王毅中国外相の訪朝(5月4日)
南北朝鮮の首脳会談をうけて王毅・中国外相が北朝鮮を訪問、5月2日には李容浩外相に、3日には金正恩委員長と各々会ったことが報じられた。南北首脳会談や米朝首脳会談について話し合われたものと思うが、王毅外相と両者との会談で各々「中朝の伝統ある関係」が強調されていた。2017年までの中朝の「冷たい関係」はなかったことのように、中国は北朝鮮への影響力を誇示する形になっている。
金正恩委員長との会見を紹介した「人民日報」の記事では、習近平の肩書を「主席」と「総書記」を使い分けて書かれている。...
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南北朝鮮の首脳会談をうけて王毅・中国外相が北朝鮮を訪問、5月2日には李容浩外相に、3日には金正恩委員長と各々会ったことが報じられた。南北首脳会談や米朝首脳会談について話し合われたものと思うが、王毅外相と両者との会談で各々「中朝の伝統ある関係」が強調されていた。2017年までの中朝の「冷たい関係」はなかったことのように、中国は北朝鮮への影響力を誇示する形になっている。
金正恩委員長との会見を紹介した「人民日報」の記事では、習近平の肩書を「主席」と「総書記」を使い分けて書かれている。党の「総書記」の肩書を使っているということは、中朝関係は「党の関係」も含めて1980年代までの「特別な関係」に戻っていることを示している。また金正恩委員長は習近平主席への挨拶を伝えるとともに「朝鮮半島の非核化実現は朝鮮側の揺るぎない立場だ」「朝鮮側は、朝鮮半島の平和・安定に向けた中国側の積極的な貢献を高く評価する。中国側と戦略的な意思疎通を強化したい」と表明し、中国側の支援を要請している。
一方李容浩外相との会談で、王毅外相は「中国は、朝鮮半島の非核化に関する北朝鮮の尽力を支持し・・・北南双方の関係改善を支持する」としているが、さらに「朝鮮が経済建設に力を注ぐことを支持する」とも述べている。また双方の政治外交部門は協調して、中朝双方の経済貿易協力を進めていこうとも述べている。
南北首脳会談が行われても、また米朝首脳会談が予定されていても、国連の経済制裁は解除されていない。安倍首相は「圧力をかけ続けなければならない」と言っているのだが、中国はすでに経済交流を進展させようとしている。中朝の貿易物資の7割が通過するという遼寧省の丹東では、経済交流の活発化を見込んで、不動産価格があがっているというし、一旦は閉鎖された中国内の北朝鮮レストランも再開されたという。
かつて中国とソ連が対立していた時代、北朝鮮は両国との関係を天秤にかけながら、「小国」北朝鮮が大国である中国やソ連に翻弄されないように、綱渡り的な、しかし巧知にたけた外交を行っていた。かつての知恵を思い出したかのように北朝鮮は現在米国と中国の間を巧みに進んでいるかのようである。もちろん今の中国は北朝鮮の「巧知」を知りながら、東アジアのみならず世界への影響力を示すために逆に利用しているわけである。
(李容浩外相は、中国の表記では「李勇浩」になっているが、日本での一般的な表記によった。)
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北朝鮮は改革・開放を行うのか(5月3日)
北朝鮮の国営メディアは、北朝鮮で4月30日「経済発展のための連席会議」が開催され、この会議で「人的・物的・技術的な潜在力を総動員した強力な社会主義経済建設について話し合われた」と報じたとして、それに関し「朝鮮日報」(電子版2018年5月2日)で年は金正恩委員長が中国式の改革開放政策をしようとしているのではないかと伝えている。
果たして北朝鮮は改革・開放政策を行うのか。
開放政策の一環である、外資導入に関しては、北朝鮮は外資導入のための法律「合営法」を中国から遅れることわずか5年の1984年に発表している。...
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北朝鮮の国営メディアは、北朝鮮で4月30日「経済発展のための連席会議」が開催され、この会議で「人的・物的・技術的な潜在力を総動員した強力な社会主義経済建設について話し合われた」と報じたとして、それに関し「朝鮮日報」(電子版2018年5月2日)で年は金正恩委員長が中国式の改革開放政策をしようとしているのではないかと伝えている。
果たして北朝鮮は改革・開放政策を行うのか。
開放政策の一環である、外資導入に関しては、北朝鮮は外資導入のための法律「合営法」を中国から遅れることわずか5年の1984年に発表している。プラザ合意の1年前という絶好のタイミングであった。しかし当時の北朝鮮は1970年代に導入したプラント代金が支払えず、北朝鮮の輸出規模に比べれば大きな対外債務を抱え、カントリー・リスクの高い国となっていたこともあり、北朝鮮へ投資したのは在日朝鮮系の企業が数社という状況であった(北朝鮮が債務の支払いを行わなかったことから、日本では貿易保険が支払われた)。
改革でいえば、2002年の「経済管理改善措置」が行われ、農業ではそれまでの集団農場から7~8戸単位の分組制が導入され、工業でも実利主義を導入した。また賃金もあげたが、一方でこれまで無料あるいはタダ同然であった家賃や水道代などを相応の価格に引き上げた。また金正恩時代になってからも2012年、14年にさらなる「措置」を打ち出した。
これらの「措置」は一見すると中国の改革開放政策の初期に似ているように見える。実際北朝鮮の合営法は、中国の外資導入法を意識して中国よりも少しだけ有利になっている。また2016年までに26か所の経済開発区が設置されている。
ただし根本的なところで北朝鮮の「措置」は中国の改革開放政策とは異なる。中国の改革開放政策は1966-76年の10年間にわたって中国で吹きあれた文化大革命の否定から始まっている。人々は新しい時代になったことを実感し、金もうけに邁進することができた。それに対し北朝鮮では金日成、金正日、金正恩という世襲体制のなかで、以前の政策はその一部でさえも否定されていない。
もちろん配給が正常に行われていない現在の北朝鮮では、人々は市場で売買を行い、金主(トンジュ)と呼ばれる、ブロカーも誕生している。ただしそれは必ずしも政策的に誕生したわけではない。今回の会議でどのような政策が打ち出されるのかはわからない。金正恩政権のもとでは「軍事と経済の並進路線」がとられていたものが、2017年に核が完成したので、経済に力をいれることになるのかもしれない。ただし経済政策に金正恩色を出そうとして、現在ある市場の活力を削ぐようなことになれば、混乱が起こる可能性もある。
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朝鮮半島情勢に対する中国の役割(5月2日)
南北首脳会談から5日。韓国は北朝鮮向け宣伝放送のスピーカーを取り外し、北朝鮮は韓国との30分の時差を5日から同一時間に戻すとしている。もっともこの時差は2015年8月15日、つまり金正恩時代に始まったものである。何はともあれ、南北朝鮮の融和ムードが続くなかで、王毅・中国外相が訪朝している。
当然ながらこの件に関する両国からの報道はないが、南北首脳会談の結果や米朝会談について話し合われているものと思われる。...
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南北首脳会談から5日。韓国は北朝鮮向け宣伝放送のスピーカーを取り外し、北朝鮮は韓国との30分の時差を5日から同一時間に戻すとしている。もっともこの時差は2015年8月15日、つまり金正恩時代に始まったものである。何はともあれ、南北朝鮮の融和ムードが続くなかで、王毅・中国外相が訪朝している。
当然ながらこの件に関する両国からの報道はないが、南北首脳会談の結果や米朝会談について話し合われているものと思われる。朝鮮戦争の休戦協定を平和協定にするのならば、中国も当事者であるので、中国の関与が必要である。「取引」上手なのはトランプ大統領かもしれないが、中国にとっても北朝鮮あるいは朝鮮半島は米国に対する「取引」の材料になる。
中国は社会主義国との関係を「党と党が特殊な関係」であると定義しており、北朝鮮との関係も当然その一つだった。しかし中国と韓国が国交を樹立(1992年)して以降、中国と北朝鮮の関係は、他の国交を樹立している国との関係と同様であると定義している。つまり「普通の関係」になっていた。
それでも胡錦涛時代は北朝鮮との関係を「先経貿」と称し、北朝鮮の鉱物資源の開発輸入を行い、また折から中国の人件費が上昇していることもあって、繊維製品を北朝鮮の工場で縫製するという委託加工貿易を行ったことから、貿易額は増加していった。ところが中国で習近平政権が、北朝鮮で金正恩政権が誕生すると二国間関係は大きく変わった。習近平が「先非核」を唱え、北朝鮮に非核化を強く促すようになったからである。2013年2月に北朝鮮は3度目の核実験を行ったが、核実験の兆候が見え始めたときに、人民日報系の「環球時報」では「もし朝鮮が3度目の核実験をしたならば、朝鮮は代償を払わなければならない」とさえ書いていた。習近平主席の訪朝はまだ実現していないが、韓国はすでに訪問している。
核実験、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対し、2017年後半に中国は国際社会と軌を一にして一段と厳格に北朝鮮に対し経済制裁を行うようになった。そのようななか2018年3月13日の「環球時報」で突然「中国と北朝鮮の間には核問題を除いて問題はない」とする奇妙な文章が掲載され、3月25日には金正恩委員長は訪中したのであった。トランプ大統領が米朝首脳会談を行うことを応諾するという「想定外」の事態が起こり、北朝鮮は中国の後ろ盾を求め、中国は米国に対する対抗措置として、北朝鮮のメンターであることを誇示しなくてはならなかったのであろう。中国はそれが習近平の心からの願いではなかったとしても外交戦術の妙手をうったことになる。
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北朝鮮の非核化:リビア方式で解決するか(5月1日)
4月29日にテレビ出演した米国のボルトン大統領補佐官が、北朝鮮の非核化に関し、リビアの前例をあげ、国際社会の制裁を維持しながら、まず北朝鮮が非核化を着実に実行することが欠かせないと述べた。実行の手順としては非核化も制裁解除も段階的に行うのであれば、またしても北朝鮮の時間稼ぎに終わりかねず、非核化が中途半端に終わる可能性が高く、この方式は妥当である。ただし「リビア方式」という言葉を米朝首脳会談の場でもちだせば、北朝鮮は直ちに拒否反応を示すだろう。...
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4月29日にテレビ出演した米国のボルトン大統領補佐官が、北朝鮮の非核化に関し、リビアの前例をあげ、国際社会の制裁を維持しながら、まず北朝鮮が非核化を着実に実行することが欠かせないと述べた。実行の手順としては非核化も制裁解除も段階的に行うのであれば、またしても北朝鮮の時間稼ぎに終わりかねず、非核化が中途半端に終わる可能性が高く、この方式は妥当である。ただし「リビア方式」という言葉を米朝首脳会談の場でもちだせば、北朝鮮は直ちに拒否反応を示すだろう。主な理由は3つある。
第一に、リビアは2003年に核を放棄した後に、経済制裁も解除され、06年には米国とも国交正常化はした。しかし当時のリビアの最高指導者であったカダフィ大佐は2011年に反乱軍に殺害されたが、この内乱のかげにはNATOの介入があったのではないかといわれている。金正恩委員長が「体制の保証」にこだわるのも、核を放棄したならば、金正恩自身が滅ぼされてしまうのではないかと思っているからである。イラクも結局核を保有していなかったにも関わらず、大量破壊兵器を所有しているのではないかとの疑いのもとにイラク戦争が行われ、フセインは逮捕・処刑された。金正恩委員長にしてみれば、フセイン大統領も本当に核を保有していれば、滅ばされることはなかっただろう、ということになる。
第二に、リビアが核を廃棄した当時、リビアの核はまだ計画段階であり、廃棄することに対するリビア自身の経済的損失は現在の北朝鮮に比べれば少なく、また廃棄の後の検証も比較的簡単であった。しかし北朝鮮の場合はすでに30年以上の歳月と金額をかけて核兵器を開発し、保有しているのであり、非核化の困難さの程度はリビアとは全く異なる。
第三に、南北朝鮮の首脳会談で合意に達したのは「朝鮮半島の非核化」であり、北朝鮮だけの非核化ではない。在韓米軍が保有しているかもしれない核も含めての非核化なのである。北朝鮮だけが「不利益」になるような方式は決して受け入れられるものではない。
「リビア方式」はボルトン大統領補佐官の個人的意見なのかもしれないが、もし米国がこのような行程表を思い描いているのであれば、米国の準備不足と外交的交渉術不足の感が否めないし、朝鮮半島の非核化、北東アジアの平和はかえって遠のく可能性さえある。
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人類が置かれている危険な現実(5月1日)
先週の4月27日に朝鮮半島で行われた「南北首脳会談」の衝撃がまだ消えていない。
悪辣非道の独裁者と思われていた北朝鮮の「金正恩」朝鮮労働党委員長だが、予想に反して、人並みの笑顔とウイットがある冗談を交え、南北融和の救世主のような立ち居振る舞いから、世界からの評価が一気に上がり、米国トランプ大統領のお眼鏡にもかない、米朝首脳会談が開催される動きが活発になっている。
世界の目というものは、それほどまでに寛容なのかと、不思議な感覚に陥った。...
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先週の4月27日に朝鮮半島で行われた「南北首脳会談」の衝撃がまだ消えていない。
悪辣非道の独裁者と思われていた北朝鮮の「金正恩」朝鮮労働党委員長だが、予想に反して、人並みの笑顔とウイットがある冗談を交え、南北融和の救世主のような立ち居振る舞いから、世界からの評価が一気に上がり、米国トランプ大統領のお眼鏡にもかない、米朝首脳会談が開催される動きが活発になっている。
世界の目というものは、それほどまでに寛容なのかと、不思議な感覚に陥った。
トランプ米大統領の言説をみても、中国の評価からも、おだて気味であるが、交渉相手に足る人物との評価を下しているようである。
多くの人々が、違和感を感じる「外交的判断」である。
半年前まで、核戦争の危機にあった状況が、一遍にデタントへ向かう「効果」は確かに現実的に生じたと言えるかもしれない。
そして私たちは、人類が今、勝ち得ている「一見平和」という状況をもう一度正面から考えてみる必要があるようだ。
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