ドナルド・トランプ大統領は、イラン革命防衛隊(IRGC)傘下の精鋭部隊の司令官暗殺に対抗してのイラン側報復攻撃に対して、軍事力行使に否定的なコメントをしたことから、報復の連鎖は避けられる見通しである。しかしながら、同時に行った“イラン核合意の廃棄と新協定交渉”意思表明に関しては、前任者のバラク・オバマ大統領(当時)の成果を否定することに腐心する余り、当該イラン核合意に関わる重要情報について勘違いのオンパレードで、悪戯に対イラン関係を悪化させただけだとしてメディアからも批判されている。
1月9日付米
『ABCニュース』:「トランプ大統領、現行のイラン核合意について勘違いしたまま廃棄を主張し、新たな核合意交渉を提案」
ドナルド・トランプ大統領は1月8日、ホワイトハウスでの記者会見において、まず、イランが報復措置としてイラク内の米軍施設にミサイルを撃ち込んだことに対して、報復攻撃はしないと表明したものの、“自分が大統領であるうちは、イランの核兵器保有は絶対許さない”と強調した。
その上で同大統領は、欠陥だらけの現行イラン核合意をすぐさま廃棄し、当時国である英国・ドイツ・フランス・ロシア・中国に対して、新たな核関連協定締結交渉に入るべきだと要求した。
しかし、同大統領が欠陥だらけだと酷評した現行イラン核合意関連で、同大統領は次のように多くの誤解をしたまま、持論を展開している。
・イラン核合意締結を2013年と言及したが、実際は2015年であること。
・イランが核兵器を作ろうとしていると非難したが、本合意によってイランは国際原子力機関(IAEA)の定期的査察を受け入れているだけでなく、イランが当初から加盟している、核兵器の製造・保有を禁じる「核拡散防止条約(NPT)」に基づき、核兵器開発は行わないことまで約束していること。
・イランが1,500憶ドル(約16兆3,500憶円)の現金を不正に手に入れたとするが、これは経済制裁によって凍結されていたイランの資産であること。
・経済制裁解除によって得た資金を、軍事力強化やイラク内の親イラン派武装勢力に注ぎ込んだと主張するが、この主張に根拠はないこと。更に、国務省高官が1月8日に『ABCニュース』に語ったところによれば、イランが配備しているミサイルはどれも“旧式”かつ“独自開発したものではなく”、イランがこれら資金を武器開発に拠出したと考えられないこと。
更に、イラン核合意を漸く成立させたオバマ政権及び英国他当事国にしてみれば、IAEA査察受け入れや核兵器開発停止の約束は非常に重要な事項であって、これを謳った現行イラン核合意を廃棄するのは非常に危険なことであるし、第一に、イラン側が新たな協定交渉に応じるとは全く思われないとする。
実際問題、米・イラン間仲介を試みた安倍晋三首相は昨年6月、イランの最高指導者アヤトラー・アリ=ハメネイ師から、“トランプ大統領とは話す価値は一切なく、同大統領と何ら交渉する意向はない”と断言されてしまっている。
同日付イラン『ジ・イラン・プロジェクト』紙:「トランプ大統領、イランの報復に対して新たな制裁を科すと表明」
トランプ大統領は1月8日の記者会見で、イランのミサイル攻撃への対抗措置として、武力行使はしないとしながらも、新たな経済制裁は科すと明言した。
更に同大統領は、イラン核合意の当事国である英国他4ヵ国に対して、同合意を破棄して、新たな協定交渉に入るべきだとも強調した。
しかし、当該イラン核合意が2015年に締結されて以降、イランは同合意条件に基づき、貯蔵濃縮ウランを300キログラム以上保有せず、また、遠心分離機を許容された6,104基以上導入しないこと等、きちんと約束を守ってきた。
にも拘わらず、トランプ大統領は、当該核合意が不備だとして、2018年5月に離脱を宣言したばかりか、イランに再び経済制裁を科し始めた。
そこでイランとしても、米国の横暴に我慢できず、また、核合意の当事国である英国他4ヵ国に揺さぶりを掛ける意味でも、貯蔵濃縮ウランや遠心分離機の保有制限をはずす対抗措置を取り始めている。
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