、莫大な金額になることだろう。
しかもインタビューなので、普段うかがい知れない素の彼女たちを観ることができる。これはとくにファンにはたまらない。
さらにそうしたインタビューで明らかになるは、彼女たちの行儀の良さ、謙虚さ、上品さといった、およそHEAVY METALとはかけ離れた控えめな態度だ。
これまではもっぱら反逆、反権力をテーマにしていたのがMETALだし、衣装やパフォーマンスも露悪趣味に走るのがMETALの常識だったから、BABYMETALの品のいい佇まいも新鮮だ。だからこそ自然と垣根が低くなり、老若男女、多くの層から人気を集めているのではないだろうか。
その理由として、彼女たちの育ちの良さもあるだろうし、さくら学院時代の“育成”の賜物であるといえるのかもしれない。
しかも音楽的には毎回より激しさを増す一方で、よりキャッチーに、よりかわいい、といった方向にもより加速がついてきている
BABYMETALがこれからどんな変貌をどけるのか、なにが起こるのか、予想がつかないだけに楽しみもまたますます膨らんでいく。
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ダイヤモンドを集め、徹底的に磨く(第4回)
さくら学院は、Amuseにおける虎の穴といえるだろう。
さくら学院はメンバーが全員10歳から15歳の小中学生だけ、という変わり種の期間限定ユニット。中学を卒業すればユニットも卒業し、各々ソロ活動に入る。
可愛い女の子たちが歌って踊る、いわゆるアイドルグループではあるのだが、いま時のアイドルには珍しく、ステージでは生声で歌っているし、ダンスは複雑で変幻自在、楽曲のレベルもかなり高い。
もともとのメンバーは前述したようにASHの卒業生や小学生向けの漫画雑誌の元・読者モデル、あるいはスカウト、Amuseのキッズスクール出身者など幅広く、いずれも珠玉ぞろい。...
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さくら学院は、Amuseにおける虎の穴といえるだろう。
さくら学院はメンバーが全員10歳から15歳の小中学生だけ、という変わり種の期間限定ユニット。中学を卒業すればユニットも卒業し、各々ソロ活動に入る。
可愛い女の子たちが歌って踊る、いわゆるアイドルグループではあるのだが、いま時のアイドルには珍しく、ステージでは生声で歌っているし、ダンスは複雑で変幻自在、楽曲のレベルもかなり高い。
もともとのメンバーは前述したようにASHの卒業生や小学生向けの漫画雑誌の元・読者モデル、あるいはスカウト、Amuseのキッズスクール出身者など幅広く、いずれも珠玉ぞろい。
つまりさくら学院は全Amuseから選びぬかれた逸材が揃う選抜ユニットなのだ。
しかも学院在籍中は「スーパーレディ」という目標のもと、歌やダンスだけでなく、礼儀作法や教養、そしてステージに立つ時のプロとして心構えなど、さまざまな角度から徹底的に“育成”される。
さくら学院の目的は売上ではなく『育成』である、と雑誌のインタビューでプロデューサーも明言している。大資本Amuseだからこそできるアプローチといえるが、素人芸だらけの芸能界ではこれは異彩を放つ。
振り返れば、日本の、とくに歌舞音曲の世界では、才能のある子どもたちを集めて、徹底的に仕込む、というのが通例だった。
今日ではそんな人権問題に抵触しそうな方法は通用しない。でもさくら学院のメンバーを見ていると、彼女たちが、決して強制されているのではなく自ら楽しみながら、抜群の育成環境の中で驚異的な成長を遂げている様子が窺い知れる。育て方がうまい、ともいえるが、個々人がみなダイヤモンドの原石として自ら光り輝くことを欲している、という姿勢がひしひしと伝わってくる。
そしてそのなかで大輪の花をさせつつあるのが、BABYMETALなのだ。
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さくら学院という育成システム(第3回)
BABYMETALの魅力を一言でいってしまえば、楽曲、歌唱、ダンス、演奏力、すべてにわたる圧倒的なパフォーマンスの高さだ。
なぜこれほどの高みが実現されたのだろう?
その理由の一つとして、Amuseの戦略的な育成システムをうかがいい知ることができる。
まずはフロント3姫の、個々人の略歴をざっとみてみたい。
SU-METAL(中元すず香)
1997年生、広島出身。3歳からモデルを始め、5歳の時、化粧品のイメージガールとしてグランプリを受賞。...
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BABYMETALの魅力を一言でいってしまえば、楽曲、歌唱、ダンス、演奏力、すべてにわたる圧倒的なパフォーマンスの高さだ。
なぜこれほどの高みが実現されたのだろう?
その理由の一つとして、Amuseの戦略的な育成システムをうかがいい知ることができる。
まずはフロント3姫の、個々人の略歴をざっとみてみたい。
SU-METAL(中元すず香)
1997年生、広島出身。3歳からモデルを始め、5歳の時、化粧品のイメージガールとしてグランプリを受賞。同時にいくかもの歌唱コンテストでグランプリを受賞し、2006年Perfumeを輩出したことで知られるアクターズスクール広島(ASH)に特待生(つまり学費無料)として入学。その後Amuseのスターキッズオーディションで準グランプリ受賞し、同社のキッズ部門に所属。アニメに連動した期間限定ユニット「可憐ガールズ」のメンバーとなり、終了後はさくら学院の初代メンバーとして参加。抜群の歌唱力でアイドル史上最高の歌姫との評判がもっぱら。
YUI-METAL(水野由結)
1999年生、神奈川県出身。8歳から読者モデルをはじめ、2008年、Amuseに所属。ダンスのレッスンを重ねながらドラマやCMにも出演。2010年8月、さくら学院の小等部に加入。愛くるしい顔立ちに似合わず、ダンスがべらぼうに上手。
MOA-METAL(菊地最愛)
1999年、愛知県出身。幼少期から雑誌モデルとして活動し、8歳の時、雑誌「ちゃお」のガールオーディション2007で準グランプリを受賞。その後Amuseに所属し、CMなどに出演する。2010年8月、さくら学院の小等部に加入。表現力(表情力?)抜群。頭の回転が早くトークもうまい。アイドル度200%。
上記のように、3人はいずれも幼少期から芸能界に入り、歌手、モデル、ダンサーとしてレッスンを重ねながら、雑誌のグラビアを飾ったり、ドラマのチョイ役やCMなどに出演するなど、地道な活動を続けてきた。
だからもともと彼女たちは、BABYMETAL以前に、すでに歌、ダンス、パフォーマンスそれぞれの面で、傑出したレベルに達していたといえる。
一般的に日本のアイドルは10代なかばにオーデションを受け、際立って可愛い、あるいは元気いっぱい、といった選考基準でグループに採用される。歌やダンスのレッスンはそれから。だからどうしても付け焼き刃の感が否めないし、いわば素人芸に終止する。
比較してBABYMETALの3人は、それぞれ幼少の頃からAmuseの養成枠の中で鍛錬を積み上げてきた。
3つ子の魂百までも、ではないけど、幼少期の10年の差はとてつもなく大きい。
ところで上記のASHや雑誌「ちゃお」とAmuseは深く連携している。また自社のキッズ部門もあり、多くの子供たちが明日のアイドル、明日のスターをめざしてレッスンに励んでいる。
つまりAmuseはさまざまにアンテナを広げ、才能ある若手をいち早く見つけ、幼い頃から徹底したレッスンを施していたことになる。
そして2010年、SU、YUI、MOAの3人は『さくら学院』というアイドルユニットで、奇跡の出会いを果たすことになる。
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