アメリカとキューバは今年7月に54年ぶりに国交を正常化させることで正式に合意し
ており、現在そのための2か国間交渉が進められている。ただ、交渉の中身は多岐に
わたっており、比較的容易に合意に達する見込みのものとそうでないものに分かれて
いる。中でもキューバにあるアメリカ軍基地に設置されているグアンタナモ収容キャ
ンプの閉鎖はオバマ大統領も頭を抱えている問題だ。アメリカの各メディアは以下の
ように論じている。
9月12日付
『フォックス・ニュース・ラティーノ』は二か国間交渉のテーマは大まか
に3つに分けられるとしている。一つ目は環境保護、自然災害への対策、保健・衛生
問題、民間航空の処遇、薬物取引への法執行に関する問題である。これらはすぐにで
も実行可能なレベルにまで合意が進んでおり、一定の成果が上がっているという。
二つ目は一つ目に比べてやや、複雑な問題が含まれている。人権、人身売買、さらに
は気候変動や疫病、世界レベルの衛生問題につき、アメリカ・キューバ双方とも「話
し合いの場を設けていく」ことで基本的な合意がなされているという。
三つ目はかなり難しい問題が含まれている。キューバからはアメリカの制裁等によっ
て被った被害の補償、そしてアメリカからはキューバ革命によって接収されたアメリ
カ人の財産に対する補償問題等だ。キューバ側の使節によれば「15年前キューバは経
済的損失と人的損失をそれぞれ1210億ド(約14兆5000億円)と1810億ドル(約21兆
7000億円)と見積もっていたが、これらの数字については再検討の余地はある」とし
ているという。この中には現在アメリカが占拠しているキューバ国内のグアンタナモ
軍事基地および収容キャンプの返還も含まれる。
9月14日付
『12ニュース・ナウ』(アメリカ)はAP通信を引用し、オバマ大統領は
キューバ国内のグアンタナモ収容キャンプの閉鎖を模索しているが、アメリカ国内か
らの強い反発に苦心していると伝えている。オバマ陣営と国防総省は互いに適当と認
められた抑留者の釈放、また、引き続き抑留される者の移送先両方の手続きが滞って
いることについて互いに責任を押し付けあっているという。オバマ大統領は大統領に
立候補していた2008年当時から犯罪の嫌疑もなく適正手続の保障もされずに人々を抑
留することはアメリカの価値観に反するとして同施設の閉鎖を主張し続けてきた。抑
留者はピーク時は680人だったが、現在は116人であるという。その移送先が手に負え
ない問題となっているのだ。移送先確保には国家間の交渉、治安維持や法律的側面
からの協議が不可欠だという。仮にこれらの問題がクリアされたとしても、アメリカ
国外に移送できない69人の凶悪犯のアメリカ国内での収容先の確保が難問となって立
ちはだかっているのである。3か所から5か所の候補地があるというが、今のところサ
ウスカロライナ州チャールストンにある海軍軍事基地内の刑務所か、カンザス州レブ
ンワースにある陸軍刑務所が有力だと言われている。ただ、これらの州知事や地元住
民からは猛反発が予想され、各州知事は「もし本当に自分の州に決まるならば法的手
段をとることもいとわない」と述べたという。オバマ大統領はこのことにより、議院
との間に軋轢が生じ、イランとの核に関する合意の法案にまで影響を及ぼすことを恐
れているという。
9月14日付
『ヴァリー・ニュース・ライヴ』(アメリカ)は、各州の住民だけではな
いく、軍の関係者らの反対もあるという。上院議員のリン・ジェンキンス氏は「中東
の同盟国の中にはレブンワース内にグアンタナモの抑留者が収容されるなら、自国の
軍事訓練性を派遣することはできないと言っている国もあり、このままでは世界レベ
ルでの軍事関係に影響を及ぼしかねない」と語ったという。国防省はインタビューに
対して直接のコメントは避けたものの文書で「場所の選定については現時点では情報
収集の段階で、その後コストや必要性の面から決めたい」と回答したそうだ。
9月14日付
『ヤフー.com』(アメリカ)はAFP通信社の記事を引用し、オランダはアメ
リカからグアンタナモの抑留者2名の引き受け要求があったことを発表した。オラン
ダは一貫してグアンタナモ収容キャンプを「国際法に反する」として、即時閉鎖を求
めてきた。オランダの外務大臣バート・コエンダース氏はこの点につき、オランダ政
府としてはアメリカがグアンタナモ収容キャンプ閉鎖により踏み込んだ措置が取られ
ない限りは収容者の受け入れを考えることはできない」と語ったという。グアンタナ
モ収容キャンプは、ジョージ・ブッシュ前大統領が9・11アメリカ同時多発テロ以
降、テロリストとして検挙した人物を収容する目的で13年前に開設された。抑留者の
待遇でも非難の的であり、反アメリカ勢力の格好の宣伝材料にされてきた。2009年に
オバマ大統領の時代になってからは閉鎖が決まり、自国に送還するか、第三国への移
送がごく少数ずつではあるが進められてきた。
グアンタナモ収容キャンプの閉鎖はキューバとの国交正常化を進める上で重要な課題
であり、オバマ大統領の掲げた公約でもある。今後の展開を見守っていきたい。
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