習近平国家主席(69歳、2012年就任)は、今月中旬に開催される中国共産党第20回代表大会(党大会、注後記)において異例となる3期目の続投が承認される見込みである。そこで、同国家主席が主導する“ゼロコロナ政策”は成功事例のひとつとして堅持されることとなり、この程、新疆ウィグル自治区では1日僅か100人未満の新型コロナウィルス(COVID-19)感染者が発生しただけで、10月1日からの国慶節長期休暇期間であっても、厳格な都市封鎖措置が取られている。
10月6日付米
『AP通信』は、「広大な新疆ウィグル自治区、COVID-19問題で一斉に行動制限」と題して、新疆ウィグル自治区でCOVID-19新規感染者が出たが、1日100人弱にも拘らず、重要な党大会開催直前の事態であることから、“ゼロコロナ政策”の下で厳重な行動制限措置が取られていると報じた。
広大な新疆ウィグル自治区では、中国本土において直近のCOVID-19感染拡大問題に遭っている。
中国では今月中旬、重要事項が決定される党大会が開催されることから、COVID-19感染防止対策がより厳しくなっている。
そこで、10月1日からの国慶節長期休暇期間の真っ只中ながら、人口2,200万人の同地区において厳格な行動制限措置が取られることとなり、同地区に出入りする電車・バスの運行が停止され、また航空便も75%まで減便された。
地元政府の10月4日付発令によると、“感染拡大を断固として食い止めるため、厳格な措置を講じる”としている。
ただ、国家衛生健康委員会(1949年前身設立)の発表では、10月5日の新規感染者は93人、10月6日は97人と僅少数値であるばかりか、全員が無症状であるという。
従って、感染状況と行動制限措置が不均衡となっているが、“ゼロコロナ政策”が絶対的なものであることから疑問を挟む余地はない。
何故なら、同政策を主導してきたと言われる習近平国家主席にとって、党大会において異例となる3期目の続投が決定されるかどうかの重要な局面にあるからである。
更に、COVID-19感染で100万人以上の犠牲者を出している米国に比べて、同国家主席のリーダーシップの下で取られた感染症対策によって、1万6千人弱に抑えられており、如何に同政策が素晴らしいかと喧伝されている。
同国家主席自身も、中国の感染症対策が“素晴らしい戦略の成功例”であり、また、中国の政策決定システムが民主主義を標榜する西側諸国よりも“著しく顕著な利点”であることの証左となっていると表明している。
しかし、中国南西部の貴州省で9月中旬深夜、陽性患者の濃厚接触者であるとの理由だけで夜中に強制的に隔離されようとした人たちを乗せたバスが高速道路を移動中に転落して27人が死亡する事故が発生している。
また、2,600万人の人口を抱え、直近2ヵ月間の都市封鎖措置が講じられた中国最大都市の上海においても、10月6日の新規感染者が僅か11人(但し無症状)であるにも拘らず、引き続き2日間のPCR検査を強制する等の厳格な防疫政策が取られており、国内から不満の声が更に高まってきている。
同日付香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は、「中国の感染症専門家、新疆ウィグル自治区の感染拡大に警鐘」として、同地区での感染拡大が懸念されていると報じている。
中国疾病予防管理センター(CCDC、1983年設立)の你明健主任研究員(ニー・ミンチアン)は10月5日晩、先週から発生している新疆ウィグル自治区の新規感染者が、今後更に増える可能性があると警鐘を鳴らした。
同地区では8月に再びCOVID-19感染者の発生が報告され始め、10月6日には首都ウルムチの40人含めて全地区合計で97人の陽性者が出ている。
ただ、無症状患者は452人となっている。
同主任研究員は、感染拡大の原因として、感染が疑われる人々のマスク着用が不適切であったことや、9月からの経済活動再開に伴う人流活発化が考えられるとした。
また、同地区でのPCR検査体制の不十分さで隠れ陽性者が把握できていないことや、限られた医療従事者の激務で二次感染が広がっていることも考えられるという。
その上で同主任研究員は、オミクロン変異株の感染拡大状況等、今後の見通しが読めないこともあり、予断は許さないと強調した。
同自治区の劉崇謝主席代行(リウ・スーシェ)は10月4日、8月以降一部地域での行動制限措置を講じていたものの、感染抑制対策が不十分であったことを認めた上で、同日から公共の電車・バスの運行を停止し、住民の移動を制限して感染拡大を防ぐとの方針を発表している。
なお、同自治区では2020年以来数度にわたり都市封鎖措置が講じられていたが、直近で発生している新規感染者数は過去最大レベルとなっている。
(注)党大会:5年に一度開催される、全国共産党代表によって同党の最重要事項を決定する会議。共産党一党独裁の中国における事実上の最高機関。全国から選ばれた2,200人余りの代表者によって、中央委員205人、中央政治局委員25人、同常務委員7人、総書記1人が選ばれる。なお、毎年3月に開かれる全国人民代表大会(全人代)が憲法上で最高の国家権力機関と定められている。
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習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)は、9月中旬にウズベキスタンで開催された上海協力機構(SCO、注後記)に出席した後、暫く消息不明となっていた。来月中旬の重要な中国共産党大会を控えた時期であったため、失脚かとの根拠のない噂まで飛び出したが、この程10日ぶりに表舞台に登場している。
9月28日付米
『AP通信』は、「習国家主席、消息不明との噂が飛び交う中、漸く国営テレビに登場」と題して、習近平国家主席は、来月中旬に開催される中国共産党大会において異例の3期目の続投が決定されると予想される中、暫くの間消息不明となったことから、失脚かとの根拠のない噂まで飛び出したが、10日ぶりに表舞台に姿を現したと報じている。
習近平国家主席は9月27日、約10日振りに表舞台に登場した。
北京で開催された、「新時代への邁進」と題する展覧会を視察したもので、李克強首相(67歳、2013年就任)他幹部を従えた姿が国営テレビで報じられた。
同国家主席は9月中旬にウズベキスタンで開催されたSCOに出席した後、暫く公から姿を消していた。
現下の中国新感染症防止対策“ゼロコロナ政策”上、国家主席と言えども帰国後1週間は自主隔離が必要であるが、経過後数日経っても消息が不明であった。
中国では、政権への如何なる異議も冷酷に取り締まられているが、しばしば内紛とかクーデターとかの噂が飛び出す不可解な事態が起こっている。
今後の指導体制が決定される10月16日開催の中国共産党大会直前に、習国家主席が数日間表舞台から消えたことから、またぞろ失脚かとの根拠のない噂まで飛び交っていた。
キングス・カレッジ・ロンドン(1829年設立の国立大学)中国研究専門のケリー・ブラウン教授は、“もし中国上層部の中で習氏に対する不満が高まっているならば、何らかの兆しが見えるはずだ”とし、“何ら動きが見えない以上、(習氏失脚等)何も起こらないと思う”とコメントした。
更に、内紛とかクーデターとかの噂に対して、中国人民解放軍は習国家主席の反腐敗運動の賜物で、厳しい管理下に置かれてしまっている、とし、“仮に(失脚等の)そのような声が上がっているとすれば、中国中央ではなく、香港とかその他中央政府に厳しく取り締まられているところから上がったものとみられる”とも付言した。
同日付香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は、「習国家主席、再び公に姿をみせる」として、暫く姿をみせていなかったものの、習国家主席が中央政府幹部を引き連れて表舞台に登場したと報じている。
習国家主席が9月27日、北京で開催されている展覧会に現われた。
国営『新華社通信』によると、同国家主席が、過去10年間で中国が成し遂げた業績を振り返る「新時代への邁進」と題する展覧会を視察したという。
また、同国家主席には、中国共産党中央政治局(党を指導し、政策を討議・決定する機関、トップ25人で編成)の幹部十数人が随行していたと報じている。
同国家主席は、9月中旬に新規感染症問題発生以来2年振りとなる外遊を行って帰国したが、10日間公に姿をみせていなかった。
同国家主席は展覧会視察の際、指導部が“政治、経済、イデオロギーや自然界がもたらした試練に耐え、歴史的業績を収めた”と強調した。
その上で、自らが掲げてきた“社会主義現代化強国”の実現目標や政治理念の“中国の特色ある社会主義”について、“新たな一章を記し、新たな勝利を奪取しなくてはならない”とも付言している。
なお、かかる報道記事から、専門家は、来月の党大会での異例の3期目続投が益々盤石となったとみられるとコメントしている。
(注)SCO:中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタンの8ヵ国による多国間協力組織、もしくは国家連合。2001年設立(1996年前身の「上海ファイブ」設立)。上海で設立されたために「上海」の名を冠するが、本部(事務局)は北京。
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