日本医師会は新型コロナウィルス(COVID-19)感染に関わり、4月1日の段階で“医療危機的状況宣言”を出し、安倍政権に対して、緊急事態宣言発令含めた可及的速やかな対応を求めた。結局、政府発令は4月7日まで遅れ、依然感染拡大が止まりそうもない。そしてこの程、同医師会会長が、ワクチン開発を急がねば、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピック大会の開催も危ぶまれると、政府側の迅速な対応を求めて警告した、と欧米メディアも関心を持って報じている。
4月28日付米
『ロイター通信』:「日本医師会代表;緊急事態対策の強化・継続なくば、2021年の東京オリンピック開催も“困難”と警告」
日本医師会の横倉義武会長(75歳、注後記)は4月28日、日本全国に対する緊急事態宣言解除を考えるのは早すぎるとした上で、COVID-19のワクチン開発が間に合わなければ、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピック大会開催も危ういと警告した。
日本医師会代表の発言は、安倍晋三政権が、目下5月6日までとしている緊急事態宣言対象期間経過後の対応について、更に慎重にならざるを得ない空気を醸成している。
同会長は、日本におけるCOVID-19感染検査はまだ数的に不十分のため、感染が抑制できているのか判断はできないとし、“従って、全国の緊急事態宣言解除は時期尚早”だと強調した。
『NHK』報道によると、東京都における4月27日の感染者は39人に留まり、3月30日以来の低水準となったという。
この結果、4月27日現在、日本全体での感染者は1万3,614人、死者は394人と、欧米諸国に比較してまだ低いが、病床が不足しないようにするため、感染検査が低く抑えられているとの批判の声は上がっている。
同会長は更に、医療事業者に対する防護服や医療用マスクが絶対的に不足している現状について厳しく非難した。
数ヵ国の研究機関で、ワクチンや治療薬の開発が続けられているが、効果及び安全を確認しながらの臨床実験には数ヵ月を要し、感染者全てに有効な対策実施にはまだ暫くかかるとみられる。
なお、『讀賣新聞』は、日本政府が早ければ5月にも、米ギリアド・サイエンシズ(1987年設立のバイオ医薬品研究開発企業)のレムデシビル(エボラ出血熱等治療に開発された抗ウィルス役)の採用を決める見込みだと報じている。
一方、富士レビオが4月27日、COVID-19の感染有無を短時間で行える抗原検査用の検査キット提供につき、厚生労働省に許可申請をしたと同省が明らかにした。
これを受けて、同社の親会社である、みらかホールディングス(1950年設立の臨床検査企業の持株会社、東証1部上場)の4月28日株価は、全体が▼0.2%下落する中、+4.7%も値を上げている。
同日付英国『ザ・ガーディアン』紙:「日本医師会代表、2021年東京オリンピック開催に懐疑的」
横倉会長は、“東京大会を開催すべきではない、と言うつもりはない”としながらも、“COVID-19感染流行は、世界に拡大している問題であるため、画期的なワクチン開発がタイムリーになされねば、現下の状況では、来年の東京大会開催も困難と思われる”と言及した。
感染症専門の岩田健太郎教授(48歳、神戸大学)も4月28日、“現下の情勢だと、来年7月、8月での東京大会開催は無理としか言いようがない”とした上で、“それでも敢えて開催するとしたら、無観客、あるいは、競技・参加選手をかなり絞っての挙行とせざるを得ないだろうと思う”と語っている。
(注)横倉義武:福岡県出身。2012年に第19代日本医師会会長就任。2017年に、第68代世界医師会会長に選任。元運輸相の古賀誠自民党衆議院議員(福岡県出身)の元後援会長。
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東京電力(TEPCO)福島第一原発の処理済み汚染水の処分方法が、海洋放出、大気放出、及び両者の併用の3ケースに絞られた。監督官庁の経済産業省の小委員会が纏めた検討案を同省が公表した。前例に倣った処分方法とされているが、地元の漁業・農業関係者らからは、風評被害や健康への影響を懸念して強い反対の声が上がっている。海外メディアも一斉に報じている。
12月24日付米
『ワシントン・ポスト』紙(
『ブルームバーグ』配信):「日本が汚染水を海洋放出することになるかも知れない理由」
TEPCOは、福島第一原発に保管している約100万立法メーター(オリンピック用プール400個分)の処理済み汚染水を太平洋に放出する計画であることが判明した。
同社は、処理済み汚染水を貯蔵するタンクを1,000基有するが、依然毎日100立法メーターの汚染水が発生していることから、2022年半ばには満杯となると予想するため、それまでに汚染水の処分方法を纏める必要が出ていた。
溶け落ちた核燃料を冷やす注水で生じる汚染水は、多核種除去設備(ALPS)で処理しても、放射性物質のトリチウム(三重水素)が取り切れずに残るが、放射性セシウム等に比べて放射線が弱く、国内外の原子力施設では、濃度等を管理して流している。
今回明らかになったのは、経済産業省が12月23日に発表した、同省の技術小委員会が検討した処理方法の纏め報告であり、それによると、海洋放出、大気放出、及び両者の併用の3ケースが最終案として挙げられた。
1.トリチウムの安全性
カナダ原子力安全委員会(2000年5月発足のカナダ連邦政府の独立組織)によると、数十億ベクレル(放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数(放射能)を表す単位)のトリチウムを摂取しない限り、人体に影響は出ないとする。
TEPCOがリリースした今年3月31日時点の資料によれば、処理済み汚染水のトリチウムは1リットル当たり250万ベクレルだという。
因みに、1本のバナナには15ベクレルのトリチウムが含まれ、1キログラム(2.2ポンド)のウラニウムは2,500万ベクレルのトリチウムがある。
2.トリチウムの処理方法
原子力専門家によれば、ほとんどの原発が少量のトリチウム等を河川や大洋に放出しているという。
米原子力規制委員会は、米国において、“安全が確認できた処理方法”に基づき“承認された量”のトリチウム等が放出されているが、データは全て公開されているとする。
世界的に放射線量の規制の基となっている、国際放射線防護委員会(前身が1924年に設立された、専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織)の提言によれば、人体が浴びる放射線量は1年当り1ミリシーベルト(人が受ける被ばく線量の単位)以下に留めるべきだとされている。
世界原子力協会(2001年設立の、原子力発電を推進し、原子力産業を支援する世界的な業界団体)の説明では、自然環境下で人は1年当り2.4ミリシーベルトの放射線を浴びているという。
因みに、CTスキャン(コンピューター断層撮影)で浴びる放射線量は10ミリシーベルトである。
3.保管タンク追加設置の可能性
TEPCOは、隣接する鳥類保護区ぎりぎりまでの500平方メーター(5,400平方フィート)の木々を切り倒し、1000基余りの保管タンクを設置したが、これ以上土地を確保することは困難であるとしている。
4.海洋放出への反対の声
福島県の漁業関係者は、風評被害を恐れて真っ向から反対している。今現在でも、同地域の魚介類・農産物について、20余りの国が輸入禁止措置を取っており、問題が更に深刻化することを懸念している。
なお、韓国が海洋放出に懸念を表明しているが、海流の関係で福島において放出された処理水が朝鮮半島まで流れていくことは考えられない。
一方、TEPCOの川村隆会長及び原子力規制委員会前委員長の田中俊一氏は、海洋放出について理解を求めたいと強調している。
5.最終処理方法の決定
経済産業省の同小委員会から正式検討結果報告が、2020年の初めに安倍晋三政権に提出されることになるが、以降地元などの関係者の意見を聴いた上で、最終処分方法を決定することになる。
なお、国際原子力機関(IAEA、1957年設立の、原子力の平和的利用の促進及び原子力の軍事利用(核兵器開発)の防止を目的とする、国連の保護下にある自治機関)は今年9月、全ての関係者を引き込んだ上で、早急な処理方法の決定を行う必要があると主張している。
同日付フランス『AFP通信』:「日本、福島原発の汚染水を大海か大気に放出する意向」
資源エネルギー庁の高官は12月24日、『AFP通信』のインタビューに答えて、汚染水(編注;AFP通信は、“処理済み”という修飾語を付記していない)を長期間保管する案は全く不可能である旨コメントした。
また、小委員会における処理方法取り纏め会議において、3ケースについて反対する声は上がらなかったとも付言した。
IAEAは、適切に放射線量を除去するフィルターリングができれば、環境に影響を与えることなく希釈処理水を海洋放出することは可能だと表明している。
ただ、海洋放出や大気放出するとなれば、地元の漁業・農業関係者のみならず、近隣諸国から反対の声が上がることは必至である。
同日付韓国『ハンギョレ』紙:「日本、汚染水を海洋放出か大気放出する意向」
日本政府は、福島第一原発で保管されている汚染水(編注;韓国紙は“処理済み汚染水”という表現は使っていない)を、海洋放出するか大気放出するかの二つの方法に絞り込みつつある。
経済産業省傘下の専門家による小委員会が検討結果を公表したものだが、その際には海洋放出とする確率が高いというニュアンスで説明された。
同小委員会は2016年から汚染水の処理方法につき検討を重ねてきたが、地下埋設等の方法は不採用とし、世界で前例がある海洋放出か大気放出の方法を選択した。
同小委員会では、放出にどの位の期間がかかるのか明言されていないが、貯蔵された汚染水の量から判断して、少なくとも10年はかかるものとみられる。
ただ、日本国内でも海洋放出に対する反対の声は大きく、『讀賣新聞』によると、福島県のいわき市漁業協同組合長は、“海洋放出との結論は拙速すぎる”とし、“漁業の将来に大きな負担を強いる”とコメントしている。
なお、日本政府は、ALPSによって汚染水からトリチウムを除く62種類の放射線物質を除去することが可能で、放射線含有量が基準値以下に引き下げられるとして、”処理済み“との表現を用いている。
しかし、ALPSによる処理が始まった2018年9月以降のデータをみると、75万トン、汚染水全体の80%以上が依然基準値以上の放射線含有量となっている。
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