日本では、東京都及び首都圏3県が、新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡大がより深刻化する状況に頭を抱え、動きの鈍い政府に緊急事態宣言の再発出を求めた。オーストラリア(豪州)では、ビクトリア州の成功例があるにも拘らず、ニューサウスウェールズ(NSW)州トップが、直近の感染者急増状況に何ら具体的措置を講じようとしないとして、全豪医師会(AMA、1962年設立、本部キャンベラ)が抗議の声を上げている。
1月2日付米
『AP通信』:「NSW州、感染拡大対策遅延で非難轟々」
豪州医療界の最大組織AMAは1月2日、NSW州内でCOVID-19感染が再拡大しているにも拘らず、同州政府が一向に具体的対策を講じようとしないとして抗議の声を上げた。
AMAのクリス・モイ副会長は、シドニー北郊外で集団感染が発生しているにも拘らず、同州政府が感染経路を追うことに頼るだけで、感染拡大を防止するための都市封鎖等の“厳格かつ迅速な”措置を講じないと非難するコメントを出した。
隣接するビクトリア州は、かつて迅速な都市封鎖措置を講じて感染拡大を抑えることに成功していたが、直近で再び10人の新規感染者が発生し、しかもシドニーから移動してきた人たちであることが判明したことから、12月31日の晩からNSW州との州境を封鎖すると発表している。
モイ副会長は『フェアファックス・メディア』紙(1841年設立、本拠NSW州)のインタビューに答えて、“NSW州政府の無策によって、州民のみならず豪州全土が危機に陥ってしまう”とした上で、“ビクトリア州は昨年半ば、感染者急増ですぐさま州境封鎖を実施しているが、今回の事態からその措置が有効であったことがよく理解できる”と付言した。
ビクトリア州政府は、昨年8月の第2波急襲の際、豪州全体の死者909人のうち800人余りを出してしまったが、3ヵ月近くの間、メルボルン市街の都市封鎖、州境封鎖、更には夜間外出禁止措置を講じたことで感染拡大を封じ込んでおり、直近で新規感染者が出るまで、2ヵ月以上もゼロとなっていた。
しかし、NSW州のグラディス・ベレジクリアン知事は、直近2週間で新規感染者が170人も発生しているにも拘らず、シドニーの都市封鎖、マスク着用の義務化、スポーツ競技場等の入場制限措置を講じることに否定的である。
メルボルン大学(1853年設立の公立大学)疫学者のトニー・ブレイクリィ教授も、シドニー北部ビーチで集団感染が発生した際、2日か3日以内に都市封鎖措置を講じるべきであったと批判した。
同教授は、“州政府は行動が遅い”とした上で、豪州内の他の専門家と同様、同州政府が何故マスク着用義務化さえにも消極的なのかと、疑問の声を上げている。
ただ、ベレジクリアン首相は1月2日夕、マスク着用義務化不要との方針を少々変更した模様で、1月2日深夜からショッピングセンター、公共交通機関、映画館等の娯楽施設内でのマスク着用を義務化するとし、1月4日以降は違反者に罰金を科すこととすると発表した。
なお、12月に入って、感染状況が下火になっていた豪州では、多くの州がクリスマスシーズンでの規制緩和を行い、州境も再開されていた。
同日付豪州『キャンベラ・タイムズ』紙:「感染抑制のためシドニーでマスク着用義務化」
NSW州政府は1月2日夕、COVID-19感染者が更に7人出たことから、シドニー市街の屋内等でのマスク着用義務化措置を講じると発表した。
ベレジクリアン州知事はこれまで、都市封鎖や行動規制措置に反対であったが、“経済活動を止めることはしないが、感染抑制のためにはマスク着用義務化は不可欠だと考えるようになった”と説明している。
なお、マスク着用義務違反者には、1月4日以降200豪州ドル(約1万5,500円)の罰金が科される。
閉じる
5月13日付米
『フォリン・ポリシー』オンラインニュース:「中国が豪州に制裁を加える理由」
中国政府は今週初め、突然、豪州大手食肉業者4社からの牛肉の輸入を停止すると発表した。
豪州政府は先月、COVID-19感染流行問題に関し、WHOから独立した国際調査団による調査を要求している。
中国外交部(省に相当)の趙立堅(チョウ・リーチアン)報道官は、豪州による独立調査の要求とは無関係で、輸入規則上の違反行為があったからだと強調した。
しかし、COVID-19問題に関わる中国側反応は異常で、武漢(ウーハン)における透明性かつ多面的な調査を許さないどころか、中国人研究者の調査までも拒んでいる。
かかる対応より、中国側に隠そうとしている何かがある-例えば、野生動物取引規制の杜撰さや、ウィルス研究所での事故等-という疑念の他、中国自身の偏執的な体制までもが浮かび上がってきている。
<貿易制裁>
中国はこれまで、自国政策に批判的な国々に対して、貿易による制裁行為を繰り返してきている。
例えば、2010年にノルウェー政府が、中国人反体制活動家の劉曉波氏(リウ・シャオポー、1955~2017年)にノーベル平和賞授賞を決定したことに抗議して、ノルウェー産サーモンの輸入停止措置を講じている。
また、韓国政府が2016年、米国製ミサイル防衛システム設置を受け入れたところ、中国に進出する韓国企業に対して、様々な嫌がらせ行為が横行した。
そこで、豪州に対して次に考えられるのが、その他貿易全般に対するボイコット扇動行為である。
<アジアの覇権>
豪州にとって中国は、食肉のみならず資源輸出において最大の向け先である。
ただ、長い貿易関係等を通じて、豪州は中国に対して、世界に逆行するような支配的体制や、地政学的な交戦体質に嫌気を感じ始めている。
当初、豪州は、アジアにおいては人種的差別があるのかと考えてきたが、今日では、アジア覇権を進めている大国となった中国の脅威にさらされるのは、東南アジアや太平洋諸国と同じだと感じている。
<台湾等への圧力>
台湾政府は、COVID-19感染初期段階から徹底的な措置を講じて感染拡大を防いだ。
このことから、WHO加盟国から台湾がはずされている事態が、余計注目を浴びることになっている。
ただ、米議会報告にあるとおり、台湾が注目されることが面白くない中国は、予想どおり、台湾に対する圧力、特に台湾独立派への脅しを強めている。
そして同様に、香港への圧力も忘れておらず、今度は、中国国歌への侮辱行為を禁止する国歌条例に基づき、香港市民への締め付けを強化している。
<中国機密情報漏洩>
冒頭で触れたとおり、中国政府としてはCOVID-19問題に関し、国内外からの批判に対して非常に頑なな対応に出ると同時に、実情について機密保持を貫いている。
しかし、この程『フォリン・ポリシー』が中国政府の機密情報を入手した。
内容詳細については目下解析中であるが、当該情報がどのようにして漏洩したか、また、その内容の一部について、ジャーナリストのアイザック・ストーン・フィッシュ氏(『ワシントン・ポスト』紙コラムニスト)及び調査員のマリア・クロール・シンクレア氏(宇宙・先端技術開発関連研究専門)が解説している。
それによると、中国人民解放軍国防技科大学(1953年設立)関係者から入手したもので、COVID-19感染に関し、軍が得ている情報では、中国が公式に発表している感染者8万8,423人、死者4,633人という数値より、実際は遥かに多いというデータがあるという。
一説には、感染都市が230以上に及び、感染者総数も64万人超にも上ると読み取れるという。
なお、“地の掟(注後記)”が徹底されている中国において、かかる機密情報が漏洩するのは非常に稀であるが、おそらく体制不満分子が存在するとみられる。
例えば昨年、新疆ウィグル自治区において、中国政府によるウィグル族の大量強制収容問題(中国主張の再教育キャンプ)が白日の下にさらされたのも、同様と考えられる。
同日付豪州『キャンベラ・タイムズ』紙:「中国、牛肉・大麦取引での協議を拒否」
中国政府が突然宣言した、豪州産牛肉取引停止及び大麦輸入制限について、中国政府は豪州側協議要請を無視している。
サーモン・バーミンガム貿易相は5月13日、“豪州政府からの協議要請について、中国側から一切回答が得られていない”と語った。
ただ、同相は後に、中国向け輸出業者と中国税関側と直接交渉することが妥当だと言及した。
背景には、西オーストラリア州、クィーンズランド州及びビクトリア州の知事らが異口同音に、各州生産品は中国が最重要輸出先であるので、政治問題化して欲しくないとの声を上げたことが考えられる。
実は、スコット・モリソン首相が、COVID-19感染問題に関し、国際調査団派遣を主張し始めて以来、中豪関係は非常に緊迫している。
まず、駐豪中国大使が、もし豪州首相がそのような主張に固執するなら、中国側は豪州産品のボイコットもあり得ると脅した。
そしてこの程、中国側は突然、豪州産牛肉の輸入停止と、同大麦への80%関税賦課を発表したものである。
(注)血の掟:シチリアのマフィアにおける約定。沈黙の掟、オメルタの掟などとも言う。マフィアのメンバーになるための誓いをするとき、互いの親指に針を刺して血を出し、それを重ね血が交わることで一族に加わったとする儀式を行うことからこの名が付いた。これによって、いかなることがあっても組織の秘密を守ることが求められ、メンバーになるときこれを誓約する。これに反して秘密を暴露した場合は、激しい制裁が加えられる。
閉じる