安倍晋三首相(66歳)が2016年に標榜したインド太平洋構想(注後記)は、その後の米国の積極関与に続いて、オーストラリア、インドも参画することで具体化されつつある。そうした中、欧州連合(EU)も2019年、中国は戦略的競争国とする戦略を打ち出し、近い将来の政治・経済の中心となると見込まれるインド太平洋地域に積極的に関わるようになり、この程、フランス、ドイツ、オランダに続いて、イタリアも同地域、特にインドに対象を絞って進出する方針を表明した。
12月19日付
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「イタリアがインド太平洋、特にインドへの進出を図る理由」
今年の11月、EUの中では小国と思われるオランダが、インド太平洋地域に進出するとの戦略を発表したニュースに注目が集まった。
これは、EUにおいてはフランス(2018年)、ドイツ(2020年)に続いて3ヵ国目の方針発表であるが、今後数十年で当該地域が政治・経済の中心となるという見方をより強調することになるからである。...
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12月19日付
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「イタリアがインド太平洋、特にインドへの進出を図る理由」
今年の11月、EUの中では小国と思われるオランダが、インド太平洋地域に進出するとの戦略を発表したニュースに注目が集まった。
これは、EUにおいてはフランス(2018年)、ドイツ(2020年)に続いて3ヵ国目の方針発表であるが、今後数十年で当該地域が政治・経済の中心となるという見方をより強調することになるからである。
そこで同地域の中心となるのは、民主主義の国として最大の人口を誇るインドであることは間違いない。
EU自身2019年に、中国を“戦略的競争国”と位置付け、その先にあるパートナーとしてインドとの関係強化を言い出している。
インド自身も、同地域を経由する国際貨物海上輸送の安全を確保する役を果たすべく具体的政策を実施し始めている。
そうした中、この程イタリアもインド太平洋地域進出方針を表明するに至っている。
これまでイタリアはインドと、投資、鉄道開発、ファッション事業、自動車生産等で重要な関係を築いている。
両国間の2019年の貿易高は95億2千万ユーロ(約1兆2,090億円)であり、イタリアはインドにとって、EU内で5番目の貿易相手国となっている。
イタリアも、2020年のインド宛直接投資額が20億ユーロ(約2,540億円)になると言われている。
国防面においても、この程イタリア北東端の国営造船グループ会社フィンカンティエリ(1959年設立)がインド南西端のコチ造船所(1972年設立のインド最大手)との間で、軍艦設計、インド国内建造、海上自動操縦システム、インド人スタッフ教育等に関わる覚書を締結している。
また11月には、ナレンドラ・モディ首相(70歳)とジュゼッペ・コンテ首相(56歳)がテレビ会議を行い、農業、インフラ、クリーンエネルギー分野の相互提携につき合意している。
ただ、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題によって国際情勢は一変してしまっていることから、両国ともインド太平洋地域における協力体制について、もう一度見直す必要にあると考えられる。
インドは、太平洋~インド洋をつなぐ海上輸送ルートにおける安全航行を確保する国として、益々その重要性が増してきている。
そして、イタリアとしても、アジアから、あるいはアジア向け海上貨物の経由ルーとしての地中海、更には紅海~西インド洋ソマリア沖までの海域の安全確保まで関わることが求められよう。
一方、主要20ヵ国首脳会議(G-20サミット)の開催場所として、2021年イタリア(第16回)及び2022年インド(第17回)が決定されていることから、COVID-19問題で大きく毀損された世界経済の立て直し、また加盟国間のCOVID-19後の関係見直しの協議について、中心的役割を担うことが期待される。
なお、来年9月にイタリアで開催される、イタリアの詩人・哲学者・政治家ダンテ・アリギエーラ(1265~1321年)没後700年記念式典にモディ首相が出席することになっており、両国間の関係強化は今後も進捗していくものとみられる。
(注)インド太平洋構想:太平洋とインド洋を結ぶ地域で、法の支配や市場経済を重視する国が協力する構想。地域の平和と安定、繁栄に貢献し、経済と安全保障の両面で連携をめざす。日本、米国、オーストラリア、インドが中核となる。経済面では東南アジアやアフリカで道路、橋梁など都市インフラの整備を進めることで、中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」への対抗となる。安保分野では、中国の海洋進出を念頭にアジアと中東を結ぶシーレーン(海上交通路)を守る狙いがある。
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菅義偉新首相(71歳)は、今年韓国で開催される予定となっている日中韓サミットについて、元徴用工賠償請求問題で韓国政府が責任ある対応を取らない限り、同サミットへの参加を見合わせると強硬である。これについてアジア国際問題研究所(IPCS、1996年設立のインドのシンクタンク)が、日韓問題がこじれることで、米国との連携が乱れることに繋がるとして、米対立が深刻化している中国が漁夫の利を得ることになる、と分析している。
10月29日付
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「分析レポート:日中韓サミットキャンセルで中国に利」
(IPCS分析レポート)
菅義偉首相は、元徴用工問題で韓国政府が“適切な対応”を取らない限り、年内に開催が予定されている日中韓サミットに出席することは“難しい”と表明していると報じられている。
2018年に韓国大法院(最高裁に相当)が、第二次大戦中に日本企業2社に不当労働を強いられたとして元徴用工が訴えた損害賠償請求を認める判決を出している。...
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10月29日付
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「分析レポート:日中韓サミットキャンセルで中国に利」
(IPCS分析レポート)
菅義偉首相は、元徴用工問題で韓国政府が“適切な対応”を取らない限り、年内に開催が予定されている日中韓サミットに出席することは“難しい”と表明していると報じられている。
2018年に韓国大法院(最高裁に相当)が、第二次大戦中に日本企業2社に不当労働を強いられたとして元徴用工が訴えた損害賠償請求を認める判決を出している。
これによって、両国間の関係は一層悪化している。
これに先立つ2017年、韓国保守党政権の時代に日韓間で2015年末に成立した“最終かつ不可逆的な”慰安婦問題日韓合意を現革新政権が反故にしたことから、両国間の軋轢は強まり、それぞれが相手を攻撃する関係に陥っていた。
2008年に始まった日中韓サミットについては、2012年まで毎年持ち回り(日本→中国→韓国)で開催されてきた。
途中、当時の関係国間軋轢から、2013・2014年及び2016・2017年開催が見送られたが、2018・2019年と復活開催されている。
このサミットの開催意義は、アジアの雄である3ヵ国が、経済やその他対立しない事項についての相互協力を確認、強化していくことにある。
しかし、現在の日韓を取り巻く環境下、年内での3ヵ国サミット開催は難しくなったとみられる。
両国間の対立は相互貿易関係にも現れていて、2019年の韓国の対日輸出額は6.9%、また対日輸入額は12.9%、それぞれ前年比大幅減少となっている。
一方、仮に3ヵ国サミットが開催されずとも、中国にとっては有利にはたらく。
何故なら、日韓両国とも中国が対立を激化している米国の同盟国であるが、日韓間の対立によってそれぞれの対米関係に影響を及ぼすとみられるだけでなく、そもそも中国は日本、韓国と個別に経済及び政治的関係強化を図ってきていることから、米国関与の余地を減じるという意味で、むしろ中国にとって漁夫の利となるとみられるからである。
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