訪日中のバイデン米大統領は23日、岸田首相との共同記者会見で、台湾有事の際に台湾防衛のために軍事的に関与すると述べた。欧米メディアは、この発言は米国がこれまでの台湾に対する「戦略的曖昧さ」から転換を図ろうとしていることを示唆している可能性があると伝えている。
米誌
『タイム』は、1979年以来、米国は一つの中国政府しか承認しておらず、台湾とは正式な外交関係を結んでいないことを指摘している。ただし、米国は事実上の大使館を含む非公式な関係を維持し、島に軍隊を駐留させ、議会法によって台湾に自衛のために必要な武器を定期的に提供することを義務付けられている。そして米国は、紛争が起こった場合、2300万人の住民を守るために軍隊を派遣するかどうかは、「戦略的曖昧さ」によって明確にしてこなかった。
『タイム』は、バイデンの東京での予定外の発言は、「戦略的明確化」に向けたシフトのように見えると伝えている。
一方ホワイトハウスは、バイデン大統領が昨年の8月と10月に同様の発言をしたときと同様に、今回も、アメリカの政策に変わりはないと釈明した。国家安全保障顧問のジェイク・サリバンは、戦略的な曖昧さが最も安全な選択肢であると繰り返し述べている。しかし、このような失言が頻繁に起こるということは、あからさまな政策変更を避けつつ、抑止力を高めるための戦略的な作戦であるとの見方も成り立つという。
また、バイデンの発言は、ウクライナへの軍派遣を拒否した大統領によって米国への信頼が揺らいでいる台湾の士気を高めるものでもあるという。最近の台湾の世論調査では、島民の半数が、中国が攻めてきたときにアメリカが助けに来てくれるとは思っていないことが明らかになった。さらに、バイデン政権が提唱するIPEFの立ち上げメンバーから外されるとの報道を受け、島は見捨てられたと感じているという。
『タイム』はまた、バイデンはこの問題で、インド、日本、オーストラリアの首脳とのクアッドサミットを前に、妥協を許さない姿勢を示したと伝えている。オーストラリアでは労働党の新政権が誕生したばかりで、中国政策がまだ練られているところである。一方、自信を深めている日本は、より大きな地域防衛の役割を果たすことを目指しているが、インド太平洋の安全保障にさらに関与してもらうためには、まだ後ろ盾を必要としているという。
仏紙『レゼコー』は、バイデンはすでに昨年10月、台湾への攻撃に対する米国の軍事介入の可能性を示唆していたが、これほど直接的かつ具体的な回答はしていなかったと報じている。特に今回は、台湾からわずか2千キロ離れたアジアでの発言であり、ロシアによるウクライナ侵攻の数カ月後であるため、特に象徴的な重要性を持つと報じている。ただし、バイデンの発言に対して日本側は困った様子だったとも伝えている。台湾への攻撃に対する日本の反応について聞かれた岸田首相は、困惑した様子で、答えることを避けたという。日本には23の米軍基地があるため、台湾を攻撃すれば、ほぼ自動的に地域紛争に巻き込まれることになる。しかし安倍元首相を含む複数の保守系権力者は過去に、同盟国であるアメリカに対し、立場を明確にし、「戦略的曖昧さ」という概念を正式に放棄するよう求めてきたという。
一方、米『フォックスニュース』は、戦略的な曖昧さには2つの目的があったと伝えている。第一に、アメリカの「介入するか、しないか」という曖昧なスタンスは、中国の戦争計画をより困難にするものだった。また、もし中国が台湾を侵略しようとする際、この地域の米軍を攻撃することがなければ、アメリカは台湾の攻撃を食い止めるのにより効果的に動くことができる。第二に、台湾への支持を明確に表明するならば、台湾が中国からの正式な独立宣言を目指すようになり、中国を戦争に巻き込むことが懸念された。
しかし『フォックスニュース』は、状況は変わっているため、戦略的曖昧さは通用しない可能性がある事を指摘している。中国は1979年当時よりはるかに強力になっている。アメリカの信頼性は、昨年のアフガニスタンでの大混乱を招いた撤退とウクライナでの抑止力の失敗をきっかけに、どん底に落ちている。中国共産党は、党の規律、巨大な経済、国民をコントロールする能力など、ロシアや西側に対して明らかに優位に立っていると考えている。こうした中、中国による台湾の侵略は、太平洋地域におけるアメリカの地位にとって致命的であり、21世紀のアメリカにとって世界で最も重要な地域であることから、アメリカは台湾を守るために全力を尽くさなければならないと同メディアは伝えている。
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