ドイツは、ワールドカップ・カタール大会で世界ランキング11位ながら苦戦している。しかし、外交・経済安全保障面では躍進していて、この程、ロシア産天然ガスの代替ソースとしてカタール産液化天然ガス(LNG)購入の長期契約締結に漕ぎ着けている。
11月29日付
『ロイター通信』は、「ドイツ、新たなエネルギー源としてカタール産LNGを確保」と題して、ドイツがロシア産天然ガスへの依存度大幅削減の代わりの新規供給元として、カタール産LNGを長期に確保するに至ったと報じている。
ドイツはこの程、2026年から向こう15年間、カタール産LNGを確保するに至った。
11月29日に、国営カタールエナジー(QE、1974年設立の石油・天然ガス企業)と世界最大級の石油資本コノコフィリップス(CP、1815年・1917年前身設立、2002年合併)との間で長期売買契約が締結されたことによる。
欧州では、今年2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻に伴うロシア産天然ガス供給難に遭って、大量のLNG供給元の確保が急務となっていた。
QE代表によると、カタール産LNGが欧州向けに供給されるのは初めてで、同国北東岸のラス・ラファン港からドイツ北西岸のブランズビューテル港LNGターミナル向けに毎年200万トン供給されることになるという。
QEのサード・アル=カービ最高経営責任者(CEO、2018年就任、エネルギー相兼務)はCPのライアン・ランスCEO(2012年就任)と臨んだ共同記者会見で、“今回ドイツ向けに初の長期供給契約が成立したことで、ドイツの長期エネルギー源確保に貢献できる”と誇らしげに語った。
QEとドイツ電力会社は今年になって、ドイツの最大の天然ガス供給元のロシアからの脱却を図るため、長期LNG供給取引について真剣に協議を重ねていた。
ドイツは、ロシアからパイプラインを通して年間500億立方メートルの天然ガスを輸入してきているが、その代替のため4千万トンのLNGを確保する必要に迫られている。
ノルウェーのライスタッド・エナジー(2004年設立のエネルギー研究機関)シンガポール所属のコーシャル・ラメッシュ上級LNG研究員は、“我々の調査では、ドイツは2027年までに年間730億立方メートルの天然ガスを消費すると予想されることから、今回のカタール産LNG確保でその3.7%手当てしたことになる”とした上で、“これではまだ不十分で、ドイツは更なる代替供給元確保に動く必要がある”とコメントしている。
ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候保護相(53歳、2021年就任)は11月29日、今回の15ヵ年長期契約成立は“偉大なこと”と称賛した。
ただ、エネルギー関連情報を提供する米ICISのアンドレアス・シュレーダー分析部長も、“当該契約の初年度が2026年では遅すぎる”として、“もしドイツが2023年に適切価格で十分な天然ガスを確保できなければ、価格高騰気味のLNGスポット市場から確保せざるを得なくなる”としている。
なお、QEのカービCEOは、ドイツ企業と追加供給の交渉を進めていると語った。
なおまた、同CEOは、ドイツの政治家がカタールによるサッカー・ワールドカップ主催に異議を申し立てていることが取引に影響したかとの質問に答えて、政治と事業は全く別問題だとコメントした。
一方、QEは先週、中国石油化工(2000年民営化された中国最大の石油企業)と27ヵ年長期売買契約を締結している。
同日付ドイツ『ドイツ・ベレ』(DW、1953年設立の国際放送局)は、「カタール、ドイツと天然ガス供給契約締結」と詳報している。
ドイツは、年間1000億立方メートルの天然ガスを消費していて、その半分余りをロシア産天然ガスに依拠していたが、ロシアのウクライナ軍事侵攻以降、供給継続が難航していた。
そこで、数ヵ月の交渉を経て合意に至った今回の長期契約で、ドイツはカタールから年間27億立方メートルの天然ガスを確保できることになる。
アル=カービQEトップ兼エネルギー相は、“欧州最大の天然ガス消費国のドイツと長期契約を締結できたことで、今後、欧州向けのエネルギー戦略にとって貴重な足掛かりとなる”と語った。
ドイツのオラフ・ショルツ首相(64歳、2021年就任)も11月29日、今回の取引成立でドイツのエネルギー安全保障面で“大きな成果”となるとした上で、更なるエネルギー供給元の分散化を進める契機となる、とコメントしている。
今回の長期契約に基づき、ブランズビューテル港にLNGターミナルを建設するCPが当該LNGの輸送を担うことになる。
なお、ハーベック経済・気候保護相は、今回の長期契約が20年以上に及ぶことになっても政府として反対しないが、関係企業は“ドイツの気候変動対策に関わる最終目標についてよく承知しておく”必要があるとコメントしている。
ドイツが掲げる、2045年までにカーボンニュートラル達成との目標を踏まえると、ドイツは2030年代半ば以降、天然ガスの消費量を大きく削減する必要がある。
閉じる