日米貿易協定は先月下旬、安倍首相・トランプ大統領によって無事基本合意された。安倍首相は、日本車への追加関税も数量規制もかけられなかった等成果を強調するが、一方のトランプ大統領も、日本向け農産品の関税撤廃等大成功に終わったとアピールしている。しかし、米国内では、同大統領が離脱を決定してしまった、環太平洋パートナーシップ協定(TPP、注後記)よりも条件的に劣る項目が多いと批評する声が出ている。
10月7日付
『ロイター通信』:「日米貿易協定に関し、トランプ大統領が離脱してしまったTPPより劣る項目」
ドナルド・トランプ大統領は、9月25日に安倍晋三首相との間で基本合意した日米貿易協定について、米農業にとって“驚異的な”成果となっていると自画自賛している。
しかし、米議会スタッフ、通商問題専門家、更には産業界の人たちの評価によれば、いくつかの農産品について、同大統領が2017年の就任3日目に離脱を宣言してしまったTPPの条件よりも劣る結果となっているという。...
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10月7日付
『ロイター通信』:「日米貿易協定に関し、トランプ大統領が離脱してしまったTPPより劣る項目」
ドナルド・トランプ大統領は、9月25日に安倍晋三首相との間で基本合意した日米貿易協定について、米農業にとって“驚異的な”成果となっていると自画自賛している。
しかし、米議会スタッフ、通商問題専門家、更には産業界の人たちの評価によれば、いくつかの農産品について、同大統領が2017年の就任3日目に離脱を宣言してしまったTPPの条件よりも劣る結果となっているという。
●TPPより劣っていると評価されるのは以下である。
1.バター、脱脂粉乳
・低関税輸入枠が設けられず、一方、NZ・豪州産に日本は低関税枠を設けている。
・更に、NZの大手アンカー乳業(1886年創業)や豪州のウェスターン・スター(1926年創業)が、米国抜きの11ヵ国で新たに合意したCPTPP協定(後記注参照)下で既に日本市場に入り込んでおり、米国のランド・オレイクス(1921年創業)は彼らとの競争にさらされる。
・国際酪農製品協会のマイケル・ダイクス代表は、TPP対比で80%程度の成果でしかないとコメント。
2.コメ
・TPPで合意していた、無関税輸入枠7万トンが設けられず、結局1990年代初めと変わらず。
・カリフォルニア州コメ委員会のティム・ジョンソン代表は、将来の交渉に期待せざるをえなとコメント。
3.穀類(小麦等)
・輸入枠がTPPで合意していたのと同じ15万トンに留まり、新たな追加枠を獲得できず。
4.砂糖、チョコレート等
・日本側譲歩は一切なく、日本の需要量の大半がCPTPP加盟国に割り当てられてしまっている。
●牛肉や豚肉は、日本とCPTPPを締結済みのNZ、豪州等と同条件であるため、米国が優位ということはなく、ただ、既に日本向け市場に入り込んでいるCPTPP加盟国と競合することになる。
●更に、ワインについても、日本が欧州連合と締結済みの日・欧経済連携協定と同水準であるため、フランスやイタリア産ワインとの競争となる。
●一方、唯一米国側にとって優位と評価されるのが、日米デジタル貿易協定を今後締結するとした点である。
何故なら、国境を越えた電子データ取引に関税を賦課しない、また、原則禁止や制限もしない等の国際協定は、巨大IT企業GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)等を抱える米国にとって有利となるからである。
(注)TPP:環太平洋地域の国々による、経済の自由化を目的とした多角的な経済連携協定。2016年1月26日に条文が公開され、参加12ヵ国(日・米・豪・加・NZ・メキシコ・チリ・ペルー・シンガポール・ベトナム・マレーシア・ブルネイ)が2月4日に署名。しかし、トランプ大統領が2017年1月20日の就任直後に、TPP離脱を決定したため、当初の12ヵ国での協定発効の目処が立たなくなり、米国以外の11ヵ国にて新たなTPP合意に向け協議。結果、包括的・先進的TPP(CPTPP)に合意し、2019年1月14日に発効。
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