9月10日付米
『CNBCニュース』:「中国とインド、国境紛争での一時停戦に合意」
中国とインドは、6月中旬にヒマラヤ山脈西部の国境付近で武力衝突して以来、両軍による睨み合いや小競り合いが続いている。
両国外相が9月10日、モスクワで開催された上海協力機構(SCO、注1後記)に出席した機会を捉えて協議し、国境問題について双方が対話を通じて解決に向けて努力することで合意した。
インド外務省によれば、スブラマニヤム・ジャイシャンカル外相(65歳)及び王毅(ワン・イー、66歳)外交部長(外相に相当)は、“率直”かつ“建設的”に協議したという。
同省によれば、“両外相は、目下の国境付近での武力衝突・睨み合いは双方の利益とならないことを確認した”とし、“中印両国がこれまで合意している実効支配線(注2後記)を尊重し、対話を通じて緊張緩和に向けて努力する”ことを再確認したとする。
中国・インド両軍は、ヒマラヤ山脈西部の国境付近で5月から小競り合いを繰り返し、6月中旬には、45年振りとなる犠牲者を出す武力衝突(棍棒による殴り合い)に発展した。
その後の両軍による小競り合い・睨み合いが続き、9月初めにも、これまでの合意に反して、45年振りの威嚇射撃の事態まで発生していた。
なお、世界最大の政治リスク専門コンサルタント会社のユーラシア・グループ(1998年設立、ニューヨーク本拠)によれば、両国は“1インチたりとも領土が減らされることに全く同意できない”ことから、今後とも両軍による小競り合いや、場合によって局地的な軍事衝突は起こり得るとし、その可能性は60%としている。
何故なら、インドのナレンドラ・モディ首相としては、“インドを守る最強の首相”という評判を落とすことはできず、中国によって実効支配地域からじりじりと後退させられてきていることから、領土問題で如何なる妥協も許されない。
一方、習国家主席も、世界最強の軍事大国となると標榜していることから、中国としても一歩も引きさがることは全く考えられない。
なおまた、ユーラシア・グループの評価によると、外交交渉努力によって両国の領土問題が解決に向かう可能性は25%であるとし、深刻な武力衝突に発展してしまう可能性は15%だとする。
9月11日付インド『ヒンダスタン・タイムズ』紙(1924年、ガンジーによって創刊):「中印両国、更なる信頼度拡充に向けて努力するとの共同声明を発表」
両国外相が合意した共同声明によると、“両国は、目下続いている国境付近での緊張を緩和するため、これまでの両国間の様々な合意事項に則って、双方の信頼度を更に向上させていくことで合意した”とする。
信頼度向上の手段や具体的内容について言及はないが、これまで両国は国境問題に関し、1993年、1996年、2013年にそれぞれ覚書を締結して、紛争鎮静化を図ってきている。
ただ、インド側としては、6月中旬にヒマラヤ山脈西部のガラワン渓谷で発生した武力衝突は、中国軍が上記覚書に反した行動を取ったことに起因すると主張している。
一方で、両国間の国境紛争がくすぶり続けることによって、両国間の貿易や人の交流に支障を来すことは双方の利益にはならない。
特に、今年がインド・中国国交樹立70周年に当たることから、両国間のパートナーシップ強化は、両国それぞれの発展のためにも必要不可欠と考えられる。
(注1)SCO:中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタンの8ヵ国による多国間協力組織、国家連合。「テロリズム、分離主義、過激主義」に対する共同対処の他、経済や文化など幅広い分野での協力強化を図ることを目的として2001年発足(前身の組織は1996年設立)。中国の上海で設立されたために「上海」の名を冠するが、本部(事務局)は北京。
(注2)実効支配線:1962年の中印国境紛争の後に設定された、インドと中国との支配地域を分ける境界線。
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安倍晋三首相の突然の辞任を受けて、間もなく後任首相が決定されようとしている。菅義偉官房長官が後任となる可能性が高いが、米メディアは、同氏が“安倍政権の政策を踏襲する”と発言している以上、同政権が主導した“アベノミクス”政策がもたらした歪みの是正が必須となると論評している。
9月2日付
『CNBCニュース』:「“アベノミクス”未達成事項-後任首相にはその是正が必須の引継ぎ事項」
突然の辞任を発表した安倍晋三首相の後任として、菅義偉官房長官の呼び声が高い。
同長官は、安倍政権の政策を“継続し、かつ前進させる”と表明している。
安倍政権が主導した政策は“アベノミクス”と呼ばれ、大規模景気刺激策が中心となっているが、後述せるとおり、多くの点で不足、あるいは未達事項があり、後任首相にはこの是正、改善が強く求められることになろう。
1. 経済政策
2012年末に始まった安倍政権において、“失われた十年”と言われた1991~2001にかけての経済成長減速期を経て、再び強い経済成長が促進された。
ただ、同政権が目標とした経済規模600兆円(5兆6千億ドル)には届いていない。
それでも、経済アナリストの多くは、今日の経済情勢を力強いものにしたことから、今回の新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題に伴う景気への悪影響を最小限に留めることができたと評価している。
米シンクタンク、アトランティック・カウンシル(1961年設立、ワシントンDC本拠)の国際事業・経済プログラム部門のジョシュ・リプスキー部長は、“経済基盤拡充があったから、COVID-19に伴う最悪の事態は避けられた”とコメントしている。
しかし、国際通貨基金(IMF、1944年設立、ワシントンDC本拠)は、COVID-19問題はこの経済成長基盤を台無しにしてしまいかねないとして、日本の国内総生産(GDP)は▼5.8%のマイナス成長になると予想している。
2. 株式市場
“アベノミクス”政策の下、日本銀行が推進した大規模景気刺激策のお陰で、株価は大きく上昇した。
英国リサーチ会社、オクスフォード・エコノミクス(1981年設立、英オクスフォード本拠)の長井滋人日本支社代表は、“株式市場拡大が達成され、かつ、急激な円高にならないような安定政策が奏功したお陰で、大企業にとって大きな飛躍ができた”と分析している。
そして長井氏は、“海外投資を積極的に行った結果、大企業の収益が大幅改善された”とも付言している。
なお、後任首相が“アベノミクス”政策を引き継ぐとなれば、株価大幅上昇で恩恵を受けた機関投資家にとっては大歓迎であろう。
ゴールドマンサックス(1869年設立、ニューヨーク本拠)日本戦略室主任のキャシー・マツイ副会長は9月2日、“投資家は、市場の将来展望より、政策の安定・継続に期待している”と、『CNBC』の報道番組「アジア展望」に出演して語った。
更に同氏は、“かつての日本政治は、トップが目まぐるしく交代する時期があり、その度ごとの政策の転換等より、投資家にとって先を読むのに非常に困難を強いられたから”だと付言している。
3. 物価上昇政策
日本銀行は、デフレーション脱却のため、物価上昇率目標を+2%と定めて諸政策を推進した。
しかし、英国リサーチ会社の長井氏によれば、“大企業の収益が従業員等への給与アップに回らなかったため、個人消費が伸びることはなく、結果として当該目標を達成することができなかった”とコメントしている。
4. 低賃金
長井氏は、“アベノミクス政策の下で、賃金上昇の実現が叶わなかったことから、世帯収入の実質的減少を食い止めることができなかった”とし、“従って、アベノミクスは各世帯に恩恵をもたらすことができず、消費増につながることはなかった”と評価している。
因みに、経済協力開発機構(OECD、1948年前身設立、1961年現組織に改組、パリ本拠)データによれば、日本の2020年平均賃金は加盟37ヵ国中最低レベルとなっている。
日本:3万8千ドル(約407万円)、韓国:4万1千ドル(約440万円)、英国:4万4千ドル(約470万円)、OECD平均:4万5千ドル(約480万円)、ドイツ:5万1千ドル(約550万円)、米国:6万2千ドル(約660万円)
5. 政府借入金の上昇
安倍政権は、景気刺激策を推進するのと並行して、長期計画で政府借入金の減少に努めたが、経済アナリストによれば、今回のCOVID-19問題で、借入額は増大しようとしている。
英国経済コンサルタント、キャピタル・エコノミクス(1999年設立、ロンドン本拠)エコノミストのトム・リアマウス氏は9月1日、“COVID-19問題に伴う事業者・個人を救済するための支援金支出が必須であることから、政府負債は確実に上昇することになる”とコメントしている。
COVID-19問題発生前でも、日本の政府負債はGDPの200%超となっていて、これはOECD加盟37ヵ国中最大レベルである。
因みに、その他では、ギリシャ約200%、イタリア約150%、英国約120%、ドイツ約70%である。
6. 労働生産性
OECDは、時間当たりの労働生産性に関し、日本の2021年指標は低調のままだと予測している。
2010年を100とした場合、日本の2021年指標はほぼ100で変わらず、一方、他国の指標は次のとおりと予測している。
韓国:110、米国:106、OECD平均:104、ドイツ:103、英国:103
英国人エコノミストのリアマウス氏は、“安倍政権は、労働市場拡充のため、女性、シニア、外国人を積極的登用する政策を推進したが、労働生産性を向上させるために最も必要な構造改革が十分行われなかった”と分析している。
同氏によれば、日本は“役人過多”の現状を“早急に改善する必要がある”と強調している。
一例を挙げれば、COVID-19問題に伴う様々な支援金の支給が、事業者も個人も長い間待たされる事態が発生しており、日本国民にとって大きな不満となっている、と付言した。
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