19日に投票が実施されたイランの大統領選挙は、翌20日に開票を終え、穏健派の現職ロウハニ師が強硬派のライシ師等の3候補に勝って再選された。ロウハニ師は2015年に欧米などの6か国と核に関する合意を締結するなど、対外融和路線を取っており、今後もこれまでの外交方針を継続するものと見られている。
イラン内務省は20日、ハッサン・ロウハニ大統領が投票数の57%、約2,354万票を獲得し、再選されたと発表した。有力な対抗馬と言われていた強硬派のライシ師は38%の約1,578万票であった。ミルザリム候補、ハシェミタバ候補の2氏は得票が伸びずに敗れた。
トランプ米大統領がイランへの強硬姿勢を示しており、反米強硬派が勢力を拡大するのではないかと言われたが、有権者は対外融和路線を進めるロウハニ政権の継続を選んだ。...
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イラン内務省は20日、ハッサン・ロウハニ大統領が投票数の57%、約2,354万票を獲得し、再選されたと発表した。有力な対抗馬と言われていた強硬派のライシ師は38%の約1,578万票であった。ミルザリム候補、ハシェミタバ候補の2氏は得票が伸びずに敗れた。
トランプ米大統領がイランへの強硬姿勢を示しており、反米強硬派が勢力を拡大するのではないかと言われたが、有権者は対外融和路線を進めるロウハニ政権の継続を選んだ。強硬派による以前の厳格な社会への後戻りに不安を感じる若者や女性の多くが、現状維持を望んだためと見られる。最終的には20ポイント近い大差となり、地滑り的勝利となった。
内務省によると、投票率は73%となり選挙への高い関心が示された。投票日の19日は締切時間の18時になっても、投票を待つ有権者が列をなしたため、投票時間は何度も延長され夜遅くまで列が続いた。投票率が高くなったことはロウハニ師を有利にしたと言われている。
2015年にロウハニ大統領は、米英仏独露中の6か国と、核開発の制限と引き換えに経済制裁を解除するという合意を締結した。2016年1月に一部の制裁が解除されると、その恩恵が具体的な形となり、原油の輸出が伸びて外貨収入が増え、物価も落ち着いたが、高い失業率は改善されなかった。このため選挙戦では経済問題が主要な争点となり、ロウハニ師は残りの制裁の解除が必要だとして、融和路線の継続を主張していた。
従来からイランを敵視してきた米国は、トランプ政権が誕生して以来、さらに強硬な姿勢を示している。イランは経済を立て直し、国内政治を安定的なものにするためには、米国等が今も課している残りの制裁の撤廃を目指し、トランプ政権との対立をできるだけ避ける等の外交努力を続けていくと思われるが、今後の道筋は楽観できるものではない。
ロウハニ師は、経済情勢が好転すれば貧困層の救済もできると訴えてきたが、女性の服装など社会の規制緩和も行い、改革を求める層や女性、若者を中心に支持を集めた。一方ライシ師は、核合意の後も高い失業率は下がらず、経済が好転しないとして、貧困層への補助金増額等の福祉の拡大や雇用創出等を公約としていた。
ロウハニ師は当選を受け、イランの最高指導者ハメネイ師とその前任者、1979年のイラン革命の指導者であったホメイニ師の写真の飾られた部屋でテレビ演説し、「本選挙は、イランが相互の敬意と国家の利益に基づき、他の国々との共存、交流の道を追求しつつ、平和と友好を求めていくことを世界に示した。」と述べた。
またイラン人は自分に投票することで、世界において「暴力や過激主義の排除」を選択した、我々は決して「屈辱と脅威」は受け付けないと語った。さらに今後はすべての人の力が必要として国民の結束を訴え、国内の反対派とも協力して公約を果たしていくよう努めると述べた。
イランは高い失業率と海外からの投資の不足に苦しみ続け、ロウハニ師は反応の鈍い経済を好転させるための具体的な対策を求められている。当初は実質の信任投票と広く見られていたにも関わらず、選挙戦終盤に雇用の確保を強く訴えるライシ師の猛追を受けていたが、職につけない若者の根強い不満がその背景にある。2期目では制裁解除の恩恵を国全体に行き渡らせることが課題となる。
ロウハニ師は、イランの基準では穏健派とみなされているが、保守的なイスラム共和政の下では、よりリベラルな改革を求める人が好む候補だ。強硬派や、シリアでの戦争やイラクでのISとの戦いに関与した革命防衛隊を公然と批判したこともあり、より改革志向であると見られている。ロウハニ師は2013年には51%近くの票を獲得して初めて大統領に選出された。今度は1期目でできなかったことを行わなければならないが、その道は容易ではない。
裕福層が多く住むテヘラン北部では、ロウハニ師の勝利を祝う多くの女性ドライバーがVサインをしたり、高速道路で車のライトを点滅させたりしていた。夜がふけると、何万人もの支援者がテヘランの中心街に押し寄せ、花火をしたり、歌ったりして勝利を祝った。テヘラン市場の株価は選挙結果が出ると1%近く上昇し、この3か月の最高値を記録した。多くの各国指導者が祝福を送ったが、その中にはシリアのアサド大統領もいた。シリア政府はイランの支援を受けている。
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