米・英・シリア・ロシアメディア;ISと有志連合の戦いの行方は?(3)-安保理の後押し(2015/12/21)
12月17日付
Globali「イスラム過激派組織イスラミックステート(IS)と有志連合の戦いの行方は?(2)」で触れたとおり、野党・共和党から弱腰外交と非難されたオバマ大統領が、IS掃討作戦に積極的に動き出しただけでなく、英国、フランス、ロシアの協調に加えて、ドイツも積極的に関わり始めている。そして今度は、国連安全保障理事会が、資金面でISを封じ込めようと、ISを支援した個人・団体に資産凍結や渡航禁止、また、武器禁輸などの制裁を科す決議案を全会一致で採択したと各国メディアが伝えた。
12月17日付米
『CBSニュース』は、「国連安保理、IS資金遮断を決議」と題して、「国連安全保障理事会は12月17日、理事国15ヵ国の財務相会合を開き、ISのテロ活動等を弱体化させるため、数十億ドル(数千億円)に上る資金提供の道を絶つための政策についての決議を全会一致で採択した。ISはこれまで、石油密売、薬物密輸、身代金目的の誘拐、シリアやイラクの歴史的遺物の売買などを通じて多くの資金を集めている。...
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12月17日付米
『CBSニュース』は、「国連安保理、IS資金遮断を決議」と題して、「国連安全保障理事会は12月17日、理事国15ヵ国の財務相会合を開き、ISのテロ活動等を弱体化させるため、数十億ドル(数千億円)に上る資金提供の道を絶つための政策についての決議を全会一致で採択した。ISはこれまで、石油密売、薬物密輸、身代金目的の誘拐、シリアやイラクの歴史的遺物の売買などを通じて多くの資金を集めている。そこで米国ルー財務長官のリードで国連安保理は、ISへの資金提供に関わった個人・団体に資産凍結や渡航禁止、また、武器禁輸などの制裁を科す決議案を採択したもの。」と報じた。
12月18日付シリア
『シリア・アラブニュース』(1965年創刊の国営通信)は、「国連安保理、テログループの資金封じ」と題して、「国連安保理でロシアのチュルキン国連大使は、ISが搾取した大量の原油が、シリアからトルコの国境を越えてトルコの石油精製所に運び込まれており、この原油密売によってISは、一日当り150万ドル(約1億8千万円)の資金を得ていると糾弾した。更に同大使は、ロシアの空爆によって原油密売ルートを絶つことに成功したが、ISは依然、その他の天然資源、農作物、工業製品などの売買で年間7億ドル(約840億円)の収入を得ているとも付け加えた。」と伝えた。
また、同日付ロシア
『ロシア国営テレビ』は、「国連安保理、IS資金封じを狙った決議案を全会一致で採択」と題して、「今回の決議案は、各国にIS資金源遮断のため何を履行したかを120日以内に報告すること、また、国連潘基文(パン・ギムン)事務総長にIS資金源を洗い出す報告書を45日以内にまとめるよう求めた。なお、同決議案が採択される前の12月15日、米ケリー国務長官がモスクワを訪問し、ロシアのラブロフ外相と会談して、シリア問題について米ロ間の歩み寄りを図っており、プーチン大統領も12月17日、シリア問題に関し米ロ間の意見の相違はかなり狭められたと強調していた。」と報じた。
一方、12月17日付米
『ABCニュース』は、「国連決議を受けて、米人二人がテロ支援容疑で逮捕」と題して、「国連のIS制裁決議が採択された12月17日、米当局は、ペンシルベニア州の19歳の男を、ISを支援する目的で57ものツイッター・アカウントを保有・運営した容疑で逮捕し、また、カリフォルニア州の22歳の男を、IS戦闘員になるために出国しようとしたところを拘束した。」と伝えた。
更に、12月18日付英
『ハフィントン・ポスト英国版』は、「アノニマス、ISに更なる警告」と題して、「国際的ハッカーグループのアノニマス(注後記)は12月18日、テロリストグループのISに対して新たな攻撃を仕掛けると発表した。ISとインターネットでつながっている世界中のアカウントを焙り出すというもので、既に、IS支援者と認められる2万人のソーシャル・メディアアカウントを特定したという。なお、アノニマスは先月、ISによるパリでの無差別テロ事件を受けて、“パリ作戦”と題したISネット攻撃を仕掛ける反ISキャンペーンを展開するとしていたが、直近数週間では、IS支援者と無関係なネット・アカウントも攻撃されたとして非難されていた。」と報じた。
なお、国連安保理は12月18日、シリアの和平を目指す初めての決議案を全会一致で採択している。決議は、シリア政府(アサド政権)と反体制派の双方が参加する「政権移行プロセス」についての公式な交渉を、来年1月初旬を目処に開く等、シリア内戦終結、和平に向けた段階的なステップを踏むよう、国連がリードすることを求めたもの。これまでの国連安保理決議案は、常任理事国のロシアや中国の拒否権行使で一切採択されていなかった。
(注)アノニマス:ハクティビズムという、政治的な意思表示や政治目的の実現のために、ハッキングを手段として利用する行為、もしくはそのような行動をインターネット上で取る活動家の国際的ネットワーク集団。
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米メディア;大統領選候補トランプ氏のイスラム教徒入国禁止発言に賛否両論(2015/12/14)
12月11日付【
風の流れ】“トランプ候補「イスラム入国禁止発言」の波紋”の中で触れたとおり、トランプ氏の発言が大きな波紋を呼んでいて、米国ネットの世論調査で共和党支持者の65%がトランプ発言を支持しているものの、共和党議員の中には、共和党が支持する保守主義ではないと強烈に批判をする議員もいる。トランプ氏本人が発言を撤回しないことから、この問題は依然くすぶり続けている。
12月11日付
『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「強制収容所生れのドリス松井下院議員がトランプ発言に反発」との見出しで、「共和党の大統領候補の中で最も支持を集めているドナルド・トランプ氏(不動産王、69歳)は12月8日のABCテレビ番組で、自身は第二次大戦時のフランクリン・ルーズベルト大統領(当時)が行ったと同様、米国民に危害を及ぼす恐れのあるイスラム教徒の入国を暫く禁止するよう求めているだけであると主張した。...
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12月11日付
『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「強制収容所生れのドリス松井下院議員がトランプ発言に反発」との見出しで、「共和党の大統領候補の中で最も支持を集めているドナルド・トランプ氏(不動産王、69歳)は12月8日のABCテレビ番組で、自身は第二次大戦時のフランクリン・ルーズベルト大統領(当時)が行ったと同様、米国民に危害を及ぼす恐れのあるイスラム教徒の入国を暫く禁止するよう求めているだけであると主張した。しかし、これまでは出自に触れることを嫌っていた、忌まわしい強制収容所生れのドリス松井下院議員(カリフォルニア州サクラメント選出の民主党議員、71歳)が、同大統領は罪もない12万人の日系人を1942~1945年の間、強制収容所に連行、隔離したが、1988年に米議会が当時の判断は誤りだったとする法律を制定している。トランプ氏はこの事実に触れていないことから、歴史を忘れた愚かな主張だと厳しく批判した。」と報じた。
一方、同日付
『ニューヨーク・ポスト』紙は、「トランプ氏、ヒラリー・クリントン氏こそシリア難民を生み出した張本人と批判」との見出しで、「民主党の大統領選候補者のヒラリー・クリントン氏(68歳)が、トランプ氏発言は危険思想だと非難していることに反論して、トランプ氏は12月11日、クリントン氏が国務長官時代に行った間違った判断・行動によって、シリアやイラクから数百万人の難民が生み出されたと強烈に批判した。同氏はペンシルベニア州の共和党大会で発言したものだが、中には1,000ドル(約12万円)もの参加費を払って入場した抗議の人達から、同氏の発言を止めさせようとする妨害が3度も起された。」と伝えた。
また、同日付
『CBSニュース』は、「米国人のほぼ半数がまた新たなテロ発生を懸念」との見出しで、「CBSの世論調査の結果、サン・バーナーディーノ(カリフォルニア州南部、L.A.東の郊外都市)のテロ事件を受けて、米国人の44%が、また新たなテロが数ヵ月以内に発生すると懸念した。この数値は、2011年9月11日の同時テロ発生直後以来最も高いものとなった。テロの脅威もあってか、強気な発言で知られるトランプ氏が、大統領選の共和党候補の中で35%もの高い支持を得ており、2位テッド・クルーズ氏(テキサス州選出上院議員、44歳)の16%、3位ベン・カーソン氏(医師、64歳)を大きく引き離している。」と報じた。
更に、同日付
『Foxニュース』は、「直近のテロ事件で、地元イスラム教徒が差別の標的となる恐れ」との見出しで、「パリとサン・バーナーディーノで続けて発生したテロ事件のため、地元のイスラム教徒たちは、言われもない差別に曝されていると訴えた。あるイスラム教徒は、今回の差別は、9.11同時多発テロのときよりひどいと嘆いている。特に、ヒジャブ(髪を覆うスカーフ)をまとっているイスラム教徒の女性が標的になりやすく、ある女性は、怖くて一歩も家から出られないと告白している。」と伝えた。
12月12日付
『朝日新聞』の天声人語によると、米国では、日本ほど無邪気に「メリークリスマス」と口にできない。そこで、他の宗教を信仰する人への配慮から、挨拶も宣伝も、無難な「ハッピーホリデイズ」という言葉が広まった。また、公立学校では「聖夜(きよしこの夜)」もだめで、クリスマスツリーもコミュニティツリーと呼ばれるという。多文化主義の流れの中で、少数者を尊重してきた国ならばの「好ましい」慣習ではあろう。しかし、それらを「きれいごと」と苦々しくみる人もいようから、トランプ氏のように「建前優先の社会に一石を投じる」ような、本音で語ってくれる候補者が支持されているのかも知れない。
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