ドイツ、難民受け入れ方針転換へ(2015/12/15)
アメリカのタイム誌により「今年の人」にも選ばれたメルケル首相だが、ここにきて
難民受け入れ政策の転換を迫られている。自身の所属する党大会を間近にひかえて、
同氏は今後ドイツは難民受け入れ数を削減していくと発表した。難民受け入れを削減
せざるを得ない背景、今後の難民政策について各メディアは以下のように報じてい
る。
12月14日付
『ザ・ガーディアン』は、ドイツのメルケル首相が自身の率いるキリスト
教民主同盟(CDU)の党大会をひかえ、党内からの高まる不満の声に応えてドイツの
難民受け入れ数を大きく減らす方針であることを報じている。今年ドイツが受け入れ
た難民の数は34万人にも達するという。同氏はドイツ公共放送連盟(ARD)の番組内
でこの方針転換を明らかにしたという。同氏の国内での支持率は難民問題のため下降
気味であるが、難民受け入れ数を減らしはするものの、受入数に上限を設けるつもり
はないという。...
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12月14日付
『ザ・ガーディアン』は、ドイツのメルケル首相が自身の率いるキリスト
教民主同盟(CDU)の党大会をひかえ、党内からの高まる不満の声に応えてドイツの
難民受け入れ数を大きく減らす方針であることを報じている。今年ドイツが受け入れ
た難民の数は34万人にも達するという。同氏はドイツ公共放送連盟(ARD)の番組内
でこの方針転換を明らかにしたという。同氏の国内での支持率は難民問題のため下降
気味であるが、難民受け入れ数を減らしはするものの、受入数に上限を設けるつもり
はないという。
同氏に対しては、保守派から来年3月に控える3州での選挙を乗り切るためにも、また
2017年に同氏の任期が4期目に入り、それを務めるためにも難民政策の転換が迫られ
ていたという。
今回同氏が提案した難民受け入れ数の削減の政策の一環として、人身売買業者の取り
締まりでのトルコとの協力、トルコ、ヨルダン、レバノン内のシリア人キャンプの生
活環境の改善、EU諸国周辺での警備強化も併せて提案されている。また、同氏はEU全
体に対して、各国の難民受け入れ数を割り当てる方式での難民問題の取り組みも提案
しているが、この方策に関してはEU各国から強い反発があるという。
同記事はドイツは8月にEU内全ての国に入国した難民は、その最初の入国地にかかわ
らずドイツに受け入れる政策を打ち出しており、このことが難民の流入に拍車をかけ
たと指摘している。
12月14日付
『ヤフーニュース』によると、先述の「入国地にかかわらずドイツに難民
を受け入れる政策」のためドイツはこの先100万人の難民受け入れの審査をしなけれ
ばならないのだという。党大会では1000人の党員が集まり、戦火を逃れてきた難民に
対して門戸をひらきつつも、その受け入れ数を減らす政策の具体案を吟味するとい
う。メルケル首相は前出のテレビ番組で「難民問題について激しい論争があるのは承
知しているが、我々は人道的な責任を果たす必要があることも忘れてはならない」と
語ったという。
同記事は、幸運にもメルケル首相は15年という長期にわたりCDUを率いており、今回
の党大会で党首選挙は行われないことを指摘している。
ただ、同記事はベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」の記事を引用し「メルケ
ル首相はあらゆる政治的、人脈的資源を難民問題につぎ込んでおり、同氏が党大会で
不信任案を出されることはありうる」と報じている。
そして同記事はヨーロッパの経済大国であるドイツが難民問題をめぐって現在真っ二
つに分断されていると報じている。首相は「我々には可能だ」と叫びつづけながら戦
火を逃れて来た難民を人道的立場から受け入れると公言してきた。しかしながら受け
入れても受け入れても、難民流入は途切れることなく続き、地中海の水温が下がる冬
になっても収まる気配がないという。この現実に対する明確な対策をドイツ国民は求
めているのだ。
国民の不満が高まったことにより、先述の通りCDUは来年3月に控えた3州での選挙を
憂慮する声が高まっている。さらにはCDUに対して不満を抱く国民の票が、近年勢い
を増している右派AFD党(ドイツのための選択肢)に流れていくのではと懸念する声
も上がっているという。AFDは最近の国勢調査で10ポイントも支持率を上げていると
いう。
12月15日付
『NYSEポスト』は月曜から開かれているCDUの党大会でのメルケル首相の
発言を取り上げている。同氏は「難民受け入れについて我々は自身の責務を果たさな
ければならないのは言うまでもないことだが、その責務はヨーロッパ諸国と歩調を合
わせたものでなければならない」と語ったという。同記事はドイツの過大な難民受け
入れが、地方自治体や地方社会に大きな負担を強いてきたと指摘する。
同記事は今回の方針転換には先週アメリカ国防長官であるカーター氏からドイツ国防
相に宛てて送られた書簡も少なからず影響を与えているとする。書簡の中でアメリカ
はイスラミック・ステイトへの攻撃に関して、ドイツにより積極的な参加を求めたという。
そして同記事もまた、メルケル首相がヨーロッパ全体が難民を受け入れるべきと強く
主張していることを取り上げている。同氏の下で難民危機管理を担当するアルトマイ
ヤー氏はイギリスの新聞「ザ・インディペンデント」の取材に対し、ヨーロッパ諸国
が難民を受け入れたがらない現状を踏まえつつも極めて楽観的なコメントを発表した
という。「今回のような板挟みの状況を解決するには、ヨーロッパでは時間がかかる
ものだ」。
ドイツが難民を次々と受け入れてきた状況を、世界は驚きと称賛をもって眺めてき
た。しかしやはりこれはドイツにとって過大な負担だったのだろう。理想的な受け入
れ策が頓挫することになっても、初めに受け入れを表明したドイツの英断は称賛に値
するだろう。
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パリのテロ事件で高まる難民受け入れ拒否の動き(2015/11/17)
パリで13日に発生した同時多発テロによって、イスラム難民の受け入れを拒否する動きが顕在化しつつある。欧州では、EU委員会が決定した加盟国への難民受け入れ割り当てを東欧の一部が事実上拒否した。また、EU各国の国境閉鎖により域内での移動の自由を保障するシエンゲン協定が空文化することが懸念されている。欧州以外にも難民排斥の動きは広がっており、米国では多くの州でシリア難民受け入れ拒否を表明するなど、各国の中央政府は対応に苦慮している。
11月17日付
『タイム』誌は、パリの同時多発テロによって、一部の東欧諸国や右翼政治家が、難民受け入れ人数の縮小や国境管理の厳格化を要求していると報じている。
国境警備はテロ実行グループの検挙のためもあり、既にベルギー、イタリア、フランスでかなり厳しくなっている。しかし、ポーランド、ラトビア、スロバキア、チェコなどは、難民危機と今回のテロ事件をリンクさせ、シエンゲン協定を停止して難民の移動を制限することを要求しており、EU委員会が決めた16万人の難民の加盟国への割り当ての実行が難しくなっている。...
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11月17日付
『タイム』誌は、パリの同時多発テロによって、一部の東欧諸国や右翼政治家が、難民受け入れ人数の縮小や国境管理の厳格化を要求していると報じている。
国境警備はテロ実行グループの検挙のためもあり、既にベルギー、イタリア、フランスでかなり厳しくなっている。しかし、ポーランド、ラトビア、スロバキア、チェコなどは、難民危機と今回のテロ事件をリンクさせ、シエンゲン協定を停止して難民の移動を制限することを要求しており、EU委員会が決めた16万人の難民の加盟国への割り当ての実行が難しくなっている。これは、一部には自爆したテロリストが偽造ではあるがシリアのパスポートを所持し、難民に紛れ込んで潜入したと疑われていることが影響している。ポーランド、チェコやスロバキアはテロリストが潜入する恐れを理由として、イスラム教徒難民を受け入れることは無理であると表明している。
一方、カナダ、オーストラリア、米国などEU域外の国々は、国内での反発があるにも関わらず、難民受け入れ方針に変更はないと表明している。オーストラリアのドットン移民相は、同国の1州が反対している中で、1万2千人の中東難民の受け入れは変更しないと述べた。また、カナダの新政権は本年末までに2万5千人を受け入れることを言明している。
11月16日付英
『ザ・インディペンデント』紙は、パリ同時多発テロ事件の襲撃犯が難民に紛れて潜入したとの報道によって、亡命を申請している難民への反発が起きることが懸念されると報じている。欧州員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は、難民とテロリストを混同しないように各国に警告を発し、G200会議で「パリを襲撃したのは犯罪者であり難民や亡命希望者ではない。難民たちは、テロリストから逃れてきたのでありその逆ではない」と発言している。
襲撃犯の1人が通っていたシャルトルのモスク関係者は、「イスラムの本当の教えは平和と共存であり、パリでのテロはイスラム教とは無関係である。しかし、これから政府、警察、報道などから集中攻撃されることを恐れている。民衆の怒りは自分たちに向けられるのではないか」とイスラム難民排斥の動きを警戒している。
11月17日付
『ABCニュース』は、パリでのテロ事件によって安全への懸念が高まっており、米国の少なくとも半数の州知事がシリア人難民の受け入れ拒否を表明していると報じている。例えば、ミシガン、アラバマ、テキサスの州知事等は、米国土安全保障省が難民審査手続を再検討するまで、シリア難民の州内への受け入れはしないとの声明を発表した。また、オハイオ州知事で共和党大統領候補のジョン・カシック氏はオバマ大統領に手紙で、シリア難民の受け入れを止めるよう要請した。同州政府報道官は、「知事は、治安と安全が十分確保されない状況でシリア難民を更に受け入れるべきでないと考えており、オハイオ州はこれを阻止するための方法について検討している」と述べた。
しかし、マーク・トーナー国務省報道官は、米国での難民ステータスは法に基づくものであり、国内移動の自由を認めているため、各州が実際にシリア人受け入れを拒否できるかは不明であると述べている。米国は、本年9月、2016会計年度(15年10月~16年9月)の難民受け入れ枠を8万5千人に増やすと宣言している。
アメリカ自由人権協会(ACLU)は、これらの州はパリでの襲撃事件と米国の難民受け入れ問題について、何の根拠もなく関連付けていると批判している。ACLUのセシリア・ワン会長は声明を発表し、「恐怖を煽りながら政策決定をおこなうことは2つの理由から間違っている。難民が逃れようとしている残虐行為について、難民を非難するのは事実として間違いである。また、それは違法行為であり、米国が持つ価値観と相反するものである」と非難した。
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