習近平国家主席(シー・チンピン、70歳、2012年就任)が2013年より主導した「一帯一路経済圏構想(BRI)」の下、アジア・アフリカ等多くの国に中国資本によるインフラプロジェクト建設が目白押しになっている。しかし、近年では「債務の罠(注後記)」にはまったとの途上国の問題が浮き彫りになっている。そうした中、当該プロジェクトに遂に、これも同国家主席主導で立ち上げられた汚職摘発機関の捜査のメスが入ることになった。
2月27日付
『プレス・トラスト・オブ・インディア』(1949年設立のインド通信社)は、中国の汚職摘発機関が初めて、BRIプロジェクトの捜査に入ることになったと報じている。
BRI構想は、習近平国家主席が2013年に提唱したもので、爾来、アフリカやアジアの多くの国でインフラ建設プロジェクトが進行している。
しかし、同時に同プロジェクトを受け入れた途上国において、身の丈に合わない巨額の負債を抱え込むことになり、パキスタンやスリランカのように債務超過に陥る国が出てきている。
そうした中、同じく同国家主席が主導した汚職摘発政策を実行する中国共産党中央紀律検査委員会(CCDI、1927年前身設立)がこの程、BRI構想下のインフラ建設プロジェクトに関わる汚職捜査に入ることになった。
香港メディア『サウスチャイナ・モーニングポスト』紙の2月26日付報道によると、2月25日に公表されたCCDI報告において、2024年の重点事項として、BRI構想下のインフラ建設プロジェクトを捜査対象に挙げたとしている。
同報告は、2ヵ月前にCCDI李希書記(リー・シー、67歳、2022年就任、長官に相当)が中央トップ宛に提出し承認されたもので、それによると、“(捜査対象事案について)汚職の温床を根絶し、制度改革を深化させ、規律・検査・監督のための機関を強化する必要がある”と強調している。
中国当局が、海外のBRIプロジェクトに対する反腐敗調査をどのように始めるのかは、まだ明らかになっていない。
ただ、多くの国の指導者たちは、持続不可能なプロジェクトに注ぎ込まれた数百万ドル(数億円)を着服し、自国を莫大な債務に陥れているという疑惑について捜査されることになるとみられる。
(注)債務の罠:借金漬け外交とも呼ばれる、国際援助などの債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国側から有形無形の拘束を受ける状態のこと。友好国間でみられ、債務の代償として合法的に重要な権利を取得する。インドの地政学者ブラーマ・チェラニーによって、中国のBRI構想と関連付けて用いられたのが最初。債務国側では放漫な財政運営や政策投資などのモラル・ハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的な支配下に置くと言った問題が惹起される。
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カシミール問題(注後記)は、核開発競争と相俟って、インドとパキスタン間の関係改善を妨げる最大要因となっている。そしてこの程、インド政府は、親パキスタン派でカシミール地方分離独立運動を指揮してきたリーダーが死去したことに伴い、反政府運動激化を懸念して同地方を封鎖する措置を講じた。
9月2日付
『AP通信』:「インド、カシミール地方分離独立運動リーダーの死去を契機に同地方を封鎖」
インド政府は9月2日、親パキスタン派として長くカシミール地方分離独立運動を指揮してきたシェド・アリ・ギーラニ師(享年92歳)が9月1日に死去したことに伴い、反政府運動の活発化を懸念して、同地方を封鎖し、デモ等の禁止はもとよりほとんどの通信手段を遮断する措置を講じた。
故ギーラニ師の息子であるナシーム・ギーラニ氏が『AP通信』のインタビューに答えて、遺族の要望を無視して、インド政府が、出席者を極端に制限して質素な葬式を手配し、また、遺体を田舎の粗末な墓地に埋葬したという。...
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9月2日付
『AP通信』:「インド、カシミール地方分離独立運動リーダーの死去を契機に同地方を封鎖」
インド政府は9月2日、親パキスタン派として長くカシミール地方分離独立運動を指揮してきたシェド・アリ・ギーラニ師(享年92歳)が9月1日に死去したことに伴い、反政府運動の活発化を懸念して、同地方を封鎖し、デモ等の禁止はもとよりほとんどの通信手段を遮断する措置を講じた。
故ギーラニ師の息子であるナシーム・ギーラニ氏が『AP通信』のインタビューに答えて、遺族の要望を無視して、インド政府が、出席者を極端に制限して質素な葬式を手配し、また、遺体を田舎の粗末な墓地に埋葬したという。
遺族としては、故人の遺志に基づいて、同地方主要都市のシュリーナガルにあるイスラム教徒殉教者の墓地に埋葬したかったが、インド当局によって阻止されたという。
同氏は、“インド警察が父の遺体を無理やり持ち去ったあげく、遺族の誰も故人の葬式に立ち会えなかった”とし、“抵抗する我々に有無を言わせず、女性に対しても狼藉をはたらく程ひどいものだった”と糾弾した。
『プレス・トラスト・オブ・インディア』(1947年設立のインド最大の通信社)報道によると、政府関係者がギーラニ師遺体を埋葬し、反政府運動につながることを懸念して、集団による盛大な葬式も禁止したという。
更に、カシミール地方のほとんどが封鎖され、警察や軍隊が街を見回り、また、多くの幹線道路・橋・交差点には鉄製のバリケードや鉄条網が張られて交通が遮断されている上、街や村の境界に検問所が設けられて移動制限が講じられている。
また、集団抗議活動を防ぐため、携帯電話のネットワークやインターネットも遮断されている。
かかる取り締まりに反抗して、シュリーナガルの少なくとも3ヵ所で数十人の若者グループが抗議行動を起こしたが、警察及び軍隊によって催涙ガス攻撃を受けて鎮静化させられた。
故ギーラニ師は、カシミール地方をパキスタンに併合するようインド政府に求める活動を指導してきていたが、政府側の度重なる暴力的仕打ちを受けて、対話ではなく実力行使が必要と説いていた。
一方、パキスタン政府は9月2日、イムラン・カーン首相(68歳)の指示の下、公式に喪に服す日と定め、半旗を掲げた。
そして、外務省は、遺族や関係者の立ち合いを認めずに故人を埋葬したことを非難する声明を発表した。
同声明によると、“パキスタンは、カシミール地方の偉大なリーダーの遺体を、遺族らから奪い去るというインド警察の蛮行について強硬に非難する”と言及している。
なお、インド政府はこれまで、数々のカシミール地方の反政府運動について、パキスタン政府が反逆分子に武器供与等の支援をしていると糾弾していた。
9月3日付インド『ジ・インディアン・エクスプレス』紙(1932年創刊の英字紙):「シェド・アリ・ギーラニ師の埋葬、警察は遺族を立ち会わせなかったとのクレームを否定」
故ギーラニ師の次男のシェド・ナシーム・ギーラニ氏は、数人の警官が夜中に自宅に押し掛けて遺体を無理やり運び出した上で、遺族を立ち会わせないまま勝手に埋葬したと非難した。
同氏は『ジ・インディアン・エクスプレス』のインタビューに答えて、“夜中に突然押し掛けた警察官らに対して、午前10時に埋葬したいと告げたにも拘らず、午前3時ごろ、強制的に遺体を持って行ってしまった”と語った。
これに対して、ジャンムー・カシミール州警察は、“親戚が埋葬に立ち会った”として当該クレームを否定した。
同警察のビジェイ・クマール監察官は、“報道されているような非難は全く根拠がない”とした上で、“遺体を悪党どもが奪い去る恐れがあることから、警察側で安全に対応した次第であるし、親戚も埋葬には立ち会っている”と反論した。
一方、ギーラニ師が指導していたパキスタン本拠の活動家グループ代表のアブドラー・ギーラニ氏は9月1日夜、故人の遺志に従って、遺体はシュリーナガルの殉教者墓地に埋葬すると発表していた。
(注)カシミール問題:インド亜大陸の北西部に位置するカシミール地方の領有をめぐるインドとパキスタン間の領土紛争。英領インド時代のカシミールは藩王国であり、藩王はヒンドゥー教徒で藩民の約5分の3がイスラム教徒という、藩王と藩民の宗教上の食い違いが現代に至るカシミール問題の出発点。四度に及ぶ印パ戦争など、印パが対立する最大要因となっている。パキスタンは、英領インドのイスラム教徒多住地域をもって建国され、イスラム国家の理念を掲げていることから、イスラム教徒多住地域のカシミールが自国領となるべきだと主張。一方、インドは、総人口の約8割がヒンドゥー教徒であっても、カシミールが国内にあることで、国是ともいうべき政教分離主義を喧伝できるため、領土分割に応じていない。
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