既報どおり、ドナルド・トランプ前大統領(76歳、2017~2021年在任)は、2021年1月6日発生の議会乱入事件を扇動した嫌疑や、退任後に不当に機密文書等を私邸に持ち込んだ容疑で取り調べられている。そして今度は、同前大統領が実業家時代の昔に、トランプから性暴力を受けたとされた被害女性によって、当該事件に関わる暴行罪及び名誉棄損罪で改めて提訴されている。
11月25日付
『ロイター通信』は、「性暴力事件の被害女性、加害者のトランプを暴行罪及び名誉棄損罪で提訴」と題して、27年前にトランプ前大統領から強姦されたとする被害女性が、ニューヨーク州で制定された時限立法に基づいて、同前大統領を提訴したと報じている。
27年前にトランプ前大統領から性暴力の被害に遭ったとする女性著述家が11月24日、同氏を嘘つき呼ばわりした同前大統領に対して、名誉棄損罪で連邦ニューヨーク・マンハッタン地裁に提訴した。
当時、フランスの女性ファッション雑誌『エル』(1945年創刊)のコラムニストだったE.・ジーン・キャロル氏(78歳)で、マンハッタン地区の高級デパート「バーグドルフ・グッドマン」(1899年創業)において性被害を受けたことに対する暴行罪でも訴えている。
同氏の提訴は、ニューヨーク州で制定された「成人サバイバー法」に基づくもので、同法によって、時効が成立している性暴力疑惑について、1年間に限って被害者による提訴が受け付けられることになっている。
同氏は2019年6月に初めて事件を公表したが、トランプ前大統領がこの話を否定しただけでなく、同氏は“自分の好み”でもないとまで蔑んだことから、同年11月に名誉棄損で同前大統領を訴えている。
トランプ前大統領は今年10月12日にも、自身が立ち上げたSNS「トゥルース・ソーシャル」(2022年設立)上で、同氏が“デマ”及び“嘘”を言い触らしていると全面否定している。
このことから、同氏が改めて同前大統領を名誉棄損罪で提訴したものである。
同氏の2019年の提訴は、トランプが大統領職にあったことから免責されると主張しているため、目下、マンハッタン地裁の判断待ちである。
もし、同地裁がトランプの訴えを認めれば、同氏の2019年提訴は棄却されることになる。
しかし、今回新たになされた提訴は、トランプが既に一般人になっていることから、免責されずに審理がなされることになる。
なお、2019年の最初の提訴は、同地裁ルイス・カプラン判事(77歳、1994年就任)が来年2月6日に審理する予定となっているが、原告・被告双方の代理人から期日延期の申し立てがなされているため、順延される可能性がある。
すなわち、原告代理人のロベルタ・カプラン弁護士(56歳)が、今回の提訴と併せて審理できるよう、4月10日の期日を申し立てた一方、被告代理人のアリーナ・ハッバ弁護士(38歳)は、トランプが新たな提訴に関わる代理人を任命していないので、5月8日を期日とするよう申し立てている。
ただ、同判事はハッバ代理人に対して、“依頼人(トランプ)には、今回の提訴に関わる代理人を任命するのに十分すぎる時間があるはずだ”とコメントしている。
いずれにしても、同判事は次回開廷期日について、来週早々に判断を下すとしている。
同日付『BBCニュース』は、「トランプ前大統領に27年前に強姦されたとして女性が提訴」として、その背景について詳報している。
キャロル氏が、改めてトランプ前大統領に対して、27年前に発生した性暴力事件に関わる暴行罪と名誉棄損罪で訴える拠り所となった「成人サバイバー法」は、11月24日に発効したばかりのニューヨーク州法である。
同法は、被害者の年齢が事件発生時に18歳を超えていて、既に時効が成立している事件を対象にしている。
同法が制定されるに至ったのは、2017年に世界的に広がった#MeToo運動(注後記)が契機となっている。
すなわち、これまで泣き寝入りしていた性暴力被害者を救済するため、1年間に限って、時効が成立している古い事件であっても訴えを受け付ける、としたものである。
なお、原告代理人のカプラン弁護士は11月25日、前日に起こした新たな訴訟は、トランプ前大統領の暴行容疑をめぐって責任を追及するのが目的だと表明した。
一方、被告代理人のハッバ弁護士は、被害を公表する個人を尊重するとしながらも、“本件提訴は、法律の目的を乱用するものだ”と非難するコメントを出している。
(注)#MeToo運動:今まで沈黙させられてきた性被害者が、セクハラや性暴行事件についてSNSを通じて被害を告白し、加害者を告発する運動。2006年に黒人女性を支援するNPO活動団体がMeTooを提唱して地道な活動を行っていたが、2017年10月に『ニューヨーク・タイムズ』紙記者が特集した、著名映画プロデューサーの数十年に及ぶセクハラ疑惑を告発する記事を契機として、米国から全世界に広がっている。
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ミャンマー(1948年に英国より独立)では、2021年2月にクーデターを起こして政権を収奪した国軍が、民主化運動の主導者らを極刑に処す等やりたい放題である。そして、政権に対して批判的活動をする外国人ジャーナリスト等も容赦なく逮捕して、一方的な有罪判決を下している。ただ、同国建国の歴史は無視できないのか、あるいは国際社会からの批判をかわすためか、軍事政権は「国民の日(注1後記)」に合わせて、それまで投獄していた日本人ジャーナリスト等4人に恩赦を与える決定を下した。
11月17日付米
『AP通信』は、「ミャンマー、投獄中の4人の外国人に恩赦」と題して、同国軍事政権が、“国民の日”を祝う11月17日、それまで逮捕・投獄していた日本人ジャーナリスト等4人に恩赦を与えたと報じている。
ミャンマー国営メディアは11月17日、「国民の日」を祝うに当たって、国軍政府がそれまで投獄していたオーストラリア人学者、日本人映画製作者、英国人元外交官ら4人に恩赦を与えた、と報じた。
軍事政権報道局長のゾー・ミン・トゥン少将(2021年就任)が『ボイス・オブ・ミャンマー』及び『ヤンゴン・メディア・グループ』に告げたもので、解放されたのはショーン・ターネル氏(58歳、注2後記)、久保田徹氏(26歳、注3後記)、ビッキー・ボーマン氏(56歳、注4後記)及び身元不明の米国人の4人で、釈放の後国外退去処分にされたという。
同日付英国『BBCニュース』は、「ビッキー・ボーマン元駐ミャンマー英国大使、他の拘留者とともに解放」として詳報している。
ミャンマー軍事政権は、2021年2月1日にクーデターを起こして政権を奪取して以来、デモ等を厳しく取り締まり、これまでに1万6千人以上を逮捕している。
そして「国民の日」を迎えた11月17日、軍事政権はこれを祝う一環で、ボーマン元英国大使を含め約6千人の拘留者を釈放した。
ボーマン氏は2013年、夫のミャンマー人画家のティン・リン氏(55歳)とともに「責任あるビジネスのためのミャンマー・センター(MCRB)」を立ち上げ、同国における透明性・人権を重んじた事業展開活動を行っていた。
しかし、軍事政権から、活動家で元政治犯であったリン氏とともに監視されていたためか、自宅のある同国東部シャン州からヤンゴンに戻った今年8月に、住所虚偽報告容疑で逮捕され、翌月に1年の有罪判決を受けていた。
また、豪州人経済学者のターネル氏や日本人ドキュメンタリー映画監督の久保田氏等も、軍事政権による一方的な取り締まりで逮捕・拘束され、それぞれ不当な有罪判決を受けていた。
爾来、日米英等政府が各々ミャンマー軍事政権に、釈放を求めて交渉を続けてきている。
ただ、今回の軍事政権による恩赦に関し、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(1961年設立、本部ロンドン)のオーストラリア支部(1962年設立、本部シドニー)幹部ティム・オコーナー氏は、“軍事政権はこれまで、数千人余りの罪のない人々をでっち上げの容疑で拘束してきている”とした上で、“今回の恩赦で以て、軍事政権に対する国際的な非難活動を停止してはならない”と強調している。
(注1)国民の日:英国植民地時代の1920年に起きた学生による反英ストライキを記念して、毎年、ビルマ暦(タザウンモン月)の満月から10日目を国民の日に定めて祝う。今年は11月17日。
(注2)ショーン・ターネル:豪州人経済学者で、同国民主政権時代、アウンサンスーチー国家顧問の経済アドバイザーだった。2021年2月、軍事政権によって捕らえられ、同国財務に関わる国家機密を持ち出そうとした容疑で起訴。2022年9月の裁判で、スーチー氏とともに3年の有罪判決。
(注3)久保田徹:ドキュメンタリー映画監督。2022年7月、市民によるデモ行動を撮影していたことで治安当局によって逮捕。容疑は扇動罪及び入管法違反で、軍事法廷は10月、同氏に7年の有罪判決。
(注4)ビッキー・ボーマン:2002~2006年に駐ミャンマー英国大使として勤務。その後、同国において倫理的事業展開(透明性・人権・資源ナショナリズム等)を指導する活動をしていたが、夫のミャンマー人芸術家・元政治犯とともに2022年8月逮捕。容疑は住所虚偽報告違反で、夫婦に対して9月に1年の有罪判決。
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