北朝鮮のリーダー、金正恩氏は就任して6年を経て、外に出て世界を見たいと思ったようだ。北朝鮮の国営メディアによれば、2011年の就任以来、今週行われた中国習近平国家主席との電撃会談が金委員長初の外遊であった。しかし、中国を訪問したことは野心的カミングアウトの始まりにすぎない。
次は韓国の文在寅大統領と軍事境界線すぐ南の板門店で会談し、その後は最も慎重を期する、米ドナルド・トランプ大統領との会談が予定されている。また、ロシアのプーチン大統領との懇談会を検討しているとの噂もあり、最も信頼できる批評家とされる安倍晋三首相も会いたいと表明している。
なぜ突然外遊するのか。各国首脳と金委員長の思惑を見ていきたい。
【中国】
今となっては、中国は金委員長の国際デビューに最も妥当な選択であった。
中国は、北朝鮮の最も重要な貿易国であるが、北朝鮮の核兵器開発計画に圧力をかけるため、ここ数カ月は制裁を強化していた。しかし、北朝鮮は中国に歩調を合わせる意思はなく、両国の関係は悪化していた。
26日の突然の訪中で、その方向性が完全に変わった。2つのことが明白だ。誰よりも先に北朝鮮をもてなすことで、長い間国家安全保障上の関心事となっている朝鮮半島の緊張緩和に中国が主要な役割を果たすことを再確認した。また北朝鮮にとって、まず中国と会談することで、今後韓国や米国との首脳会談の際、より情報を得て孤立せずに臨める。
さらに、訪中は中国の制裁措置緩和に向けての第一歩になるだろう。
【韓国】
北朝鮮と韓国が会談を行うとの発表は、今年の最初の衝撃的なニュースであった。
金委員長は先月、招待の意味で平昌オリンピックの開会式に妹を送り込み、このアイデアを提案した。会談は南北軍事境界線内の板門店で4月下旬に行われる。
象徴的な意味で、これは大きな前進だ。文政権は、この一年にわたり増加するミサイル発射とその批判を受け、率先して北朝鮮に手を差し伸べた。金委員長は1月に和平を申し出て今年の最優先事項に関係改善を含めることを誓った。
北朝鮮の訪中までは、韓国が最初の首脳会談の相手国になると思われた。中朝会談は、南北の緊張緩和に向けた動きを緩めるものの、依然、韓国ナショナリズムと南北統一への希望という感情的なストーリーは、北朝鮮の国民にもまだ受け入れられている。北朝鮮は、東部海岸地域への韓国人観光脚誘致を目的に、いくつかの観光開発プロジェクトに取り組んでいる。
楽観的だろうか。そう言えるかもしれない。しかし父親の金正日総書記も2000年と2007年に南北首脳会談を行っている。
【米国】トランプ大統領とハンバーガーを食べるか
これにはまだ疑問点が多々ある。いつ、どこで会談が行われるかといった基本的なことがまったく明らかにされていないからだ。
ホワイトハウスは、自ら発表するのではなく、「5月までに」会うという金委員長の提案にトランプ大統領が同意した旨を、韓国訪問団からメディアに伝えさせた。これ以降、米政府からの公式発表はない。
トランプ大統領は、21日、ツイッターで、金委員長が「私との会談を楽しみにしている」とのメッセージを中国の習近平国家主席から受け取ったことを公開した。「今こそ、金正恩が人民と人類のために正しいことをする可能性が高い。我々の会談を是非楽しみに!」
フロリダ州のトランプ氏所有のリゾートから、平壌と良好な関係にあるモンゴル、スウェーデンの古城に至るまで、会談予定地をめぐっては多数の噂が浮上している。
自由主義の指導者と肩を並べて立つチャンスを与えられたお礼に、北朝鮮は拘束されている3名のアメリカ人を解放する可能性がある。
しかし、まだ疑問が残る言葉がある。「非核化」だ。金委員長はこの言葉を最近多用しており、米当局者の中には、北朝鮮が高価でようやく手に入れた核兵器を交渉によって放棄するのではないかとみる者もいる。しかし、「非核化」とは3万人以上の米軍を韓国から恒久的に撤退させ、1950~53年の朝鮮戦争を正式に終結させた平和条約に至る一連の安全保障も含めた措置を意味するとの解釈もある。それは北朝鮮が何十年も求めてきたことだ。
【ロシア】
金委員長とプーチン大統領との会談は、容易に実現しそうだ。プーチン大統領は、金政権と比較的友好関係にあり、国際的な制裁が行われているにもかかわらず、関係強化に積極的である。両国は最近、IT面での協力に関する合意に署名し、新たな国境橋を検討している可能性もある。ロシアメディアは、北朝鮮の李容浩外務次官が来月モスクワを訪問予定であると推測している。ロシアとのより良い関係構築は金委員長に大いに役立つだろう。
ソ連の崩壊は北朝鮮にとって大きな打撃となり、1990年代には飢饉で少なくとも数十万人の北朝鮮人が亡くなった要因の一つになった。以来、両国関係は同じままでいることはない。
しかし、ロシアとより緊密な関係を構築することは、潜在的な経済利益をもたらすだけでなく、中国の影響力や米国及びその同盟国に対してバランスをとる上で重要である。プーチン大統領は核兵器推進を警戒しているが、金委員長と仲良くすることで欧米を嘲ろうとしているのかもしれない。彼はそうすることを望んでいるようだ。
【日本】
日本は遅れを取り戻そうと躍起だ。森友問題といった国内の事件に追われ、米国に追従する傾向がある日本。安倍晋三首相は最近、金委員長と質の高い時間を過ごしたいと提案したばかりだ。
日本は北朝鮮とは、核問題を上回る大きな問題を抱えている。金正日総書記は、2002年、小泉首相(当時)との日朝首脳会談で、1970年代から80年代にかけて、日本人を拉致したことを認めた。拉致被害者の何名かは帰国したが、日本はそれ以来問題解決に向けて更なる情報を要求しており、膠着状態にある。
「北朝鮮のタカ派」の安倍首相は、金委員長の各国首脳会談から日本が取り残されれば、「拉致問題」に対する日本の要求が隅に追いやられるだろうと懸念している。
しかし、関係正常化の見返りに、北朝鮮は1910年~1945年にかけての日本の朝鮮半島植民地支配による損害に対し、さらに賠償するよう要求してくる可能性が高い。専門家の試算ではその額は数十億ドルに上るとみられている。
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