イタリアのマフィア(犯罪結社)と言えば、謀殺・誘拐・恐喝・麻薬取引・武器輸出等の重犯罪組織で有名である。しかし時代の変遷か、現在ではリスクが少ない割に巨額の利益が得られる、詐欺・脱税・横領・贈収賄・マネーロンダリング・サイバークライム等の経済犯罪(知能犯罪)に特化している模様である。
5月7日付
『ロイター通信』は、イタリアのマフィアが現在、謀殺・恐喝等ではなく経済犯罪集団に特化していると報じている。
イタリアには現在、以下のような4大マフィアが存在する。
●ヌトランゲタ:19世紀初め結成の、伊南西端のカラブリア州を拠点とするマフィア。150団体、約5,200人の構成員を抱える伊最大組織。
●カモッラ:19世紀初頭結成、伊中西部ナポリを本拠。130団体、約6,300人。...
全部読む
5月7日付
『ロイター通信』は、イタリアのマフィアが現在、謀殺・恐喝等ではなく経済犯罪集団に特化していると報じている。
イタリアには現在、以下のような4大マフィアが存在する。
●ヌトランゲタ:19世紀初め結成の、伊南西端のカラブリア州を拠点とするマフィア。150団体、約5,200人の構成員を抱える伊最大組織。
●カモッラ:19世紀初頭結成、伊中西部ナポリを本拠。130団体、約6,300人。
●サクラ・コローナ・ウニータ:1981年結成の一番新しいマフィア、伊南東端のプッリャ州本拠。30団体、約1,800人。
●コーザ・ノストラ:18世紀結成、シチリア島本拠で、19世紀に米国にもわたり米マフィアを結成。現在は、多くの幹部が逮捕されて衰退傾向。
しかし、『ロイター通信』が集計したデータや、欧州連合(EU、1958年前身設立)当局や伊判事・検事・警察他の当局者への取材で分かったことは、現在これらマフィアが挙って重犯罪から経済犯罪集団に変容していることである。
関連データ及び当局者のコメント等は以下のとおり。
・2022年の伊国内の謀殺被害者は僅か17人で、1991年の700人超から大幅減少。
・欧州検察庁(EPPO、2020年設立)が2023年に起訴したEU内の経済犯罪1,927件、被害総額193億ユーロ(約3兆1,980億円)のうち、約3分の1、被害額73億8千万ユーロ(約1兆2,230億円)が伊国内で摘発された犯罪事件で、EPPOは今年2月、伊経済犯罪のほとんどにマフィアが関与と警告。
・EPPOはまた、EUの総額2千億ユーロ(約33兆1,380億円)の景気刺激策のうち、巨額に上る不正請求事件について、マフィアの関与があるとして捜査中。
・伊国家反マフィア、反テロ犯罪検察庁(DNA、2001年設立)は今年4月、伊政府実施の住宅改修補助金制度に関して総額160億ユーロ(約2兆6,510億円)に上る不正請求による詐欺犯罪を摘発と発表。
・DNAのバーバラ・サージェンチ検察官は、“多くの事件にマフィアが関与している可能性大”とコメント。
・伊国内においては、財務省のデータによると、2021年における脱税行為による損失額が830億ユーロ(約13兆7,520億円)。
・伊北東部エミリア・ロマーニャ州警察は今年2月、ヌトランゲタに属するとされる108人を詐欺容疑で逮捕。造船・産業機械整備・清掃・レンタカー等でっち上げたサービス名目で400万ユーロ(約6億6,300万円)の不正請求書を発行して詐取した詐欺行為。
・ミラノの反マフィア検察チーム長のアレッサンドラ・ドルチ氏は、“伊国内では、不正請求書を発行したり、脱税行為を犯した者たちに対して社会的汚名を着せるのが希薄な風潮がある”とした上で、“麻薬密売犯罪等に比べて、経済犯罪への批判の目は厳しくない”とコメント。
・ドルチ氏は更に、“僅か50グラムのコカイン(麻薬の一種)販売容疑には最長20年の禁固刑が科せられるのに対して、5億ユーロ(約830億円)を脱税するために不正請求書を発行してもせいぜい18ヵ月から6年の禁固刑で済んでしまう”とした上で、“従って、マフィアと言えども、低リスク・高収益への犯罪行為に傾倒するのは明白だ”とコメント。
・ミラノ地裁のパスクワーレ・アデッソ判事も、“2011年に恐喝等のマフィア犯罪の被疑者120人を裁いたが、最近ではマフィア絡みの凶悪犯罪起訴事件は一件もない”とした上で、“もはやヌトランゲタは恐喝等の犯罪には拘らず、代わって会社破産に関わる脱税や社会保険料未納事件に注力している”と明言。
・伊優遇制度では、新規起ち上げ企業に対して所得税・社会保険料等の減額・延べ払い等が提供されるが、新規起業家と組んでか、もしくはマフィアが単独で様々な企業を立ち上げ、当該優遇措置を使うことによってコストを安く抑えて商品やサービスを提供して不当利益を収めた後、当該会社を破産して所得税・社会保険料を未納のまま失踪。
・伊国税庁は昨年7月、破産企業の税・社会保障費未納累計額が1,560億ユーロ(約25兆8,480億円)と2023年の法人税収入517億5千万ユーロ(約8兆5,740億円)の3倍にも上っていると議会に報告。
・アデッソ判事によれば、“脱税は6年、付加価値税(VAT、消費税に相当)未納は8年、破産詐欺は10年で時効を迎えてしまうが、複雑な捜査には多くの時間を要するばかりか、仮に有罪判決を下しても、控訴審に進むことになると更に時間がかかってしまい、結局犯罪抑止効果が薄い”とした上で、“第一に経済犯罪の捜査に専門性が必要だが、現在の検察・警察組織内ではその専門捜査官が絶対的に不足”と指摘。
・欧州評議会(1949年設立、民主主義と人権の監視機関)によると、2022年のイタリアにおける経済犯罪服役者は全体の僅か0.9%に過ぎず、フランスの7.1%、ドイツの9.8%に比べて僅少。
閉じる