米国での薬物過剰摂取死は過去15年で約3倍の52,404件(2015年)に達した。一方、米国では移植のための臓器提供者が極端に不足しており、12万人以上の患者が全米待機リストに登録されているなか、ドナーは2017年は10,281人、2018年の1~3月には4,109人であった。多くの患者にとって、待機中の死亡リスクは移植を受けるチャンスよりも高い。薬物過剰摂取死の臓器の移植の生存能力を知ることは、意思決定に有益な情報を提供し、臓器不足解消に役立つ可能性がある。...
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米国での薬物過剰摂取死は過去15年で約3倍の52,404件(2015年)に達した。一方、米国では移植のための臓器提供者が極端に不足しており、12万人以上の患者が全米待機リストに登録されているなか、ドナーは2017年は10,281人、2018年の1~3月には4,109人であった。多くの患者にとって、待機中の死亡リスクは移植を受けるチャンスよりも高い。薬物過剰摂取死の臓器の移植の生存能力を知ることは、意思決定に有益な情報を提供し、臓器不足解消に役立つ可能性がある。
ジョンズ・ホプキンス大学医学部の研究者らは、サイエンティフィック・レジストリ・オブトランスプラント・レシピエンツ*のデータを用いて、薬物過剰摂取死の臓器提供者を特徴づけ、その臓器の移植を受けた患者の転帰を分析した。2000~2017年にかけてのドナー138,565人と固形器官移植患者337,934人を対象とした。薬物過剰摂取死のドナーは2000年に全体の1.1%(66件)しかいなかったが、2017年1~9月には13.4%(915件)に増加した。通常のドナーからの移植と比較して、薬物過剰摂取死ドナーのからの移植成績は劣っておらず、場合によってはより良好であった。薬物過剰摂取死ドナーは、心臓発作や脳卒中といった内科疾患による死亡者と比較して、年齢が低い傾向にあり、高血圧、糖尿病、または心筋梗塞の既往が少なかったが、クレアチニン値がわずかに高く、循環器死後に提供するケースが多かった。
ジョンソン・ホプキンス大学医学部助教授のクリスティン・デュランド医師は、「現在の薬物過剰摂取による死亡の増加は悲劇であり、救命に使える臓器を十分に活用していないことも悲劇である」と語った。デュランド医師は、臓器の使用を制限する可能性のある過剰摂取死の臓器移植に関する規制は特にないが、臓器移植によって特定のウイルスを感染させる「リスクが高い」ドナーに関する規制はある、と付け加えた。また「我々の研究を見て、臓器移植を待つ患者が、移植やより多くの臓器提供者がいることに希望を持ってほしい。」と述べた。
薬物過剰摂取死の臓器は、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス感染が懸念されるため、外傷関連死亡時よりも高い割合で廃棄される。この研究では、臓器の56%がリスクの高いドナーからのものと判定され、これは米国内の非過剰摂取死臓器の2倍にあたる。しかし、ウイルスの核酸および抗体検査により、高感染リスク(IRD)の臓器をウィルス潜伏期間中にレシピエントが感染してしまう確率は極めて低い。さらに、IRDの腎臓の移植を受けたレシピエントは、他の臓器移植を待つ者より生存率が優れている。著者らは、IRDおよびC型肝炎に起因するリスクがゼロではないが、C型肝炎の場合治療法もあるため、移植が患者に与えるメリットとデメリットをしっかりと比較検討するべきであると言う。
*SRTR、米国保健福祉省下にある臓器移植に関する情報収集・分析を行う機関
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