【日本の世相と世界の動き・・No.16<表現の自由(出版の自由)>】(2016/02/26)
<表現の自由(出版の自由)>
日本国憲法は、「言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」(1条)。
2月15日付本コラム
No.11<少年法と人権>の中で、表現の自由があっても、被害少年及び遺族の人権や生活権に配慮すべきと論じ、また、2月16日付同
No.12<放送法と表現の自由>の中で、政治的中立であるべき報道や放送番組に疑問が生じるようなことがあった場合、行政の介入・指導ではなく、まず放送局の自浄作用を司る「放送倫理・番組向上機構」の手に委ねるべきであると論じた。...
全部読む
<表現の自由(出版の自由)>
日本国憲法は、「言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」(1条)。
2月15日付本コラム
No.11<少年法と人権>の中で、表現の自由があっても、被害少年及び遺族の人権や生活権に配慮すべきと論じ、また、2月16日付同
No.12<放送法と表現の自由>の中で、政治的中立であるべき報道や放送番組に疑問が生じるようなことがあった場合、行政の介入・指導ではなく、まず放送局の自浄作用を司る「放送倫理・番組向上機構」の手に委ねるべきであると論じた。
今回は、表現の自由の中の「出版の自由」について論じたい。
昨年1月初め、フランスの風刺週刊誌
『シャルリー・エブド』がイスラム教の預言者ムハンマドを侮辱する風刺画等を掲載することを繰り返したことで、イスラム過激派の襲撃に遭った。
一切のテロ行為は非難されることである。
しかし、表現の自由を都合よく解釈して、他宗教やその宗教徒を陥れる風刺等、行き過ぎた風刺も非難されるべきである。以前からシラク元大統領も、“行き過ぎた挑発”として批判していた。
自由には権利とともに義務が伴う。他人の尊厳や思想・宗教を否定、侮蔑するような表現はしてはならないことだと考える。
直近の話であるが、2月24日付
Globali「カナダ史上最悪の連続殺人犯による手記がアマゾンで販売され波紋」で触れられたとおり、この件については、関係者、警察当局からのクレームもあって、出版社は発売2日後に販売を中止している。
当該事件の被害者や遺族はもとより、カナダ国民にとって、これは至極まともな判断、結果であると考える。
翻って日本はどうか。
昨年7月、1997年の神戸連続児童殺傷事件の犯人である、酒鬼薔薇聖斗こと“少年A”執筆による
『絶歌』が、太田出版(注後記)から出版されて物議を醸した。
被害児童の遺族は、出版の話が出た当時、当然のことながら出版差し止めを強く求めたが、結局出版を止められず、「息子を殺され、(今度はかかる本が出版され)また精神的に殺され、彼(少年A)に2度殺された」と無念の気持ちを吐露している。
一体、犯行当時14歳の少年でも今は32歳になっている“少年A”が執筆者として本名を名乗らず、遺族の心情への理解が足りず、しかも贖罪の気持ちが全く感じられないような本の出版が、果たして許されて良いのであろうか。
週刊誌情報でしかないが、5千万円は下らないとされる印税は、遺族に支払われることはなく、“少年A”が、彼と同棲している女性との国外での生活に充てるためという。
実は、“少年A”の両親は2001年7月、
『「少年A」この子を生んで・・・(父と母悔恨の手記)』(文春文庫)という本を出版していて、多額の印税収入を得ている。印税の使い道を聞かれてその両親は、「(“少年A”の)弟たちの大学の費用に充てるため」としていたが、実際は家を建て替えるために使われたと報道されている。
この親にしてこの子あり、という非人間的な家庭環境が伺われる情けなさである。
それ以上に、表現の自由(出版の自由)の錦の御旗の下、売れるものなら何でも良いと出版する、形振り構わぬ出版業界の態勢は、何とかならないものであろうか。
一人でも多くの心ある人が、今後かかる問題作は決して買わず、更には、(カナダでの対応のように)非人間的な問題作は廃刊に追い込むような運動が巻き起こることに期待したい。
(注)太田出版:お笑い系芸能事務所の太田プロダクションから独立した、サブカルチャー系の出版社。
『完全自殺マニュアル』『永遠の0』『自殺サークル』等、他社から敬遠される題材を扱った、先鋭的な作品にも媒体を提供。その結果、社会規模の論争が起こり、有害図書指定を受ける問題作となった書籍も存在。
閉じる
仏シャルリー・エブドの風刺画が再び"炎上"(2016/01/15)
フランスの左派寄り風刺新聞として知られるシャルリー・エブドは度々イスラム教徒の反発をまねく風刺
画を掲載し問題を起こしてきた。2011年はムハンマドの風刺画を掲載し火炎瓶を投げつけられたり、昨年
1月の襲撃事件では多くの社員が犠牲となった。
シャルリー・エブドが今月発行した新聞で、今回は風刺が難民の子どもに向けられた。昨年シリア難民で
トルコ海岸で溺死した3歳の少年の写真が世界中に衝撃を与え同情を買ったが、その難民の少年が大人に
成長したら性犯罪者となるであろうと当紙は風刺する。これは昨年末ドイツで起きた難民によるものとさ
る集団暴行事件を非難するものであると批評家は見ている。
1月14日付米
『CNN』は、「アラン・クルディ少年の性犯罪風刺画に怒り」との見出しで次のように報じた。
「・昨年9月に難民として欧州へ渡航半ば溺死した少年が大人になって性犯罪者となる可能性を示唆している。
・ドイツ、ケルンで大晦日起きた難民による集団性犯罪事件を非難してのものである。
・編集者によると、これは「難民」との題で、「アランが大人になるとどうなるか?答えは、ドイツの痴漢。...
全部読む
1月14日付米
『CNN』は、「アラン・クルディ少年の性犯罪風刺画に怒り」との見出しで次のように報じた。
「・昨年9月に難民として欧州へ渡航半ば溺死した少年が大人になって性犯罪者となる可能性を示唆している。
・ドイツ、ケルンで大晦日起きた難民による集団性犯罪事件を非難してのものである。
・編集者によると、これは「難民」との題で、「アランが大人になるとどうなるか?答えは、ドイツの痴漢。」という説明つきで、二人の舌を出し手を伸ばした男性が怖がる女性達を追いかけたようすが風刺されている。少年がうつ伏せで倒れた写真も差し込まれている。
・当風刺画は瞬く間にソーシャルメディアの注目を集め、怒りを買い、人種差別主義である、昨年の当社襲撃の際「私はチャーリー」とツイートした人が同意するだろうか等として議論を巻き起こしている。
・一方で、風刺画を支持する意見としては、批評家らの欧州難民への対応が変わりやすい事、難民への怒りのあらわれであるとした。
・シャルリー・エブド社は取材に対し、ノーコメントとしている。
・当社は今月初め、昨年の襲撃事件から1年前を迎え、特別号を百万部発行、神のようなひげを生やした男が銃を背負っている風刺画が「一年後:暗殺は今も続く」の題で掲載されている。」
1月14日付仏
『France24』(AFP通信)は、「溺死したシリアの少年アラン・クルディの叔母がシャルリー・エブドの風刺画に不快感」との見出しで次のように報じた。
「・遺族のカナダ移住を手伝った叔母ティマ・クルディ氏は、ツイッターを通して、皆に我々の痛みを尊重してほしい。悲劇を乗り越え新しい生活を始めようとする矢先この風刺画によって悲しみが蒸し返されてしまったとコメント。」
1月15日付豪
『news.com.au』は、「シャルリー・エブドの風刺画は溺れていなかった」との見出しで以下のように伝えた。
「・昨年自由を忌み嫌うイスラミックステートに攻撃されてから風刺雑誌シャルリー・エブドは西欧では言論の自由の象徴となったが、今回はシリア難民問題の象徴となった哀れな少年の姿が風刺画により捻じ曲げられた。
・欧州の難民は犯罪者であるとする右派の考えを風刺したものである。
・昨年の襲撃事件後当社は売上が3万部に減少したため倒産の危機となった。」
1月14 日付
『アルジャジーラ英語版』は、当風刺画が怒りを買っているとの見出しで次の様なツイートを紹介した。
「・”シャルリー・エブドは風刺と言論の自由だと言えば人種差別をしてもよいのか。”
・”かつては”白人は黒人の子どもを可愛いと言い、彼らが大人になれば嫌った”などというジョークがあったが、シャルリー・エブドが描くのはまさにそれである。”」
閉じる
その他の最新記事