12月13日付
『ワシントン・ポスト』紙:「バイデン政権、妥協案としての北京オリンピック“外交ボイコット”を選択」
<オリンピック・ボイコットの歴史>
1956年(メルボルン大会)では、当時のソ連によるハンガリー侵攻に抗議して、スペイン・スイス・オランダが参加を見合わせたが、効果らしい効果はほとんどみられなかった。
1968年(メキシコシティ大会)では、当時アパルトヘイト政策を取っていた南アフリカの参加に抗議して、多くのアフリカ諸国に続いてソ連及び共産圏諸国も不参加を表明したことから、国際オリンピック委員会(IOC、1894年設立)が当初決議を翻して同国の参加を認めなかった。...
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12月13日付
『ワシントン・ポスト』紙:「バイデン政権、妥協案としての北京オリンピック“外交ボイコット”を選択」
<オリンピック・ボイコットの歴史>
1956年(メルボルン大会)では、当時のソ連によるハンガリー侵攻に抗議して、スペイン・スイス・オランダが参加を見合わせたが、効果らしい効果はほとんどみられなかった。
1968年(メキシコシティ大会)では、当時アパルトヘイト政策を取っていた南アフリカの参加に抗議して、多くのアフリカ諸国に続いてソ連及び共産圏諸国も不参加を表明したことから、国際オリンピック委員会(IOC、1894年設立)が当初決議を翻して同国の参加を認めなかった。
1980年(モスクワ大会)では、ジミー・カーター第39代大統領(当時56歳、1977~1981年在任)がソ連のアフガニスタン侵攻を非難してフル・ボイコットを決定したが、欧州の米同盟国のほとんどが追随しなかったこともあって不発。米国選手団にとっては、獲得できたであろう金・銀・銅メダルをソ連選手団に奪われてしまったことで大きな損失となった。
<今回の“外交ボイコット”の効果>
以前のフル・ボイコットと違って、選手団の参加は認められることから、彼らの競争機会の逸失とはならず、また、米国スポーツ関係者・メディア・スポンサー企業・視聴者等にとっても損失とはならない。
英国デモンフォート大レスター校(1969年設立の公立大学)国際スポーツ史・文化センターのヘザー・ディッチャー教授は『ワシントン・ポスト』紙のインタビューに答えて、外交ボイコットはフル・ボイコットと比べて変革をもたらすことは難しいが、選手団を犠牲にすることなく、中国の深刻な人権蹂躙問題への抗議及び国際社会への周知という成果は得られるとコメントした。
また、ノートルダム大(1842年設立、インディアナ州在の私立大学)のジョン・ソアーズ教授も、“中国政府よりも米国選手団を傷つけることになるフル・ボイコットではなく、外交ボイコットを選択したことで、同国政府への外交的非難の声を届けることができる”とした上で、“これまで人権問題を話題にしようとさえしなかった政府に対して、少なくとも人権問題を検討するスタートとなることが期待される”と評価している。
一方、ミズーリ大セントルイス校(1963年設立の公立大学)中国スポーツ・オリンピック研究専門のスーザン・ブローネル人類学部教授は先週、『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』のインタビューに答えて、“中国がしばしば呼称している「アングロサクソン族」の国家の大勢、例えば100ヵ国近くが外交ボイコットに追随しない限り、ほとんど効果はない”とコメントしている。
米国の宣言から1週間が経過した現在、英国・カナダ・豪州・NZ・コソボ、また、米国に先立って宣言したリトアニアが、外交ボイコットを表明しているだけである。
そして、『VOA』報道では、冬季大会の強豪国のノルウェーはもとより、北大西洋条約機構(NATO、1949年設立)加盟国のフランス・イタリアも、外交ボイコットは行わないと表明しているという。
更に、東欧のポーランド・ハンガリーも、人権問題を余り重要視していないばかりか、経済連携パートナーとしての中国への支持を表明していることから、外交ボイコットなど全く無視する状況である。
これに対して、世界ウィグル会議(WUC、注後記)所属のウィグル族人権活動家ツムレテイ・アーキン氏は、当初バイデン政権にフル・ボイコットを望んでいたものの、“外交ボイコット政策であっても、ウィグル族人権問題を国際社会の懸案事項のトップに祭り上げられたことを以て、大きな成果だ”とコメントした。
何故なら、中国は以前、ウィグル族の強制収容所など存在しないと言っていたのに、米政府等が問題提起してくれたことで、中国政府に“教育センター”を設けていると認める発言を引き出し、更に、強制収容所に多くのウィグル族を閉じ込めているとの批判に対しては、2019年になって“全員教育センターを卒業”したと、言い訳をしなければならないように追い込んできているからである。
従って、同氏としては、“今回の外交ボイコット提言によって、事態が止まることなく更に改善に向けて続いていくことが期待される”と付言した。
また、フロリダ州の『バプティスト・ニュース・グローバル』(2014年刊行)は社説で、“少なからぬ宗教団体及び人権活動家グループが、バイデン政権の外交ボイコット宣言を称賛している”と言及した。
更に、共和党重鎮で反バイデン政権の急先鋒であるテッド・クルーズ上院議員(50歳、テキサス州選出)までもが、“何年も辛い練習に耐えてきた若いアスリート達から、オリンピックで成果を見せるという機会を奪うべきではないので、(一部の共和党議員が主張するフル・ボイコットではなく)外交ボイコット政策を選択したことを評価する”と表明する程である。
(注)WUC:世界各国のウィグル人組織を統括する上部機関で、ドイツ・ミュンヘンが拠点。2004年設立。東トルキスタン及び海外のウィグル人の利害を代表する唯一の国際機関を標榜し、平和的、非暴力的および民主的手段によるウィグル人の政治的地位確立を主張。一方、中国政府は「テロ組織と関わり、中国の分裂を狙っている」と批判。加盟組織は20を超え、在外ウィグル人組織では最大の運動組織。
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今年8月半ば、米軍がアフガニスタンから撤退した途端、イスラム主義勢力タリバン(1994年から活動、求道者の意)が同国全土を瞬く間に制圧した。そして、米軍撤退を機に、中国が早速同国に近寄り始めている。そうした中、タリバン側から、今後中国からの巨額投資が期待されているとの表明がなされたが、米国政府関係者は皆懐疑的である。
10月17日付
『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』:「米国、タリバンが中国からの対アフガニスタン投資期待との表明に懐疑的」
米高官や無党派の政治専門家が10月15日、中国がアフガニスタンに数十億ドル(数千億円)の投資をする準備をしているとタリバン関係者が発言したことに対して、懐疑的な反応を見せた。
まず、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官(42歳)は、アフガニスタン経済が破綻している以上、米国政府としては、中国が同国への影響力を強めていくことへの懸念よりも、困窮しているアフガニスタン人を如何に支援していくか、ということの方に関心を払っているとコメントした。...
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10月17日付
『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』:「米国、タリバンが中国からの対アフガニスタン投資期待との表明に懐疑的」
米高官や無党派の政治専門家が10月15日、中国がアフガニスタンに数十億ドル(数千億円)の投資をする準備をしているとタリバン関係者が発言したことに対して、懐疑的な反応を見せた。
まず、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官(42歳)は、アフガニスタン経済が破綻している以上、米国政府としては、中国が同国への影響力を強めていくことへの懸念よりも、困窮しているアフガニスタン人を如何に支援していくか、ということの方に関心を払っているとコメントした。
同報道官は『VOA』のインタビューに答えて、“米国政府は、国際社会と連携して、如何に人道支援をしていくかという点と、彼らが真に望むことに応えられるよう、適切な関係者らに直接はたらきかけていくことに注力している”と付言した。
タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官(42歳)は今週初めにカブールで、今後中国からの数十億ドルの投資と引き換えに、中国人労働者やその資産について安全を保障することとした、と表明していた。
同報道官は、“中国はアフガニスタンのいくつかの分野への投資に興味を示しており、我々は今後詳細について交渉したいと考えている”とも言及した。
同報道官によると、“具体的一例として、メス・アイナク地区(同国最大の銅鉱山と仏教遺跡を有する、カブールから40キロメートル南東)への投資を中国は考えており、我々も同地域開発のためにその投資を必要としている”という。
中国は、2013年より主導する「一帯一路経済圏構想」の一環で推進している、陸上及び海上のシルクロードへ連結させる「中国・パキスタン経済回廊」開発計画に、イランに加えてアフガニスタンも参画するようはたらきかけてきていた。
しかし、ワシントン本拠のシンクタンク、ハドソン研究所(1961年設立)南・中央アジア部門のフセイン・ハッカーニ代表(65歳、パキスタン出身ジャーナリスト)は、今回の中国によるアフガニスタンへの投資の話は、“多分に希望的観測”と評価されるとする。
何故なら、数十億ドルも巨額を投資するとしたら、当然毎年数百万ドル(数億円)のリターンが条件となるが、現在のアフガニスタン経済状況から考えて、それは全く無理な話であるからだとする。
同代表によれば、中国はこれまで僅か3,100万ドル(約35億円)の人道支援を行っているだけである以上、“これを以て、数十億ドルもの投資の用意があると期待させるのには無理がある”という。
従って、中国としても、同国に巨額投資を行う前に、国際社会が如何にタリバン政権を承認するかを見定める必要があると考えているはずだとする。
ともかく、米国の競争相手とされる中国もロシアも、まだ正式にタリバン政権を認めておらず、彼らとしても、タリバンが平和維持を約束すると表明しているものの、政治的安定や安全保障上の環境が整うまで、同国への投資はできないとみられる。
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