シンガポール貿易産業省の発表によれば、第2・四半期のGDP成長率速報値は前年同期比0.1%増。第1・四半期の1.1%成長と比べ大幅な減速となった。アナリストは第1・四半期とほぼ同等の数字を予想していた。四半期ベースでは、3つの主要産業すべてが減速となり、製造業は第1・四半期から6%減、建設業は同7.6%減、サービス業は同1.5%減となった。年間ベースでは、製造業は3.8%減となり、第1・四半期から減速幅が0.4%拡大した。電機と精密機械セクターの不振が響き、他のセクターのプラス幅を打ち消した。建設業は前年同期比2.2%増となったが、第一四半期の2.7%増から減速した。メイバンク・キムエンのエコノミストは、これについて、「建設業は公的部門の支出により支えられたが、民間部門の支出が弱ければ、全体として2019年の経済を下支えするには十分ではないかもしれない」と指摘する。サービス業は前年同期比では1.2%成長となり、横這いとなった。主に金融保険業、情報通信などが貢献した。
この結果を受けて、シンガポールのヘン・スイキャット副首相は、「現時点では、年度としてリセッションになることは予想していない」と表明した。ヘン副首相は財務省も兼任しているが、フェイスブック上で「今後の経済の動向に対応すべく備えている。政府が労働者と労働組合と協力してすべてのシナリオに対する準備を進めている。今のところ2019年がリセッションになることは予想していない」とコメントした。また、「米中の貿易摩擦に関連して、不確実性と世界経済失速のリスクは高まっているが、経済には強い部分も残っている」とし、例として情報・通信セクターと建設セクターを挙げた。
チャン・チュンシン貿易産業相は、別のフェイスブック上で「直近は向かい風を受けているが、経済のファンダメンタルズが強いため、困難を乗り越えられると自信を持っている」とコメントした。さらに、「リーマンショック後の世界的な景気後退を受けて、2009年度第2・四半期にマイナス1.2%成長となって以来の低い成長率ではあるが、シンガポールの各種投資の動向を見れば、状況は正しい方向に進んでいる」とも述べた。セクター別には、電機、精密機械、卸売、は悪化したが、情報・通信、教育、ヘルスケア、などは堅調さを保っている、とした。
今回の結果により、経済状況が今後、一層悪化するのではないかという警戒心が高まっている。専門家は、2・四半期連続で減速となる可能性を指摘する。もしそうなれば、雇用に打撃を与え、各種の支出も抑制されてしまう可能性がある。
HSBCのエコノミストは、今回の数字を「今後の悪化の前兆」であるとしている。季節調整済みの前期比年率では、第2・四半期GDPは3.4%減となり、第1・四半期の3.8%成長から下振れとなった。主要セクターすべてで弱さが見られたため第1・四半期から大幅に減速した。HSBCのエコノミストは「驚いたのは、幅広い分野で悪化していたことだ。近隣諸国と異なり、国内市場向けセクターが海外からの悪影響を相殺するほど強くないということを示唆している」と指摘する。
中でも製造業は大きな足かせとなった。前年同期比で3.8%減、第1・四半期と比べ6%減、となった。INGのチーフエコノミストは、製造業を減速させた大きな要因が存在するとしている。シンガポール経済は輸出主導の面が強く、世界経済減速や米中貿易摩擦の影響を強く受けているためだ。
サービスセクターについてもOCBCの専門家は「弱さが出ている」と指摘する。今回の数字は前年同期比1.2%成長だが、昨年の同時期は2.9%だった。消費者信頼感が弱まり、消費者が財布のヒモを締めている可能性があり、「サービスセクターが雇用拡大の大きな推進力であることを考えると、今年度後半も景況感が冴えないものになるようなら、経営者の雇用意欲に悪影響を与える恐れがあり、警戒が必要だ」と指摘した。
『トゥデイ』がインタビューしたほぼすべてのアナリストが、自律的景気後退に陥る可能性が高いとした。減速が2・四半期連続すれば自律的景気後退と判断される。OCBCの専門家は、「第3・四半期も経済成長の勢いが弱ければ、自律的景気後退に陥るリスクが高まるのは明らかだ」と指摘する。またメイバンク・キムエンのエコノミストは、浅めの自律的景気後退を予測していたが、下振れ方向に予測を変更した。このエコノミストは、「自律的景気後退の度合いが深まると、労働市場に影響を与え、製造業や貿易関連のサービス業の支出削減を招く」と述べた。
当局はすでに今年度の成長率幅の予想である“1.5-2.5%”を見直す方向で検討を進めている。メイバンク・キムエンのエコノミストは、シンガポール貿易産業省がこの予想幅を0.5-1.5%に引き下げると予想している。UOBのアナリストも今年度の成長率見込みが、8月にも、0.5-1.5%に下方修正される可能性があると指摘した。また、第二四半期の前年同期比0.1%成長という数字が、マイナスに見直される可能性も指摘した。
OCBCの専門家は、シンガポール金融管理局(MAS)が10月に金融緩和に踏み込む可能性が高まったとみている。金融緩和は輸出を下支えする。『ロイター』が11人のエコノミストの見方を調査したところでは、MASが10月に緩和に踏み切るとみるエコノミストは11人中7人、残りの4人は変更なしを見込んでいる。一部のエコノミストは、金融緩和を10月まで待つと、シンガポール経済が悪化するリスクを高めてしまうため、10月前の緩和もあり得るとしている。
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