今年は広島、長崎が米軍による原爆投下に遭ってから75周年に当たる。それぞれの記念式典で、核兵器廃絶と平和が訴えられた。ただ、被爆者もその遺族も、また、多くの戦争経験者が、米軍による二度もの大殺戮について、表立って責任追及する声を上げることは控えているようにみえる。しかし、2002年に米国のジョージ・W.・ブッシュ大統領から“悪の枢軸”と名指しされたイランは、ドナルド・トランプ現大統領からも敵視されていることもあって、二度の原爆投下による大量殺戮を引き起こしたにも拘らず、少しも責任をとろうとしない米国を非難している。一方、米メディアは、原爆被害を嘆く意味を持つ日本版特撮映画「ゴジラ」を米国映画界は娯楽に換えてしまっているとして、原爆投下に関する日米両国民の意識の違いにつき言及している。
8月10日付イラン
『タスニム通信』(2012年設立、イスラム国家を擁護する民間メディア):「イラン、かつて日本に二度の原爆投下を行った責任から逃れている米国を非難」
イラン外務省のセイード・アッバス・ムーサビ報道官は8月9日晩、米国の著名小説家・詩人のウィリアム・フォークナー(注後記)の一節を引用して米国を非難した。
すなわち、同報道官は、“不幸な出来事は一度に留まらない場合があるが、米国は、広島と長崎と続けて二度も原爆投下を行った”とした上で、“この悲惨な出来事は、日本のみならず世界の人々の心にいつまでも残って消えることはない”と表明した。...
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8月10日付イラン
『タスニム通信』(2012年設立、イスラム国家を擁護する民間メディア):「イラン、かつて日本に二度の原爆投下を行った責任から逃れている米国を非難」
イラン外務省のセイード・アッバス・ムーサビ報道官は8月9日晩、米国の著名小説家・詩人のウィリアム・フォークナー(注後記)の一節を引用して米国を非難した。
すなわち、同報道官は、“不幸な出来事は一度に留まらない場合があるが、米国は、広島と長崎と続けて二度も原爆投下を行った”とした上で、“この悲惨な出来事は、日本のみならず世界の人々の心にいつまでも残って消えることはない”と表明した。
更に同報道官は、“二度も大殺戮を犯した国の政府は、その責任追及を拒否しているだけでなく、大量破壊兵器の開発国だと嘯いている”と嘆いた。
なお、同報道官がコメントを表明した8月9日は、米軍が長崎に4.5トンの原爆を投下し、一瞬にして7万人余りの命を奪ってから75周年に当たる。
更に、負傷した人たちだけでなく、原爆症を患った被災者の多くが、数週間、数ヵ月、また数年後に命を落としている。
また、これに先立つ8月6日、米軍は広島にも原爆を投下していて、14万人もの市民を殺害している。
それぞれの記念式典には、両市の市長に加えて、安倍晋三首相が出席し、世界に向かって核兵器廃絶を訴えている。
一方、同日付米『NBCニュース』:「“ゴジラ”は広島原爆の暗喩だが、米映画界はそれを隠蔽」
1954年に日本で制作された特撮映画“ゴジラ”は、その9年前に日本に投下された原水爆の被害を仄めかした作品である。
海洋に出現した大怪獣は、水爆の影響で作り出されたという設定で、その皮膚は、深いしわとか爬虫類のウロコで覆われているが、これは正に二度の原爆投下を潜り抜けて生存した被爆者が負ったケロイド(重篤な火傷)を暗に表している。
最初に同映画を観た日本人の多くは、原爆被害に思い当って、終了後に涙している。
しかし、米国で観劇した人たちは、趣味の悪い映画と理解して、コメディ性を見出そうとしている。
2004年に「ゴジラと米国の半世紀(邦訳版タイトル)」を執筆したウィリアム・ツツイ氏(57歳、著述家、前米私立大学長)は、『NBCニュース』のインタビューに答えて、“ほとんどの米国人は、もし同映画を観た後で泣いている人がいたら、笑い過ぎたためだったと考えるだろう”とコメントした。
しかし、辛らつな批評家らは、このような純然たる違いが生じたのは、同映画を米国で放映する前に、ハリウッド映画界が、米国による原爆投下決定という事態から眼を逸らさせ、日本側の制作者の真意を糊塗するように画策したからだ、と指摘している。
ツツイ氏は、原爆投下によって当時の日本人がどれだけの辛い思いに耐えたかを慮った上で、同映画は、原爆の投下や核兵器の威力を試すという忌むべき行為を隠喩して制作されたものだと解説する。
その上で、同氏は、戦後の米軍統治下で検閲が行われていた当時、日本人がどう感じていてトラウマ(心的外傷)はどうだったのかを表す、強い政治的メッセージが込められた映画だと考えられると述べている。
(注)ウィリアム・フォークナー(1897~1962年):ヘミングウェイと並び称される20世紀米文学の巨匠。1949年ノーベル文学賞受賞。1955年に来日した際、第二次大戦で負けた日本は、南北戦争で敗北した自身の故郷(ミシシッピー州)の米南部と似通った宿命を背負っていると語っている。
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イランのザリーフ外相はイランの議会で、「中国との25年間の戦略的パートナーシップについて中国と交渉中」であり、契約成立後に、詳細を明らかにすると述べた。イランは中国経済から恩恵を受けることで米制裁を回避する狙いがあると見られている。
イスラエルの
『エルサレムポスト』によると、イランと中国は以前から友好的な関係を持っており、中国が、中国主導の巨大経済圏「一帯一路」構想にイランを組み入れることを望んでいる可能性が高いと伝えている。米国の制裁を受けているイラン側も、シルクロード経済圏に参加し、トルコ、ロシア、インド、中国に目を向けようとしている。
イランの国内新聞が「ライオンと竜」の間の協定、とも呼んでいる、イランと中国の戦略的パートナーシップについて、イランのタスニム通信はトップニュースとして扱っている。イランと中国の間では何年も前から緊密な協力に向けての話し合いが進められてきていたと伝えており、今後の投資額は、1200億ドル(約12兆8900億円)から4000億ドル(約42兆9800億円)にのぼるのではないかと指摘している。同通信社の別の記事では、イランの石油およびガス部門に2600億ドル(約27兆9300憶円)の投資がされると報じている。
イラン国内では、主権が脅かされるのではないかという懸念の声が多く上がっているが、これに対しタスニム通信の記事は、一帯一路への参加は、西洋植民地時代の初期のような「搾取」を意味するのではなく、相互の利益を意味していると伝えている。
イランのファールス通信は、こうしたイランと中国の関係に米国は怒るだろうが、国連安全保障理事会で武器禁輸の解除に中国の支持を得たいイランにとっては望ましいことだと報じている。
露『ロシアトゥデイ』は、中国がイランの最大の貿易相手国であり、エネルギー資源に対する米国の制裁の再発動前は、中国がイラン原油の主要な買い手だったと伝えている。
イランと中国は輸送、港湾、エネルギー、産業、サービスなどのさまざまな分野で「相互投資」をしていく交渉を進めていると見られている。
英『ミドル・イースト・アイ』によると、米国は現在、10月に期限が切れるイランへの国連武器禁輸の延長を推し進めようとしており、米国はサウジアラビアとイスラエルの支持を得ている。しかし、中国、ロシア、ドイツ、英国、フランスは、延長に反対を表明しているという。
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