インドは、東西冷戦終結以降も非同盟主義を貫いてきている。しかし、経済安全保障の観点からは、パキスタンとのカシミール紛争で長い間ソ連・ロシアからの支援を得てきたことから、外交・軍事・エネルギー等多くの分野でロシアに依存している。ウクライナ戦争に伴うエネルギー資源価格高騰問題においても、ロシア産原油等を安価で大量輸入して凌いでいる。かかる背景から、今度は欧米諸国の制裁に喘ぐロシアが、入手困難な主要部品類を大量輸出するようインドに要請している。
11月29日付
『ロイター通信』は、「制裁に喘ぐロシア、主要産業が窮乏する部品類の輸出をインドに要請」と題して、ロシアが、欧米諸国の制裁によって入手困難になった自動車・飛行機・電車製造用の主要部品類を輸出するよう、インドに要請していることが判明したと報じている。
ニューデリーの『ロイター通信』駐在記者が入手した資料によると、ロシアがインドに対して、ロシアの主要産業である自動車、航空機、電車製造用の主要部品類500品目余りを輸出するよう要請している。
ロシアの産業界の匿名情報によれば、ロシア産業貿易省(2008年設立)が確かにロシア大手メーカーに対して、必要とする原料や部品類のリストを提出するよう求めていたという。
ロシアの自動車業界の事情通によれば、当該要請品目リストは14ページにも及び、エンジン主要部品のシリンダー内ピストン・オイルポンプ・点火コイルから、バンパー・シートベルト・情報通信システムまで多岐にわたるという。
航空機産業では、降着装置・燃料システム・通信システム・消化設備・ライフジャケット・航空機用タイヤ等41品目になるという。
また、『ロイター通信』が入手資料を分析したところ、製紙・紙袋・包装紙等の原料、糸・染料等織物を生産するための原料や道具等も含まれている。
更に、ニッケル・パラジウム生産の世界最大手のノリリスク・ニッケル(1993年設立)によれば、欧米諸国の制裁に伴い、これまで輸入に頼ってきたスペアパーツ・材料・テクノロジー等が全く入手できないため、200近い冶金用品目をリストに挙げてインド側に輸出要請しているという。
一方、インド側関係者情報によると、ロシア側のかかる要請は、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相(67歳、2019年就任)が訪ロすることになった11月7日より数週間前に遡って出状されたというが、外相訪問時にロシア側にどのように対応したかはまだ明らかになっていない。
ただ、同相は訪ロ中、インドとしては、膨張した輸入高と少しでもバランスさせるため、ロシア向け輸出を拡大したいとの意向を表明していた。
インド・ロシア間貿易統計をみると、ウクライナ軍事侵攻が始まった2月24日から11月20日までの約9ヵ月間で、インドのロシアからの輸入高は290億ドル(約4兆600億円)と、前年同期間の60億ドル(約8,400億円)から5倍近くも膨張している。
大幅に増えたのは、原油・肥料・石油製品・石炭等である。
これに対して、インドの輸出高は19億ドル(約2,660億円)と前年同期間の24億ドル(約3,360億円)から減少している。
これらは、電気通信機器・鉄鋼製品・海産物等が減少していることによる。
以上の背景から、インド側としては、ロシア側要請に応えることによって、輸出高を100億ドル(約1兆4千億円)近くまで急増したいと考えている。
しかし、インド産業界としては、西側諸国から制裁対象とされることや、輸出代金の回収や輸送貨物の付保が覚束ないことを恐れて、ロシア向け輸出に余り乗り気ではないとみられる。
インド輸出機構連盟(FIEO、1965年設立)のアジェイ・サハイ事務局長は、“インド輸出業者は、制裁対象品目となっている製品のロシア向け輸出に躊躇している”とし、“制裁対象となっていたイラン向けに輸出したことのある中小企業でさえ、ロシア側の輸出要請に興味を示していない”とコメントしている。
また、インドの大手金融機関も、欧米銀行を介さないでインド・ルピー建決済を構築しても、西側諸国から新たな制裁対象とされかねないとして、当該輸出決済に関わることに消極的である。
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