キリスト教ローマ・カトリック教会の法王庁(バチカン市国、1929年国家成立)は2018年、長年対立してきた司教の任命をめぐる協議について中国側と暫定合意した。しかし、それ以降、中国によるキリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒への弾圧が益々厳しくなっていて、深刻な人権侵害も報告されていることから、バチカン市国の中国との関係復活への動きに大きな非難の声が上がっている。なお、同国は欧州で唯一台湾と外交関係にある。
10月13日付
『Foxニュース』:「バチカン市国に対して、中国共産党との暫定合意を更新しようとする動きに非難の嵐」
バチカン市国は目下、2年前に締結した中国共産党との暫定合意の更新に入ろうとしている。
しかし、中国はキリスト教徒にとって最も危険な国のひとつであることより、米高官のみならず人権活動家からも非難の声が上がっている。
2018年に締結された暫定合意の詳細な記述内容は明らかにされていないが、ローマ法王が全世界の教区ごとに司教を任命するとの制度の例外として、中国が独自に任命した司教を同法王が追認する内容が盛り込まれていると言われている。...
全部読む
10月13日付
『Foxニュース』:「バチカン市国に対して、中国共産党との暫定合意を更新しようとする動きに非難の嵐」
バチカン市国は目下、2年前に締結した中国共産党との暫定合意の更新に入ろうとしている。
しかし、中国はキリスト教徒にとって最も危険な国のひとつであることより、米高官のみならず人権活動家からも非難の声が上がっている。
2018年に締結された暫定合意の詳細な記述内容は明らかにされていないが、ローマ法王が全世界の教区ごとに司教を任命するとの制度の例外として、中国が独自に任命した司教を同法王が追認する内容が盛り込まれていると言われている。
宗教団体オープン・ドアーズ(注後記)米国支部のデビッド・カリー代表は『Foxニュース』のインタビューに答えて、“2018年の合意は暫定的なものであったが、悲惨な結果をもたらした”とし、“それ以降の2年間で、中国政府のキリスト教弾圧は強硬となり、不意に教会の礼拝が禁止され、当局の命令に従わない司教は拘束され、また、教会から十字架を撤去させられている”と訴えた。
そもそもバチカン市国は1950年代初め、当時の毛沢東(マオ・ツォートン、1893~1976年)主席時代に、教会が破壊されて宣教師も国外追放されたことから、中国との国交を断絶していた。
そして長い間、司教の任命について、バチカン市国の制度を無視して中国独自の方式を採用してきた。
カリー代表は、“バチカン市国は中国におけるキリスト教布教への関与を強めたいとの意向で暫定合意を締結したのかも知れないが、むしろ中国共産党の独自方針を追認する形になってしまった”とした上で、“何故なら、中国政府は司教任命に当たって中国共産党を礼賛することを条件付け、更に、国家監視機関が礼拝に誰が参加したか監視するようになったから”だと非難した。
また、米『カトリック教通信社』(2004年設立)の解説者は『Foxニュース』に対して、“ローマ法王庁は、中国との合意更新によって、中国の極端な宗教政策に異議を申し立てる機会を得ようとしているのかも知れないが、むしろそれ以上に中国側にメリットとなるのは、バチカン市国との連携強化によって、国際社会での中国の名声を向上させるという意図があるから”だと批評している。
とにもかくにも、トランプ政権が人権侵害や宗教弾圧等を理由に対中国強硬政策を展開している現状下、フランシスコ法王(83歳、アルゼンチン出身、2013年就任)の後ろ盾を得ることは、中国にとって願ってもない機会だと考えられる。
しかしながら、バチカン市国は9月下旬、マイク・ポンペオ国務長官の表敬訪問を拒絶した。
理由は、米大統領選直前であるため、政治的中立を保つために避ける必要があった、とされているが、中国にとって思う壺にはまったとほくそ笑んでいる。
一方、習近平(シー・チンピン)政権下で、宗教家らに対して、中国共産党のイデオロギーや共産主義の価値を礼賛することが義務化され、益々宗教弾圧が強まっている。
当局の命令に背いた信徒らは、深夜に突然“消息不明”になったり(当局による拘束)、暗い地下牢に閉じ込められて超法規的に死に追いやられたりしている。
米国在のジョセフ・グリーボスキ司教は、“中国におけるキリスト教徒迫害と人権侵害は想像を絶するもの”だと嘆いた。
なお、中国において迫害を受けているのはキリスト教徒に留まらず、100万人余りに及ぶウィグ族のイスラム教徒は強制的に収容所に押し込められて思想教育を受けさせられるだけでなく、女性は中絶や不妊治療を強いられている。
また、仏教を中心とした法輪功(ファールン・ゴン)の信徒は、恣意的に拘束され、ある者は強制的に臓器摘出され、またある者は拷問されたりしている。
そこで、カリー代表は改めて、“バチカン市国は中国とのこれ以上の連携は止め、教会は政治的介入を許さない神聖な場所であることを強くアピールすべき”だと強調している。
(注)オープン・ドアーズ:キリスト教徒が社会的及び法的に迫害されていると考えられている60以上の国家において、迫害されているキリスト教徒を支援する超教派の宣教団体。1955年設立。本部はオランダ。聖書・キリスト教文学作品の配布、音声録音、キリスト教放送及び信徒訓練の実施などにも関わっている。
閉じる