今週、米アラバマ州のローカル・テレビニュースで、同州の19歳の少年が、アラバマ大学院(1831年設立の州立大学)での法学修士過程を修了し、卒業したと報じられていた。
セス・ハーディング君という学生で、彼は10歳で高校を卒業、16歳の時にハンティングトン大学(1854年設立のキリスト系私立大)で学士課程を修得している。
彼が次に目指すのは、同州法曹資格試験で、もし合格すれば、州内で最も若い弁護士が誕生することになるという。
このように、年齢に拘らず、上級学校の教育を受けられるのは、飛び級制度(注後記)による。
米国では、早期入学や学年飛ばしでの学習が良く行われている。
考え方の根本には、「発達段階に合わせて適切な段階の学習を受けるべき」という思想がある。更に、飛び級をした子どもたちの満足度が高く、国全体として飛び級を肯定的に捉えていることが背景にあるとみられる。
ある調査では、飛び級を経験した人の71パーセントが満足していると答えている。また、不満と答えた人の大半は「もっと大きく飛び級したかった」と回答している。
米国と同様に、開かれた飛び級制度があるのがドイツである。
日本の小学校から高校までに当たる課程を、継続的に捉え、1~12年生という言い方がされている。
そこに飛び級や留年の生徒が入り交じるので、多様な年齢構成による学年が形成されていることが覗える。
更に、大学入学に関する年齢制限(下限)が無いため、大学への早期入学者も多い。
米国もドイツも、法整備の特徴として、年齢と学年(学校種)に関する規則が緩いことが挙げられる。
なお、アジアにおいても飛び級制度は採用されていて、最も発達しているのが中国と言われる。
中国の義務教育制度は日本と同じ小学校相当6年間、中学校相当3年間だが、飛び級制度に関して、「飛び級専用の試験」が設定されており、両親や担当教師の強い勧めもあって、積極的に運用されている。
但し、落第制度もあり、小学校の時から、中間テスト・期末テストがあって、それに落ちると、進級できないという。
中国の場合は、政治体系も日本とは大きく異なるため、一概には比較できないが、やはり能力に応じて飛び級が行われている実態がある。
一方、日本では、依然として「学年と年齢」をセットで考える向きが強く、飛び級制度の一般化には大きな課題がある。
その一つに、少人数・習熟度別指導が推進されているということが挙げられる。
学校種をまたぐものは別としても、同校種内であれば、現行の少人数指導や段階別指導が飛び級代替的になり得るため、レベル別にしてドンドン進められる子は応用的な内容を、基礎から取り組む必要がある生徒は一からしっかりと、という役割分担ができているからだと考えられる。
従って、現在の日本においては、幼少時の飛び級はほぼ選択されておらず、ただ、修博一貫教育、法曹コース(法学士及び法務博士一貫)、学部修士一貫教育で年度の短縮が行われていて、大学学部入学後において事実上飛び級が解禁されている。
ただし、現在の所属可能最高学年を大幅に超える形での飛び級制度の導入に関しては、格差拡大など様々な観点から用心深く導入すべきだとの考えも根強く、2020年代の日本では行われていないというのが実情である。
なお、飛び級をしている著名人には以下がいる。
団藤重光(1913~2012年):日本の法学者。小学校を飛び級で卒業(第5年)し、中学校を飛び級で修了(第4年)。第六高等学校を経て、東京帝国大学法学部を首席で卒業。
宇多田ヒカル(37歳):シンガーソングライター。ニューヨークの小学校に通っていた頃に、2年から4年に飛び級。帰国後はアメリカンスクール・イン・ジャパンに通学。1年飛び級し、コロンビア大学に進学(卒業せず中退)。
高梨沙羅(23歳):オリンピック選手。スキージャンプ競技ワールドカップ優勝、ソチオリンピック4位入賞、ピョンチャンオリンピック銅メダリスト(大学4年次)。日本体育大学体育学部体育学科に17歳で入学。試合・海外遠征等で出席できない講義は公欠届を提出し、課題(レポート提出・補講など)をクリアーして留年することなく4年間で卒業。
レディー・ガガ(34歳):米国人歌手。ニューヨークのティッシュ・スクール・オブ・アーツ(1831年設立の私立ニューヨーク大学の芸術学部)に、17歳の時入学。世界で20人しか早期入学が許可された例がないという名門校。
(注)飛び級制度:学年制や等級制をとっている学校で、1学年・1等級以上を飛び越して上の学年・等級または上の学校に移ること。日本の場合は、文部科学省規定によって、特定の分野について特に優れた資質を有する学生が高等学校を卒業しなくても大学に、大学を卒業しなくても大学院に、それぞれ入学することができる制度と定義。
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