既報どおり、ドナルド・トランプ大統領(74歳)は、ほとんどの世論調査で対抗馬のジョー・バイデン民主党候補(77歳、2009~2017年副大統領職)に差を付けられていることに嫌気してか、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題の収束がみえるまで投票日を延期するよう要望すると泣きを入れる程である。そこで、内外の関心は、バイデン氏が誰を副大統領候補に選出するかに集まっている。本邦メディアの中には、クリントン政権(1993~2001年)時代にひどい目に遭った日米貿易戦争に深く関わったスーザン・ライス元大統領補佐官(55歳)を警戒している記事が散見されるが、欧米メディアは、カーマラ・ハリス上院議委員(55歳、元カリフォルニア州司法長官、2017年現職)が最有力としている。
8月1日付
『ロイター通信』:「バイデン氏の副大統領候補指名がいよいよ大詰め」
大方の世論調査の結果、ジョー・バイデン民主党候補が大統領選を有利に進めていることから、目下の関心事は、同氏が誰を副大統領候補に選ぶか、に集まっている。
仮に同氏が当選した場合、来年1月の大統領就任時、歴代大統領の最高齢となることから、同氏は1期4年で退き、後を託す意味も含めた副大統領候補であるが故に、通常以上に関心が高まっている。
更に、同氏はかねてより、女性候補の中から選ぶ、と明言していること、また、現下の“ブラック・ライブズ・マター”運動に端を発した人種差別問題が深刻化していることもあって、有色人種が選ばれるという期待の声も高まっている。
以上の背景から、民主党高官やバイデン氏支援者の情報によると、次の3名が最終候補と言われている。
(1) カーマラ・ハリス上院議委員(2011~2017年カリフォルニア州司法長官、2017年より現職)
(2) スーザン・ライス氏(1997~2001年アフリカ担当国務次官補、2009~2013年国連大使、2013~2017年国家安全保障問題担当大統領補佐官)
(3) カレン・バス下院議員(66歳、2008~2010年カリフォルニア州議会議長、2011年より現職)
その中でも、最有力とみられるのがハリス上院議員で、今週(7月末)には、カリフォルニア州の政府高官、労組代表、経済界代表らが挙ってバイデン氏側近の身元調査・審査委員会委員の元を訪れ、同議員を強く推挙する運動に出ている。
ハリス氏自身も7月31日、オンラインで実施されたブラック・ガールズ2020(注1後記)に参加して自身の主張等をアピールしている。
また、バイデン氏自身もハリス氏を支持している模様で、7月28日のキャンペーン・イベントの際には、ハリス氏を称賛する事項を記載したメモを事前に準備していたことがテレビ映像で確認されている。
一方、バス下院議員については、当初は余り目立たなかったが、直近で支持する声が高まってきており、ハリス氏に取って代わる勢いである。
ただ、支持が高まるにつれて反対派から出てきている批評は、バス氏の親キューバ対応である。
すなわち、バス氏が1970年代に左翼団体とキューバを何度か訪問していたり、2016年には、故フィデル・カストロ元国家評議会議長(1926~2016年、1959年に米傀儡政権を倒した革命家)を称賛する発言をしていること等が問題視されている。
そこで、民主党関係者は、もしバス氏が副大統領候補に選ばれた場合、ドナルド・トランプ大統領がこの点を突いてくることは必至と考えられ、弱点になる恐れがあると懸念している。
ライス氏については、民主党の歴代大統領の下で政権運営に関わってきた実績があること、更には、バイデン氏が副大統領時代に同じくホワイトハウス内で一緒に仕事をしていたという強みがある。
あるバイデン氏側近も、同氏との人的関係があることは有利とみられるとコメントしている。
ただ、ライス氏はこれまで、選挙で選ばれた議員として一般大衆のための政治経験が一切ないことが弱みとみられることもあり得る。
なお、巷間では、来週(8月上旬)にも副大統領候補が発表されるという噂があるが、関係者によると、もう暫くかかるとみられるという。
ただ、同氏及び副大統領候補を正式に代表と決定する民主党全国大会が8月17~20日に開催されるため、遅くとも10日から1週間前までには明らかにされよう。
8月2日付英国『ザ・テレグラフ』紙:「ジョー・バイデン氏、かつての論敵と和解してカーマラ・ハリス氏を副大統領候補に選出か」
7月31日晩、一通のメールがバイデン氏支持者の元へ届いた。
それはハリス上院議員からのもので、“バイデン氏の思いやりや民衆への献身を称え、必ずや民衆のための大統領になると信じる”とした上で、“自身もバイデン氏の力になれるよう貢献したい”と訴える内容であった。
ハリス氏は、バイデン氏が考える副大統領候補の中の最有力メンバーとみられているが、かかるメール直訴をしなければならない程、水面下で激しい誹謗中傷合戦が行われていると想像できる。
民主党内で一部囁かれているハリス氏へのコメントは、果たしてバイデン氏に忠誠を貫き続けられるのか、情け容赦ないほど功名心に燃えている、御都合主義的、信頼感に欠ける等々、かなり辛らつである。
ある民主党支持者は、“もし彼女が副大統領候補に選ばれたならば、彼女は、バイデン氏が来年1月に大統領就任式に臨んだその日から、次の大統領選に向けてキャンペーンを始めるだろう”とまで酷評している。
かかる批評が上がるのは、かつてハリス氏が何度もバイデン氏に食って掛かっている過去があるからである。
例えば1年前の民主党討論会において、バイデン氏の長男故ボー・バイデン氏(2015年5月脳腫瘍で死去、享年46歳)の命日が近かったにも拘らず、ハリス氏は全く遠慮なくバイデン氏の諸政策に噛み付いている。
ハリス氏は、かつてバイデン氏が“バス通学政策(注2後記)”に反対していたことを責め立てた。
何故なら、彼女自身が少女時代に黒人生徒として同政策の恩恵にあずかっていたが、当時バイデン氏が上院差別主義者のグループに入って同政策に反対していたことを不快に思っていたからだという。
その他、数々の勇猛果敢振りを発揮してきていることから、トランプ大統領は彼女を“意地悪”と評し、また、民主党議員は“女性版オバマ”だと呼ぶほどである。
しかしながら、バイデン氏は今週(7月末)の段階では、民主党の集会において同氏が用意したスピーチ用メモに、ハリス氏の名前及び功績等が一番上に書かれていたことがテレビカメラによって捉えられており、バイデン氏としては過去の論敵と和解し、今では副大統領候補の有力メンバーの一人として支持しているものとみられる。
(注1)ブラック・ガールズ2020:7~17歳の黒人女性に学習機会を提供する運動をしている慈善団体ブラック・ガールズ・コード主催の、2020年活動の一環の全米会議。
(注2)バス通学政策:1970~1980年代に行われた、人種差別撤廃に向けたバス通学制のことで、米国の公立学校における差別撤廃に向けた取り組み。差別的な学校制度や学区設定を改革する為に、特定の学校に子どもたちを入学させ、その通学のための輸送手段を用意することで、通学する学校は、近所の学校以外の学校であることが多く、通学のための輸送手段(大概はバス)が無料で用意されている。この取り組みに反対する人々は、これを強制バス通学と呼ぶこともある。
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