5月22日午前、中国の全国人民代表大会で、全人代常務委の王晨副委員長は「全国人民代表大会が香港特別行政区で国家安全を擁護する法律制度と執行するメカニズムを制定することに関する決定(草案)」について説明を行った。
いわば香港版「国家安全法」が今なぜ中国の全人代で持ち出されたのか。
そもそも香港の「国家安全法(条例)」は、香港の憲法ともいうべき基本法の23条で香港政府に制定を求めているものであった。2002年に意見聴取をはじめた「国家安全法」の草案では「反逆」「政府転覆」「国家分裂」などが違法行為とされているが、表現は曖昧で、恣意的な解釈が下されるおそれがあり、人権が侵害される恐れもあった。このため条例案が提案されるや2003年7月には50万人規模のデモが発生し、香港政府は条例案を撤回せざるを得なくなったことがあった。...
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いわば香港版「国家安全法」が今なぜ中国の全人代で持ち出されたのか。
そもそも香港の「国家安全法(条例)」は、香港の憲法ともいうべき基本法の23条で香港政府に制定を求めているものであった。2002年に意見聴取をはじめた「国家安全法」の草案では「反逆」「政府転覆」「国家分裂」などが違法行為とされているが、表現は曖昧で、恣意的な解釈が下されるおそれがあり、人権が侵害される恐れもあった。このため条例案が提案されるや2003年7月には50万人規模のデモが発生し、香港政府は条例案を撤回せざるを得なくなったことがあった。
2019年に「逃亡犯条例」の改正案がでた際に、条例案に対する激しい反対運動が起こったのも、「逃亡犯条例」が安易に成立してしまったならば、次は「国家安全条例」の成立を香港政府が目論む、即ち当然のことながら中国政府がそれを強く要求してくるだろうことを、香港市民たちが恐れていたからであった。
北京としては「逃亡犯条例」にすらてこずっている香港政府が生ぬるい、いつまでたっても埒があかない、と思ったに違いない。さらには「統一」にノーと言い続ける台湾に対する苛立ちもあって、一層香港に強い圧力をかけているようである。
香港で「国家安全条例」が成立したならば、香港に対する北京の介入は容易になる。1997年に中国に返還された香港に対し、中国は「一国二制度」や「港人治港」を約束し、50年間は現状を変えないと約束したのであったが、50年たたずして、その約束は反故になりそうである。
人権がからめば米国をはじめとして、英国などもだまっていないだろう。国際社会のなかで、貿易やコロナウィルス問題など、多くの大きな問題を抱えている中国は、また自ら新たな火種を作り出そうとしている。
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