長引くウクライナ戦争がもたらす様々な混沌で、原油・天然ガス等のエネルギー価格が暴騰している。その恩恵を享受している筆頭が国際石油資本(スーパーメジャー、注1後記)で、この程発表された2022年12月期の決算が、軒並み史上最高益を更新し、2020~2021年のコロナ禍に伴う赤字決算を遥かに凌駕している。
2月8日付
『ロイター通信』は、「英BP、2022年度最高益を上げ脱石油施策減速」と題して、先週相次いで発表した他のスーパーメジャーに続き、英BPもエネルギー価格暴騰の恩恵を受けて史上最高益を上げたと報じている。
英BPは2月7日、2022年12月期決算が280億ドル(約3兆6,400億円)の純益と、史上最高益を更新したと発表した。
この超越した決算は、先週相次いで決算発表した競合先の英シェル・米エクソンモービル・米シェブロンに続くもので、ロシアのウクライナ軍事侵攻がもたらしたエネルギー価格暴騰の恩恵を受けた結果である。...
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2月8日付
『ロイター通信』は、「英BP、2022年度最高益を上げ脱石油施策減速」と題して、先週相次いで発表した他のスーパーメジャーに続き、英BPもエネルギー価格暴騰の恩恵を受けて史上最高益を上げたと報じている。
英BPは2月7日、2022年12月期決算が280億ドル(約3兆6,400億円)の純益と、史上最高益を更新したと発表した。
この超越した決算は、先週相次いで決算発表した競合先の英シェル・米エクソンモービル・米シェブロンに続くもので、ロシアのウクライナ軍事侵攻がもたらしたエネルギー価格暴騰の恩恵を受けた結果である。
(編注;英シェルは398億7千万ドル(約5兆4,830億円)、米エクソンモービルは557億ドル(約7兆2,410億円)、米シェブロンが354億6,500万ドル(約4兆6,100億円)と、いずれも最高益を更新している。)
BPトップのバーナード・ルーニー最高経営責任者(CEO、52歳、2020年就任)は就任当時、主事業を石油・天然ガスから再生可能エネルギー及び低炭素エネルギー(水素・バイオマス等)に転換するとの大胆な施策を公表していたが、今回も同社は、新規両事業部門への投資額を10億ドル(約1,300億円)増額するとしている。
しかし、以前の公表内容に比べて脱石油レベルは後退していて、石油生産レベルを日産200万バレル(約31万8千キロリットル)とするとしており、2019年比▼40%としていた目標値が僅か▼25%まで抑えられることを意味する。
BPは、依然2050年までにネットゼロ(注2後記)を達成するとの目標を掲げているが、今回公表された施策によると、温室効果ガス削減のための化石燃料販売量を2030年までに2019年比▼35~40%削減するとしていたのに対して、▼20~30%の削減へと後退する結果となる。
ルーニーCEOは、“低炭素エネルギーへの転換の必要があると考えているが、同時にエネルギーの安定供給の確保、かつ手頃な価格での供給が必要であるとも考える”とした上で、“多くの国及び国際社会が我々にそれを求めている”ともコメントした。
同CEOは『ロイター通信』のインタビューに答えて、“多くの株主投資家が自身の施策を支持してくれている”と表明しているが、他の大手石油資本に比して、同社株価は依然過少評価されたままである。
すなわち、同CEOがトップに就任して3年経つが、同社株価はほぼ横ばいであるのに対して、同期間にシェルは+17%、エクソンモービルに至っては+80%近くも値を上げている。
一方、気候変動活動家らは、BPが示した環境対策を後退させる施策に激怒している。
環境NGO「フォローディス(注3後記)」創設者兼代表のマーク・バン・バール氏は、“BPが化石燃料事業に多額の投資を続け、かつそれを更に増額する計画を有するとするなら、とても2015年パリ協定で採択された気候変動対策に協調しているなどと言える筋合いではない”と酷評している。
(注1)スーパーメジャー:1990年代以降に合併・統合を繰り返して誕生した国際石油資本で、米エクソンモービル・英シェル・英BP・米シェブロン・仏トタル・米コノコフィリップス6社を指す。
(注2)ネットゼロ:温室効果ガスの排出量を正味ゼロにするという意味で、カーボンニュートラルとほぼ同義。排出量をゼロにするのではなく、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることを意味。2015年パリ協定において、「2050年ネットゼロ」が世界共通の目標として認知されている。
(注3)フォローディス:元ジャーナリストのバール氏が、環境活動家のアル・ゴア氏(元米副大統領)が出演したドキュメンタリー映画「不都合な真実(2006年公開)」に感銘を受けて設立した環境NGO。主な活動は、国際石油資本の株主となり、他株主を巻き込んで「物言う株主」として様々な環境施策を会社側に要求していく運動の展開。2021年のシェル及びコノコフィリップス各々の株主総会で、気候変動関連の株主提案を賛成多数で採択させ、取締役会側提案に勝利している。
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