日本政府はかねてより、「テレワーク(注後記)」導入によって、交通渋滞緩和や働き方改革推進の一助とすべく、産業界に検討を依頼してきている。特に、東京オリンピック開催期間中の選手団の移動を容易にしたり、数多の来訪観戦者との交通機関でのバッティングを緩和するため、力を入れている。しかし、
『ロイター通信』が実施した直近の世論調査の結果、日本企業のほとんどが「テレワーク」導入を全く考えていないことが判明した。
2月18日付
『ロイター通信』:「日本企業が“テレワーク”に否定的なため、東京オリンピック開催期間中の混雑緩和は困難」
『ロイター通信』が、1月30日から2月12日の間、日本企業に対して行った調査の結果、回答企業の実に83%が、目下のところ従業員の在宅勤務を認めていないことが判明した。
更に、東京オリンピック開催期間中であっても、73%の企業が「テレワーク」導入を考えていないという。...
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2月18日付
『ロイター通信』:「日本企業が“テレワーク”に否定的なため、東京オリンピック開催期間中の混雑緩和は困難」
『ロイター通信』が、1月30日から2月12日の間、日本企業に対して行った調査の結果、回答企業の実に83%が、目下のところ従業員の在宅勤務を認めていないことが判明した。
更に、東京オリンピック開催期間中であっても、73%の企業が「テレワーク」導入を考えていないという。
この否定的回答は、同大会期間中の選手団の移動や来訪観戦者との交通機関でのバッティング緩和のためとして各企業に協力を依頼している日本政府にとって、喜ばしいニュースではあるまい。
上記の対応は、特に新型コロナウィルスが猛威を振るっている最中、他国の企業が感染拡大を防ぐ一環で、一時的にせよ「テレワーク」導入を決定しているとの事情に比し、異常としか言えまい。
しかし、上智大学国際経営学部のパリッサ・ハギリアン教授(ウィーン経済大学国際ビジネス学部で博士号取得、2004年来日)は、日本企業の伝統的構造より、この結果は予想されたとする。
すなわち、日本企業はホワイト・カラー中心に、スペシャリストではなくジェネラリストが好んで採用されていて、数年の間にいろいろな部署に配置転換できる体制を取ってきているからである。
そして、西洋諸国の企業と違って、業務分担・業務範囲等が明確に決められておらず、単独でなくグループで仕事を推進するという体裁を取っている。
同教授は、“同じ職場に集まって一緒に働くことが当たり前”であり、“人の評価も実際に働いている姿を見ることで行われている”から、「テレワーク」自体がとても受け入れようがない企業体質となっているからである、と指摘している。
なお、東京オリンピック開催期間中の「テレワーク」導入は全く考えられないと回答してきた企業の中には、そもそも「テレワーク」に馴染まない小売業や、東京に本拠を構えていない企業もあった。
しかし、柔軟な働き方という方針を全く採用する考えがなかったり、単純に「テレワーク」導入に必要な情報機器や技術そのものを持ち合わせていないという企業もあった。
ある機械メーカーの管理職は回答の中で、“そもそも「テレワーク」のノウハウがない”とコメントしている。
ただ、その中にあって、人材派遣会社のパソナは、先行して2017年に柔軟な働き方政策を導入し、約1万人の従業員に対して、在宅勤務が可能となる資格取得、必要IT機器貸与を進めてきている。
同社人事部の細川明子部長は、新型コロナウィルス感染予防対策の一環もあって、本社や事業所勤務の従業員に対して、時差出勤(ラッシュアワーを避けての出退社)を推奨しているという。
なお、大手飲料メーカーのアサヒ・グループ・ホールディングスやIT複合企業の富士通は、東京オリンピック開催期間中に限り、「テレワーク」の一時的採用を検討しているという。
(注)テレワーク(あるいはテレコミューティング):勤労形態の一種で、情報通信技術を活用し時間や場所の制約を受けずに、柔軟に働く形態をいう。1970年代に米ロサンゼルス周辺で、エネルギー危機とマイカー通勤による大気汚染の緩和を目的として開始。1980年代前半には、パソコンの普及と女性の社会への進出に伴って注目度が増加。日本政府は、交通渋滞や大気汚染(在宅勤務者が増えることによる交通機関利用者の減少)などの都市問題や地域活性化、少子高齢化などの社会問題解決の手段として有効であると期待し、推進している。また集団感染予防対策の一つでもある。
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