イエメンはここ数年、現政権側と前大統領を支持する反政府勢力による争いが繰り返
されており、国民は悲惨な生活を強いられている。しかしながらこの状況を打破すべ
く両陣営の停戦と和平交渉が国連主導で執り行われることになった。これまでの経
過、停戦の見通し、イエメンの実情について各メディアは以下のように伝えている。
12月14日付
『ヴォイス・オブ・アメリカ』は、イエメンの国内紛争はフシ反乱軍(イ
エメン北部を拠点に活動するシーア派の武装組織)と現イエメン大統領ハーディー氏
との政権をめぐる争いが原因で起きており、国連が15日からスイスで両者の和平交渉
を仲介するのと同時に停戦実施が合意に至ったと伝えている。今回の停戦合意の期間
は15日から7日間の期間で、アフメド国連特使によれば、フシ反乱軍が今回の合意を
守るかどうかはわからないという。また、対する現政権側を支持する連合国軍も停戦
合意には従うつもりではあるものの、「相手方が停戦合意を破った際には反撃する権
利を留保する」という条件付きの合意であるとしている。
イエメンの内戦の勃発は2014年に遡るという。前出のフシ族が首都サナを制圧し、
ハーディー大統領らはフシ族の攻撃を逃れてサウジアラビアに助けを求めたのだ。続
いてフシ族は湾岸都市アデンも制圧したという。その後ハーディー大統領を支持する
サウジアラビアが周辺諸国と連合軍を組織し、アデンを奪還しているが、サナは未だ
にフシ族に占領されているという。フシ族はイランの支援を受けており、連合軍はイ
ランの影響を恐れてハーディー大統領を支援しているとも言われている。
国連の中東地域高官であるファンデクロー氏によると、サウジアラビア率いる連合軍
が空爆を開始した今年3月から先月までで5700人が内戦により命を落としているとい
う。同氏はイエメンを「生活に必要な設備を欠き、国外脱出を余儀なくされている国
である」とし、「2700万人いる国民のうち2100万人は人道的支援を必要としており、
約3万人の子どもと妊婦には栄養失調を回避するための予防措置が求められている」
と語ったという。
12月15日付
『BBC』は、今回の停戦合意の発効は月曜に予定されていたが、サウジア
ラビアの公共放送機関がこれを火曜日に延期したことを報じている。その際延期の理
由は明らかにされなかったという。
同記事によれば、今回の停戦合意の直前、サウジアラビアの軍司令官やUAEの士官を
はじめイエメンやスーダンの多数の兵士が、フシ族によるイエメン南部のタイズでの
ミサイル攻撃により命を落としたことを伝えている。これはおそらく今年9月にイエ
メン東部のマリーブ内の連合軍基地がフシ族によるミサイル攻撃を受け、45人のUAE
の兵士が死亡したのを上回る被害であるという。
また、同記事は3月に連合軍が行ったフシ族への攻撃によりマリブの奪還に成功した
ものの、タイズは未だフシ族に占領されており、連合軍とイエメン政府軍はタイズ奪
還のため、フシ族と数か月にわたって戦火を交えていることを伝えている。
12月15日付
『NYSEポスト』は、イエメンの内戦のフシ族と現政権の対立、およびフシ
族をイランが支持、現政権を連合軍が支持していることを報じたうえで、内戦がこう
着状態にあり、どちらにも勝ち目がないとの見方を示している。
今回の停戦合意の前にも今年6月に和平交渉の機会が設けられていたという。ただ、
この交渉では両者がお互いの譲歩を求めるあまり合意に達することができなかったと
いう。
同記事は国連児童基金(ユニセフ)の発表を引用し、イエメンの内戦による死者のう
ち約半数が一般市民であり、その中でも637人は子どもであったことを伝えている。
また、同記事は「BBC」の記事を引用し、連合軍による空爆が、イエメンの子どもが通う
学校を標的にしていたとアムネスティ・インターナショナルが発表したことも付け加
えている。国連の使節は「和平交渉開始と同時に、すぐにでも停戦状態になることを
望んでいるが、停戦合意が確実で、長期にわたり実効性のあるものにするためには議
論を重ねる必要があるだろう」と語っているという。
また、同記事は前回の和平交渉に伴う停戦が約定期間を満了できなかったことにも言
及している。これは今年7月、連合軍がアデン内の味方を誤って攻撃し、停戦合意が
破られたとみられているものである。このことにつき連合軍は「初めから停戦には合
意していなかった」と言い逃れをしたという。
今までの経過を見てみると、停戦合意が守られるか、かなり疑問が残る。しかしなが
ら、内戦の最大の犠牲者である一般市民のためにも今回の和平交渉の成功と停戦合意
の順守を願いたい。
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