安全保障面でも不穏な動きを見せる米中(7月6日)
(トランプ大統領・ファーウェイを輸出規制リストから除外しない方針を打ち出す)
米中貿易戦争突入から1年が経過した。6月29日の米中首脳会談で貿易協議を再開することになり、一時停戦になるかとみられていたが、早くも雲行きが怪しくなってきた。米中首脳会談では双方の基本的な対立点はまったく解消されなかった。さらに米国は全ての輸入品に対象を広げる交渉カードを手放してはおらず、トランプ大統領が判断すればすぐにでも貿易戦争は再開されてしまう。...
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(トランプ大統領・ファーウェイを輸出規制リストから除外しない方針を打ち出す)
米中貿易戦争突入から1年が経過した。6月29日の米中首脳会談で貿易協議を再開することになり、一時停戦になるかとみられていたが、早くも雲行きが怪しくなってきた。米中首脳会談では双方の基本的な対立点はまったく解消されなかった。さらに米国は全ての輸入品に対象を広げる交渉カードを手放してはおらず、トランプ大統領が判断すればすぐにでも貿易戦争は再開されてしまう。会談でトランプ大統領はファーウェイへの輸出を一部容認すると表明したが、会談後、「どこからでも入手可能な半導体に限る」と発言を修正し、ファーウェイを輸出規制リストから除外しない方針を打ち出した。これに対し中国側は首脳会談での約束を守るようにと反発しており、いつ貿易戦争が再開してもおかしくない。トランプ大統領の強硬姿勢の背後には2020年の米国大統領選に向け、中国に批判的な議会が控えているものとみられる。一方、中国・習近平国家主席も8月に共産党の重要会議を控えているため、弱腰姿勢はみせられない。ただ、世界経済にとっては両者の対立はマイナスでしかない。追加関税の発動開始から今年4月までの制裁対象品の相手国への輸出額を集計したところ、米中ともに適用前より2兆円前後減ったことでもそれは証明されている。米中の応酬が双方の打撃となるだけでなく、世界のサプライチェーンを破壊することにつながり世界経済の下振れリスクとなっている。すでに米中の長期戦を見込んだ多国籍企業は対米輸出の拠点を中国から他国に移転させる動きを加速させている。米国のシンクタンク関係者でさえ「(米中は)協議を再開しては決着できないということを何度も繰り返しているだけであり、そう簡単には解決しない」と指摘している。
(安全保障面でも不穏な動きを見せる米中)
米中は安全保障面でも不穏な動きをみせている。中国軍が南シナ海で対艦ミサイルの発射実験を行ったとNBCニュースなど複数の米国メディアが報じている。発射されたミサイルの種類はわかっていないが、いずれも南シナ海に着水し、中距離対艦弾道ミサイルDF21Dが中国本土から発射されたのではないかという一部の観測が出ている。今回のミサイル発射は米国が南シナ海で展開する航行の自由作戦をけん制する狙いがあるとみられる。米国国防総省は「これまで南シナ海を軍事拠点化しないとしてきた中国の立場と完全に矛盾するものだ」として強く非難している。これに対し中国外務省は「南シナ海に空母を派遣しているのは米国であり、波風を立てているのが誰かは明らかだ」と反発し台湾・南シナ海をめぐる安全保障分野でも米中の対立が鮮明になってきている。これら安全保障の不穏な動きと貿易戦争がリンクしないことを祈るばかりである。
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米中首脳会談:曖昧さを残す妥協(6月30日)
29日行われた米中首脳会談によって、5月以来中断していた米中間の貿易交渉は再開されることになった。首脳会談が不調に終わった場合、米国は対中輸入3000億㌦分について25%の追加関税をかけるとされていた件はひとまず回避されることになった。
またトランプ大統領は会見で、華為技術に対する米国からの輸出に関して、安全保障上問題なければ輸出は可能とした。「人民日報」の記事を見る限り、首脳会談で華為を特定する話し合いは行われなかった模様。...
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29日行われた米中首脳会談によって、5月以来中断していた米中間の貿易交渉は再開されることになった。首脳会談が不調に終わった場合、米国は対中輸入3000億㌦分について25%の追加関税をかけるとされていた件はひとまず回避されることになった。
またトランプ大統領は会見で、華為技術に対する米国からの輸出に関して、安全保障上問題なければ輸出は可能とした。「人民日報」の記事を見る限り、首脳会談で華為を特定する話し合いは行われなかった模様。
追加関税が検討されていた3000億㌦分については消費財も多く含まれていたことから、国内販売する際の値上げをせざるを得ないなど、米国への消費者への影響が大きく、来年の大統領選挙に向けて、トランプ大統領は課税を避けたいとの意向があったものと思われる。2018年7月以来3回にわけて課されている2500億㌦分の追加関税についてはそのままである。
今後米中間の実務者会議は続行されることになったが、米中間で問題となっていた中国の国有企業に対する産業補助金や技術開発の問題は、中国側も容易には取り消すことができないことから、交渉は難航しそうである。交渉が長引いた場合、また3000億㌦分の追加関税が俎上に上る可能性もある。
会談ではこのほか、中国人留学生のビザがおりにくくなっていることもあり、「中国人留学生を公平に扱い、人的交流に支障をきたさないように」という中国側からの要望もあり、また台湾問題も話題にのぼった。
さらに朝鮮半島情勢についても話題はおよび、中国は米朝が接触を続けていることを支持し、朝鮮半島問題に中国が建設的な役割を果たすと述べている。
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米中首脳会談の行方(6月29日)
(G20・米中首脳会談・米国、追加の関税の上乗せ見送り)
世界37の国と地域、国際機関を招いて行われる世界規模のイベント・G20サミットが大阪で開幕した。最大の焦点は米中貿易戦争であり、その当事者が直接対峙する米中首脳会談が7か月ぶりに開催された。会談冒頭で習主席が「我々は協力と対話の方が対立するよりずっと良い。最近、大統領と私は電話や書簡の交換をするなどして対話を増やしている。今日、私は根本的な問題、両国の関係に関する方向性で意見を交換したいと思っている」と語ると、トランプ大統領は「私たちは友人となった。...
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(G20・米中首脳会談・米国、追加の関税の上乗せ見送り)
世界37の国と地域、国際機関を招いて行われる世界規模のイベント・G20サミットが大阪で開幕した。最大の焦点は米中貿易戦争であり、その当事者が直接対峙する米中首脳会談が7か月ぶりに開催された。会談冒頭で習主席が「我々は協力と対話の方が対立するよりずっと良い。最近、大統領と私は電話や書簡の交換をするなどして対話を増やしている。今日、私は根本的な問題、両国の関係に関する方向性で意見を交換したいと思っている」と語ると、トランプ大統領は「私たちは友人となった。私は習主席と協力ができることを楽しみにしている。すばらしい関係が構築できるだろう。私は貿易に関してさらなる対応を中国に求めていきたいと思っている。私たちは少しうまくいかなかった部分もあるが、公平な貿易を築くことは歴史的なことであり、私は中国との建設的な話し合いを楽しみにしている。両国にとって素晴らしい成果を期待している」と述べた後、テレビカメラは会場からシャットアウトとなった。両者は時折、笑顔をみせるものの、ぎこちない対応をみせていたが、中国国営メディアは、「米国は会談の中で中国からの輸入品に対して追加の関税の上乗せを見送る」と伝え、その上で、「両国の交渉チームは具体的な問題について、今後議論を行う」と報じた。大きな進展は難しいと踏んでいたので中国にとっては想定内の結果だったとみられる。
(米中貿易戦争に対し各国から懸念の声)
今回、G20参加各国、地域、国際機関からは米中貿易戦争に対する懸念の声が相次いでおり、G20会議の冒頭挨拶では、G20ホスト国の議長である安倍首相でさえ、米中を念頭に「貿易制限措置の応酬はどの国にとっても利益にならない」と訴えた。28日のデジタル分野での特別会合の席では安倍首相をはさんでトランプ大統領と習近平国家主席が並んですわるという緊迫した場面も見られた。5Gというハイテク分野をめぐり、米中が早くも火花を散らした格好となった。この席で習主席が「データは石油と同じだ。公平で差別のない市場を作るべきであり、人的に市場に介入するのはいかがなものか。ドアを閉めるべきではない」とトランプ大統領をけん制したのに対し、トランプ大統領は「自由なデータの流通のためには5Gの安全性と頑丈さが不可欠だが、ファーウェイ製品を使えば、中国政府に機密情報が筒抜けになってしまう」「米国はデータの囲い込みに反対する」などと反撃し、習主席が一瞬表情をこわばらせる場面もみられた。当初、習主席はこの会合に欠席する意向だったというが、前日の日中首脳会談で安倍首相が習主席に参加を求め、参加が決まった。安倍首相はトランプ大統領、習主席と個別に会談したが、習主席に米中貿易摩擦による緊張緩和を促したのに対し、習主席は貿易不均衡問題への是正については前向きともみられる姿勢を示した一方で体制の根幹に関わる問題については、頑なな姿勢を崩しておらず、両国の溝は大きいと言わざるを得ず、米中の対立は長期に渡って続くものとみられる。
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米中は交渉継続で合意(6月29日)
G20に出席していた米国のトランプ大統領と中国の習近平主席は6月29日二者会談を行い、平等互恵の原則に基づいて、貿易交渉を再開することで合意した。米側は中国の輸出産品に新たに追加関税をかけないことになった。両国の経済貿易代表団が今後事務折衝を行うことになる。「人民日報」電子版が29日12時34分に伝えたもの。
G20直前・米中首脳会談の注目点(6月23日)
米中電話会談が行われ「中国との合意の可能性はある」とトランプ大統領が述べたり、米中貿易協議を再開させるなどの動きが出てきており、米中間の雪解けムードが出ている中、21日米国商務省は中国政府の基幹システムを手掛ける中国政府系スパコン大手「曙光信息産業」と米国半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイシズ(AMD)との合弁を組んでいる「天津海光先進技術投資」、さらには「成都海光集成電路」、「和成都海光微電子技術」、中国人民解放軍系の研究所である「無錫江南計算技術研究所」の計5社を米国の安全保障上リスクがある外国企業のリスト(EL)に加えた。...
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米中電話会談が行われ「中国との合意の可能性はある」とトランプ大統領が述べたり、米中貿易協議を再開させるなどの動きが出てきており、米中間の雪解けムードが出ている中、21日米国商務省は中国政府の基幹システムを手掛ける中国政府系スパコン大手「曙光信息産業」と米国半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイシズ(AMD)との合弁を組んでいる「天津海光先進技術投資」、さらには「成都海光集成電路」、「和成都海光微電子技術」、中国人民解放軍系の研究所である「無錫江南計算技術研究所」の計5社を米国の安全保障上リスクがある外国企業のリスト(EL)に加えた。これら5社のELリスト入りはファーウェイに続く形となり、中国政府の激しい反発が予想される。ELは通商分野における事実上のブラックリストであり、一度掲載されてしまうと対象企業や団体に米国製品を輸出することが難しくなる。「中国製造2025」を警戒するトランプ政権が中国企業による米テクノロジーへのアクセスを制限しようという狙いがある。「曙光信息産業」は中国政府のために監視カメラや治安維持のための基幹システムを手掛ける企業で、米国製半導体の供給が停止されると開発に行き詰まる可能性がある。その一方で今回ELに加えられた5社と取引のある米国半導体企業・AMD、インテル、エヌビディアなどの大手各社も返り血を浴びる可能性がある。米国は今回の禁輸措置をG20において開催される米中首脳会談で「制裁関税第4弾」、「香港人権問題」、「ファーウェイ問題」、「為替問題」と並ぶ中国を揺さぶるためのカードとして使うとみられている。米中首脳会談が行われることは確かだが、米国が持つカードと比べると、中国の持つカード(北朝鮮問題、農業問題、レアメタル禁輸、米国債売却、中国人観光客の制限など)は見劣りするが、8月に中国共産党の重要会議である北載河会議を控える習主席はここで安易な妥協をするわけにはいかない。米中首脳会談は特に中国にとっては相当厳しい内容になるとみられる。
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