既報どおり、習近平(シー・チンピン)国家主席の第2期目が盤石となって以降、中国は着々と東・南シナ海域制圧に向け、新規中型輸送機・新型誘導ミサイル搭載フリゲート艦をそれぞれ配備し、更に、海上偵察部隊を強化している。そしてこの程、域外国の干渉は許さじと頑なな対応をしてきた日米に加えて、新たに豪州に対しても厳しい対応を打ち出そうとしている。すなわち、中国国営メディアの論説面で、南シナ海でフィリピンと合同演習を展開した豪州に対して、インド洋東端のティモール海における東ティモールとの領有権問題で“ダブル・スタンダード(二枚舌)”を取っていると非難した上で、中国との貿易で最大の恩恵を得ている以上、経済制裁もちらつかせて豪州を懲らしめるべきと形振り構わぬ強硬論を展開した。
12月31日付中国
『環球時報』:「張也氏:南シナ海への干渉で豪州の窮状が増々深刻化」
以下は、中国海洋研究所研究員の張也(チャン・イエ)氏の論説である;
豪州はかつて、労働党政権であったケビン・ラッド(2007~2010年)及びジュリア・ギラード(2010~2013年)の両元首相時代、南シナ海領有権問題に関して中立であった。
しかし、近年、特に米国が“航行の自由作戦”を打ち出してからは、豪州も方針を変更して南シナ海に干渉するようになった。...
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12月31日付中国
『環球時報』:「張也氏:南シナ海への干渉で豪州の窮状が増々深刻化」
以下は、中国海洋研究所研究員の張也(チャン・イエ)氏の論説である;
豪州はかつて、労働党政権であったケビン・ラッド(2007~2010年)及びジュリア・ギラード(2010~2013年)の両元首相時代、南シナ海領有権問題に関して中立であった。
しかし、近年、特に米国が“航行の自由作戦”を打ち出してからは、豪州も方針を変更して南シナ海に干渉するようになった。それは、豪州という中規模な国が、両大国の米中の狭間で揺れ動く呈を成し、もし米中関係がこじれた場合、豪州としてどちらを選ぶかという大きな問題にぶち当たることになろう。
特に、現自由党政権のマルコム・ターンブル首相(2015年~)は、豪州の外交における自立に重きを置き、例えば南シナ海領有権問題においても自国の持論を展開して干渉してきている。しかし、この対応は豪州にとって大きな混迷に陥る原因となろう。
すなわち、中国は、反って南シナ海の安定を損なうだけであるとして、域外者である豪州の関与を許さないだろう。場合によって、豪州の最大の貿易相手国(注後記)である中国は、経済制裁も検討せざるを得なくなろう。
一方、豪州は、かつてフィリピンが提訴した常設国際仲裁裁判所(PCA、本部はハーグ)の仲裁裁定について支持を表明した。しかし、ティモール海(インド洋東端のティモール島と豪州の間の海)に賦存する天然資源の帰属問題について、東ティモールがPCAに提訴したところ、それは一切無効であり裁定には従わないと、二枚舌の主張を展開している。
従って、豪州は、近年の中国の目覚ましい躍進に伴う国際情勢の変化をよく認識し、中国が進めている南シナ海の関係国との平和裏な対話に余計な口を挟まないよう強く進言する。
1月1日付豪州
『シドニー・モーニング・ヘラルド』紙:「中国国営メディア、豪州の南シナ海への“干渉”を許さじと警告」
中国国営メディアの
『環球時報』は12月31日、張論説委員の意見を掲載し、豪州が中国の南シナ海問題に余計な干渉を続ければ、中国は、豪州経済が深刻な状況に落ち込む結果となる対策を取ることになろうと脅した。
同紙論説の2週間前、中国の海軍トップが豪州のティム・バレット海軍中将の発言を公式に非難している。すなわち、同中将が、昨年9月に豪州艦が演習の途中で南シナ海の中国領海内に立ち行ったことに対して、航行の自由だと主張したことを受けたものである。
更に、昨年12月初め、中国外交部は、在中国ジャン・アダムス豪州大使を召喚し、ターンブル政権が中国による豪州政治システムへの干渉があると中傷したことについて、公式に非難している。
そもそも、張論説委員が所属する中国海洋研究所は中国人民解放軍の出先機関であり、その張氏が主張する、豪州の南シナ海干渉で豪州が経済的にも地政学的にも深刻な状況に陥るとの見解は、豪州国内の読者に向けて、中国に抗うより信奉する方が良いと訴える意図のものと考えられる。
直近の豪州の外交白書において初めて、中国の力による勢力変更に懸念を抱いていると表現されている。ただ、豪州の公式見解は、どちらの国に肩入れするものではなく、対話による国際紛争の解決が重要であるという主張の下、あらゆる外交ルートや国際会議を通じて、中国の軍事拠点化を止めさせていくということである。
(注)豪州の貿易相手国:2016年データによると、輸出先①中国29.5%、②日本19.3%、③韓国8.0%、輸入先①中国18.4%、②米国11.5%、③日本7.9%。
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