アイドルというお仕事②アミューズという会社(第22回)
ちょっと興味が湧いたので、アミューズの株主構成を調べてみた。
結果は以下のとおり。
1 株式会社オオサト 2,335,100株 27.05%
2 大里 洋吉 225,480株 2.61%
3 大里 久仁子 218,560株 2.53%
4 アミューズアーティスト持株会 210,420株 2.44%
5 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 177,600株 2.06%
6 日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口) 175,600株 2.03%
7 株式会社三菱東京UFJ銀行 129,600株 1.50%
8 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 118,800株 1.38%
9 MSCO CUSTOMER SECURITIES 113,900株 1.32%
10 アミューズ応援団 101,164株 1.17%
(参照:http://ir.amuse.co.jp/ir/stock/structure.html)
筆頭株主である「株式会社オオサト」は、創業者大里洋吉氏の家族・親族が主体となっている会社らしい。...
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ちょっと興味が湧いたので、アミューズの株主構成を調べてみた。
結果は以下のとおり。
1 株式会社オオサト 2,335,100株 27.05%
2 大里 洋吉 225,480株 2.61%
3 大里 久仁子 218,560株 2.53%
4 アミューズアーティスト持株会 210,420株 2.44%
5 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 177,600株 2.06%
6 日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口) 175,600株 2.03%
7 株式会社三菱東京UFJ銀行 129,600株 1.50%
8 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 118,800株 1.38%
9 MSCO CUSTOMER SECURITIES 113,900株 1.32%
10 アミューズ応援団 101,164株 1.17%
(参照:http://ir.amuse.co.jp/ir/stock/structure.html)
筆頭株主である「株式会社オオサト」は、創業者大里洋吉氏の家族・親族が主体となっている会社らしい。この会社が全体の30%弱の株式を保有しているので、いわゆる資産管理会社、イマドキの言葉でいえば経営安定化のためのホールディング企業的な位置づけだろう。
調べてみると、2012年に大里氏からこの株式会社オオサトに株式が譲渡されたようだ。このため大里氏本人の持ち株は2.61%に下落している。それと奥様である大里久仁子氏がやはり2.53%の株式を保有。結局大里一族の保有株式は、合わせて32.19%。この数字は実に絶妙だ。
ここで経済学の復習。
保有株式比率と議決権の関連について。
◯2/3(66%)以上
定款変更、監査役の解任、株主総会の特殊決議、
株主総会の特別決議の単独採決
◯1/2(50%)超
取締役の選任・解任、監査役の選任、計算書類の承認、
株主総会における普通決議の単独採決
◯1/3(33%)超
重要事項に対する特別決議を阻止(拒否権発動)
◯10%以上 解散請求
◯3%以上 株主総会の招集、帳簿の閲覧
◯1%以上 株主提案権
大里一族の保有株式は33%以下に該当するので、家族総出になれば株主総会の招集や解散請求はできるけれど、拒否権発動はできない。そもそも同族企業(ではないけれど)として保有率50%以下というのは、権利としてきわめて限定的。
だからたとえ創業者でも独断専行や個人的な一存での方針転換、気に食わない社員やタレントを簡単に首にする、なんてことはできない。
オーナー企業ならではの先見性や軽いフットワーク、というメリットも一面ではあるので一概に良い悪いはいえないだろうが、最近の某大手芸能プロダクションの妄言迷走を見るにつけ、アミューズの組織的戦略的アプローチが光る。
2014年にはすでにアメリカに子会社Amuse Group USAを、そして昨日(2016/01/27)には、フランスでアニソン海外発信のための合弁会社を開設設立している。
(参照:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1601/27/news130.html)。
あまりものを考えず博打性向の高い(失礼!)芸能やエンタメ業界のなかでは、アミューズの振る舞いは、一歩一歩着実に階段を上がり、周到に戦略を練り、時に思い切って挑戦する、という印象を受ける。
ただ以前大里氏の一声で韓流専門のミュージカル劇場を建てたけどコケた、といった失敗例もあるようだ。まぁエンタメビジネスであればいろんなことが起きることは仕方がない。しかしこの時の撤退も早かった。成功も失敗もいろいろあるだろうが、一部上場企業としての堅実かつ戦略的なアプローチが、業界固有の博打リスクを極限まで低減化している、とはいえそうだ。
バラエティやアイドルビジネスには実は弱い、といった得手不得手はもちろんあるのだろうが、それは今後の課題(そもそもやる気があるかどうかは知りませんが)。
そしてこの堅実かつ挑戦的という経営スタイルの上に、才能あふれる3人の女の子が奇跡的に出会い、丁寧に育てられ、独創的なユニットが生まれ、世界が驚嘆し、今も飛躍的な成長を遂げながら世界を攻め続けている。それがBABYMETAL、といえそうだ。
今のところいろいろなことがプラスに循環することで、BABYMETALはこれまで日本人の誰も経験できなかった驚異的な奇跡を次々と見せてくれている。願わくばこの好循環が、世界征服のその日まで続くことを切に望みたいし、アミューズさんにも大いに期待している。
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アイドルというお仕事①(第21回)
いつも人々の夢のあこがれの的になるアイドル。ただお仕事となると、当の本人はいろいろと大変そうだ。
人気商売なので、売れないと干上がるし、売れたら売れたで早朝から深夜まで、日々仕事に追い回される。深夜残業代や超過勤務手当などは当然出ないし、労働基準法などあってないがごとし。チヤホヤされる割には、(事務所にもよるだろうが)待遇もそんなによくはないらしい。
アイドルの殺人的な超過勤務ぶりを実際に目の当たりにしたのが、これまた大昔の話で恐縮だが、仕事で唯一アイドルを取材したことのある “ピンクレディ”だった(正しくは振付師の土居甫氏〈故人〉への取材だったが)。...
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いつも人々の夢のあこがれの的になるアイドル。ただお仕事となると、当の本人はいろいろと大変そうだ。
人気商売なので、売れないと干上がるし、売れたら売れたで早朝から深夜まで、日々仕事に追い回される。深夜残業代や超過勤務手当などは当然出ないし、労働基準法などあってないがごとし。チヤホヤされる割には、(事務所にもよるだろうが)待遇もそんなによくはないらしい。
アイドルの殺人的な超過勤務ぶりを実際に目の当たりにしたのが、これまた大昔の話で恐縮だが、仕事で唯一アイドルを取材したことのある “ピンクレディ”だった(正しくは振付師の土居甫氏〈故人〉への取材だったが)。
当時のピンクレディは一日何件もテレビ局やラジオ局、雑誌社などを回る超売れっ子。寝るのは移動時間の車の中だけ、といった惨状だった。約束から1時間ほど遅れて現れた彼女たちの顔色は、溜まりすぎた疲労のせいか青白さを通り越して土気色だったことを鮮明に覚えている。
その後、当時発表を間近に控えた新曲『サウスポー』のレッスンなど取材しながら、
「アイドルって、大変だなあ」
とつくづく恐れいったのだった。
そしてピンクレディの次に大きな注目を集めたアイドルが、“キャンディーズ”だった。やはり当時の歌番組はもとより、その頃盛んだった歌手がコントなどを披露するバラエティ番組にも数多く登場し、それこそキャンディーズを見ない日はない、という状況だった。
ただし彼女たちは、この状況に甘んじなかった。芸能界特有のそれら非人道的な環境に異議を唱え、「普通の女の子に戻りたい」と啖呵を切って解散してしまったのだ。
そしてこの時のキャンディーズを担当していたナベプロのマネジャーが、後にAmuseの創業者となる大里洋吉氏だった。
いくつかの噂サイトを回覧してみると、大里氏はキャンディーズの売り方に関して会社と対立し、それが独立の契機になったらしい。
ここからはまったくの推測だが、大里氏はアイドルをめぐる長年の場当たり的な売り方や非人間的な労働環境の改善を会社に申し出たのではないか。それが受け入れられなかったので、会社を辞めたのではないだろうか。
芸能プロダクションにとって、タレントは所詮儲けの駒である。しかも人気商売だから、劣化も早い。だから稼げるうちにできるだけ稼いでしまえ、という発想になりやすく、それがつまりは劣悪な労働環境へと直結する。
また経営体制、コンプライアンスなども脆弱だ。
多くの芸能プロダクションはタレントを数名抱えている程度の弱小企業が多く、またたとえ大手といえども家族経営程度の同族会社が多い。
このため同族内(つまり親子・親戚同士)の争いやプロパー社員との確執、あるいは血迷った老経営層の妄言などによって、タレントが干されたり首になることはしばしばある。
まぁ一部上場企業でも、みっともなく親子で跡目争いを繰り広げた某大手家具会社の例もあるから、ことは芸能界に限らないかもしれないが。
ただ芸能界は、もともと情動過多の人間が集まりやすい傾向の業界でもあり、恨みとか復讐などマイナスの方向に感情ベクトルが向かうと、なかなか修復するのが難しい。
「二度とこの業界には戻さない」とか「この業界から消す」といった物騒な物言いがひんぱんに飛び出し、一体どこの組の話か、と思うようなことも度々ある。
ただし人を使い捨てにするこうした趨勢もまた、なにも芸能界に限ったことではない。とくにバブル崩壊、派遣法成立、リーマン破綻などで日本経済がボロボロになった頃から、多くの企業も、即物的な採用と切り捨てを繰り返している。そこには人を育てる、個性を大切にする、挑戦しがいのある舞台を用意し本人の成長を促すなど、つまりは人材の地固めにより利益を生み出すという地道な経営努力が、ずっとないがしろにされて続けている。
そうした芸能界の趨勢に異を唱え、Amuseはタレントの個性や成長により、エンターテイメントを大きな成功に導くことを証明しようとしたのではないか。そして近代的、頭脳的、戦略的なマネジメント・スタイルを確立すべく、芸能プロダションとして唯一、業界唯一の株式上場を果たしたのではないか。
Amuseは所属タレントをとても大切にするプロダクションとして知られている。個々をタレントではなく、ミュージシャンやアーティストと呼び、クリエティブをとても重視している。実際サザンや福山雅治などは例外として、さくら学院やあまたの若手タレント&グループなどは、営業的に押し出しを強くすれば短期的にはもっと売れるだろうに、と思うことはしばしばある。
しかし決してゴリ押しはせず、個々の成長と自由な活動、そこから生まれるパフォーマンスの高さを重要視することで、たとえ短期的な利益はそこそこでも、長期的により大きな利益を生むことを実証しようとしているようにみえる。その代表的かつ爆発的な成功例となりつつあるが、BABYMETALではないだろうか。
(長くなったが、まだ少し言い足りないこともあるので、次回に続く)
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幼子たちのダンス(第20回)
BABYMETALがメジャーになりつつあった1、2年前から、動画サイトでは楽曲をカバーする人たちが急増している。腕に覚えのギター小僧やドラマーが難しいフレーズやリズムを見事に演奏し、視聴者?の注目を集めている。一方で素人に毛が生えたレベルの人も、下手の横好き(失礼!)で微笑ましいプレイの様子を公開している。
一方で、BABYMETALのダンスに魅入られた多くの人たちも、見よう見真似で自分流のダンスをネットに公開している。...
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BABYMETALがメジャーになりつつあった1、2年前から、動画サイトでは楽曲をカバーする人たちが急増している。腕に覚えのギター小僧やドラマーが難しいフレーズやリズムを見事に演奏し、視聴者?の注目を集めている。一方で素人に毛が生えたレベルの人も、下手の横好き(失礼!)で微笑ましいプレイの様子を公開している。
一方で、BABYMETALのダンスに魅入られた多くの人たちも、見よう見真似で自分流のダンスをネットに公開している。そのレベルも千差万別なのだが、なかには感心するほど上手の人もいれば、カワイイからいいんじゃない、とか、まぁ本人が楽しんでいるなら、といったレベルまでさまざまだ。ではあるのだけれど、そうしたダンス披露の動画のある一定以上の割合で、小さな子どもたちがいる。
年齢的には3歳くらいから10歳前後。もちろん本家の複雑なダンスは踊れないから、曲に合わせて激しくもぎこちなく、身体を前後左右斜めに動かしたりでんぐり返しをしたり、とにかくあちこち動き回るというダンスである。
最初は親が面白がってDVD(Blu-ray)や動画サイトを見せたのだろうが、以来今度は子どもたちが夢中になったようだ。
「家にいるたびに子どもにせがまれる」とか「見せないと(本人がひとしきり踊らないと)夕飯食べない」といった微笑ましいコメントが添えられていることが多い。
子どもたちの様子をみても、本当にBABYMETALの3姫と楽曲が大好きで、演奏やダンスを心から楽しんでいる様子が伝わってくる。
しかもこれは世界的な現象のようだ。白人も黒人もアジアもスパニッシュも、世界中の幼い子どもたちが、BABYMETALに夢中になっている様子が動画サイトに数多くアップされている。
個人的に印象的だったのは昨年(2015年)のMEXICOライブ。ババに連れて来てもらったであろう10歳前後の女の子が、目をキラキラさせながらステージを凝視し、一緒に歌おうと必死に口をパクパクしている動画が上げられていた。本当にBABYMETALが好きなんだなあ、ということがひしひしと伝わってくる。彼女にとってこのライブは一生記憶に残る貴重な経験となったことだろう。そしてBABYMETALをきっかけに日本への関心が高まり、十数年後、この子はきっと日本とMEXICOをつなぐ文化的架け橋となってくれるに違いない、と余計な期待も膨らんでしまった。
閑話休題。
さて、なぜBABYMETALはこのように小さな子どもたちの心を捉えることができるのだろうか?
ダンスは激しいし、第一メタルの轟音だし、なんでこんなちっちゃな子が?と、とても不思議に思う。運営側も、子どもたちからこんなに注目を集めるとは、まったく予想していなかったことだろう。
そういえば、と思いだしたのが、古すぎる例で恐縮だが、“ピンクレディ”だ。
もともとピンクレディも、若くてピチピチしたおねえさんに超ミニスカートをはかせ、際どいダンスを踊らせて、若い(中年も?)男性の気を引こうというコンセプトだった。しかしフタを開けてみたら、当初のねらいプラス以上の、若い、というか若すぎるちっちゃな女の子たちから絶大な人気を集めた。
当時の事務所が素人集団だったし低予算だったので、作詞作曲も振り付けも、現場のやりたい放題、というのが功を奏したのかもしれない。
こうしてピンクレディは、老若男女全世代が参加することで、わが国芸能史上空前絶後の大人気ユニットに化けた。運営側はまったく予想していない出来事だった。
社会現象になるこうした大ブームは、多くの場合、当事者に思惑を大きく超えて、暴走する。ピンクレディもBABYMETALも、同じような流れがあると感じている。
いまさらながらその理由を探ってみると、まずはステージの上で女の子たちがカワイイから。小さな子から見れば、ピンクレディもBABYMETALも、きれいでカワイイおねえさん。男性だけでなく、ちっちゃな子でもきれいなおねえさんは好きなのです。
そしてダンス。動きが面白くて(と幼子たちには映る)、つい真似したくなるから。それにヘビーメタルの激しいリズムは、案外子どもたちにとっては、乗りやすく刻みやすいのかもしれない。
もちろん、ヘビーメタルによくある全身に血糊つけたり、鋲付きのゴワゴワ革ジャン着たり、恐ろしいコープスペイント塗りたくったり、といったなまはげ仕様は禁物。やはり見た目のかわいい女の子が激しく踊りながらキャッチーなメロディを歌い演じる点が受けているのだろう
だからかどうか、ギミチョコは喜ぶけど悪夢の輪舞曲は怖がる、といったパパママのコメントもあった。やはりかわいくてキャッチーな点が重要なんだね。
今後の楽曲次第ではあるだろうが、BABYMETALが性差・人種・国、そして世代をまたいで熱狂させる怪物ユニットに大化けする可能性は、これまで以上に大きい。なにしろ今回の舞台は、日本だけでなく世界。どこまでいくのか、どこまでいけるのか、妄想が膨らんでいく…。
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おっさんたちの宴(第19回)
BABYMETALのファン層の世代は幅広い。
先回の横アリでも、5歳前後の小さな女の子から80前後の老夫婦まで、さまざまな世代が参戦していた。
中心はあくまで20代、30代の男性ではあるけれど、40代、50代、さらには60代のおっさんたちも若者に匹敵するほどの割合を占めている。
アイドルのファン層としては、これはきわめて異例である。
なぜなのだろうか?
BABYMETALがデビューした当初は、アイドルグループ「さくら学院」からの派生ユニットということもあり、客層は100%アイドルファン、俗にいうドルヲタの方々だった。...
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BABYMETALのファン層の世代は幅広い。
先回の横アリでも、5歳前後の小さな女の子から80前後の老夫婦まで、さまざまな世代が参戦していた。
中心はあくまで20代、30代の男性ではあるけれど、40代、50代、さらには60代のおっさんたちも若者に匹敵するほどの割合を占めている。
アイドルのファン層としては、これはきわめて異例である。
なぜなのだろうか?
BABYMETALがデビューした当初は、アイドルグループ「さくら学院」からの派生ユニットということもあり、客層は100%アイドルファン、俗にいうドルヲタの方々だった。年齢性別は、20代前後から30代の見事に男性のみ。
デビューしたばかりの下積み時代、タワーレコードなどのインストアライブの様子を動画サイトで確認できるが、その熱狂的な盛り上がりは、まさにAKBなどのアイドルと同じ。当時は楽曲もアイドル色の強い「ド・キ・ド・キ モーニング」だけだったので、このノリは当然だったろう(しかし今見ると、3人ともなんとまあ幼いこと。わずか数年前のことなのに)。
しかし動画サイトにこの「ド・キ・ド・キ モーニング」のPVがアップされると、変わった現象が起きる。英語のコメントだらけになったのだ。
レビューをざっと読むと、どうやら外国のメタルファンに刺さったらしい。しかしその内容は、賛否両論。「こんなのメタルじゃない!」「日本よ、なんということをしてくれたんだ!」「なんて素晴らしい。これこそ長らく待ち望んでいたものだ!」等など。肯定派、否定派が真っ二つに分かれて、侃々諤々の大論争が巻き起こった。
ただし日本では、そもそもHR/HMのファン層がかなりの少数派だったので、そんな議論はほとんど起こっていない。しかし日本においては、そうした論争などまったく関心のない、現役をとうに引退したはずのかつての洋楽ファンの目を引いた。
自分も含めてだが、現在のおっさん層は、若いころ洋楽を聴きまくった人が多い。当時はビートルズ世代を頂点に、フォークロックやサイケデリック・ロック、ハードロック、プログレッシブ・ロック、グラムロックなどさまざまなサブジャンルが生まれ、各世代の若者たちの心をとらえていた。その後より先鋭的なメタルやパンクが生まれ、同様にその当時の若者を夢中にさせた。
彼らは小林克也がナビゲートするテレビ朝日の深夜番組『ベストヒットUSA』などで洋楽チャートをとりあえず押さえつつ、自分の好きなジャンルのレコードを集めて聴きまくったり、来日したバンドのライブに行ったり、自分たちでバンドをつくったりと、みなそれなりに盛り上がっていたのだ。
ただし洋楽趣味はあくまで若いうちだけ。
かつての若者も就職し、結婚し、子どもが生まれ、仕事や日々の生活に追われていくうちに、いつしか洋楽を聴くことはなくなっていった。
HR/HMそのものが、かつての革新性を失い、同じような楽曲の繰り返し、ということもあったろう。あるいはあまりにも細分化が進むことで閉塞感が生まれ、ライトな音楽ファンを遠ざけてしまったのかもしれない。
だからといって、たまにテレビの歌謡番組を見ても、かつて聴いてきた音楽とはまったく異なる、素人の若い女の子たちによる学芸会レベルのパフォーマンスばかりで見る気が失せる。しかもあろうことか、握手券や投票券代わりにCDを買わせる商法は、まさに音楽に対する冒涜と感じ、憤りさえ覚える。
年末の歌番組程度は見るが、琴線に触れることはなく、当然歌い手や楽曲が頭に入ることもなく、まったくの無知ぶりに逆に娘や息子に呆れられる。
それがBABYMETAL出現以前の、多くのおっさん状況だったのだ。
そうしたおっさんたちの心に、BABYMETALは深く突き刺さった。ようやく聴くに値すべき本物が現れた、と歓喜に打ち震えた。
このように既存のアイドルや歌謡曲ファンではなく、地中深く沈降していたかつての洋楽ファンを掘り起こした点が、日本におけるBM現象の最大の特徴といえるのではないか。
さらにその派生として、多くのおっさんたちがさくら学院のファン層として新たに流入するという事態も引き起こした。
また一方で、しばらくご無沙汰だったここ数十年のHR/HMを新たに聴き直すという現象も生まれている。
その理由は別稿で詳述したいが、とにかく、BABYMETALはかつて洋楽に夢中になっていたおっさんたちの、あの時代のあの熱い心を見事に蘇らせたのだ。
こうしてBABYMETALのファン構造は、ドルヲタ層からおっさん層へと、急速に積み上がっていった。
しかしここで予期せぬ勢力も加わってくる。若い女性、そして幼い子どもたちである。
(つづく)
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唯一無二のメタルな演舞(第18回)
今回はBABYMETALのダンスについて。
ダンスにはまったく詳しくないが、それでもBABYMETALのダンスは個々の動きが素晴らしく、しかも独創的、ということくらいはわかる。
見ていて小気味良く、心地よい。
とくにYUIMETALこと、水野由結。
とにかく彼女はダンスが上手。
さくら学院が始まった当初、つまり水野由結が小学5年生だった頃のステージでも、彼女のダンススキルは飛び抜けていた。...
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今回はBABYMETALのダンスについて。
ダンスにはまったく詳しくないが、それでもBABYMETALのダンスは個々の動きが素晴らしく、しかも独創的、ということくらいはわかる。
見ていて小気味良く、心地よい。
とくにYUIMETALこと、水野由結。
とにかく彼女はダンスが上手。
さくら学院が始まった当初、つまり水野由結が小学5年生だった頃のステージでも、彼女のダンススキルは飛び抜けていた。
BABYMETALになって最初は見分けがつかなった両脇の女の子たちだったが、だんだんとYUIMETALのダンススキルの高さに気づくようになる。
しかも彼女のダンスは独特だ。
ダンスとは、リズムに合わせて身体を動かすものだと思っていた。
いや今でもそう思っているが、YUIMETALはどうも違う。
リズムに合わせて身体を動かす、のではなく、リズムをいったん身体のなかに取り込んで、手足、指先にいたるまでの身体の隅々を使ってリズムを“表現”している。
しかも独特の“タメ”と抜群の“キレ”によって。
それが見る者の目を釘づけにする。
文章で書くのは難しいのだが、たとえば
1、2、3、4
というリズムがあるとする。
普通は
1、2、3、4
と順番に身体を動かす。
でもYUIMETALの場合はたとえば
1, 2, 3,,,,,,,, 4
といった動きをすることがある。「,,,,,,」は独特のタメ。そこから一気に4に動く。
それが見る者をはっとさせるキレに映る。
そのことを強く印象づけたのが、「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」という楽曲の間奏部分だった。まるで空手の演舞のようなダンスだな、という印象を強く持った。
こうした激しく正確な動きを実現するためには、リズム感はもちろんだが、素早く動くための筋力と、その動きを瞬間で止めるための筋力、そして激しい動きでも身体がぶれない体幹の強さ、といったものが重要になる。
つまり独特のリズム把握力と、優れた身体能力があってこそのダンススキルなのだ。
これは類まれなる才能と、不断の努力の成果以外の何物でもない。
本人も「スポーツはなんでも得意」といっていたから、基本的な身体能力がもともと優れているのだろう。またご親戚に日本舞踊の先生がいらっしゃるらしいので、そうしたDNAを引き継いでいるのかもしれない。
結果としてYUIMETALは、メタルダンサーという前人未到の領域を、抜群の才能によって力強く切り拓いている真っ最中なのだ。
ところでMOAMETAL。
ダンスの天才と一緒に踊るのだから、菊地最愛も大変だったろう。
とくにデビュー当初は、YUIMETALに比較してMOAMETALのダンスにはとうしてもドタバタ感が否めなかった。
それは仕方ない。すでに当時から水野由結はもともとの才能にプラスしてダンススクールにも通っていたし、一方の菊地最愛はさくら学院でレッスンは積んでいたが、その時点ではまだほぼ素人だったのだから。
しかし今日、2人のダンスのシンクロ率はほぼ100%に近い。そのシンクロ度が、新たなBABYMETALの魅力にもなっている。
菊地最愛は努力したんだろうな、練習は大変だったろうな、とおじさんはここでも涙腺が緩むのだが、それもこれも菊地最愛という女の子の、類まれなプロ意識の賜物なのだろう。
こうしてBABYMETALは、ダンスという側面からみても、とても魅力的なユニットに仕上がったのだ。
そしてBABYMETALのダンスを特徴づけるもうひとつの大きな要素が、演出振付師であるMIKIKOMETALことMIKIKO先生(本名:水野幹子)の存在だ。
Wikipediaをはじめ、いろいろと情報を漁ってみたので、簡単な略歴を。
MIKIKOMETALは広島出身のダンサー、モデル、振付師。ASH(アクターズ・スクール広島)でPerfumeと出会い、Perfumeの本格デビューにともないAmuseに移籍。以降、CMや舞台、可憐ガールズ、さくら学院、そしてBABYMETALの振付演出師を担当している。
Amuse移籍後、1年間ほどダンスを学びにアメリカに留学。当時を振り返ってのインタビューがいくつか動画サイトにアップされているのだが、印象的な言葉を見つけたので要約する。
「HIPHOP系のダンスは、黒人特有のリズム感と長い手足が大前提。だから日本人には限界がある」
「日本人に合ったダンスとは緻密さと細やかさ。だから振付の際には、楽曲や歌詞の世界観を大切にして丁寧にダンス化している」
つまりBABYMETALの独特なダンスは、日本人らしさを追求した独創性から生み出されていることになる。
日本オリジナルは、ここでも発揮されているわけだ。
もちろん、独創的な振付を100バーセント受け止め、ステージで実現している女の子たちもすごい。
しかし、MIKIKOMETALのような素晴らしい才能のある実力者がバックを支えていることが、BABYMETAL快進撃の大きな要因になっていることは間違いないだろう。
BABYMETALの数々の楽曲を、ダンスや振付といった角度から見直すのも一興。きっと新しく楽しい発見があるはずだ。
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